4-2.「本日は学習日和」
「――で、あたしの所に来たってワケ?」
私はこっくりと、目の前の美女に向かって首を縦に振って見せた。
いえす、ざっつらいと。
人間界にいたときに覚えた片言の異国語で答えて見せたら、
「いえ、正座辛い?聞いてないわよ、別にあんたが正座辛いかどうかなんて」
私達が座っているのは、椅子だ。
「いえ、そうではなくて。その通りです」
「どっちよ!?」
「その通りだといいたかっただけです。正座は辛くありません、意外に痺れた感じが気持ちいいですよね、うふふ」
「変態! やめて、近寄らないで」
美女が顔を引きつらせた。
「そういわれると近づきたくなりまして。怯えた顔ってなんでこんなにそそるんでしょう」
ずずいと身を寄せると、本気で彼女は戦いたらしく後退る様子を見せた。
そんな、私などにおびえなくても。
彼女は立派な魔族(力としては中の上くらい)なので、私のような人間なんて片手で一捻りできるはずなのに。ちょっと傷ついてしまう。
私はこほんと、咳払いして本題に戻す事にした。
「というわけで、相談に着たんですよ、スイ=クワップ様」
「やめて、フルネームで呼ぶの。それ、人間界では爆乳のっ! たゆんたゆんな乳でか娘のことをいう言葉にそっくりって聞いたわ。イヤミよ、あたしはどうせ貧乳よ!」
「そんな。立派なAAAカップじゃありませんか」
「立派なチチしたあんたに言われるとすんごい腹がたつわ、死ね」
「すいません、代わりに脳細胞が毎日死んでいるので勘弁してください」
「・・・あんたの場合、脳細胞死にすぎじゃない?」
「とりあえず、普通に生活する分には支障ない程度には生きのこってます」
「・・・そう」
あれ、なんだか可哀想な顔をされた。
なんでだろうか。
「えーと、そう、相談に来たっていったわね」
あまつさえ、取り繕うような笑顔でごまかされた。
なんだかショック・・・…のような気がする。
理由はよくわからないが、ここはショックを受ける所だ、と私の生き残った脳細胞のどこからかがサインを出してくるのだ。
しかし、理由がよくわからない為、ショックを受けていいのかもよくわからない。
結局私は首を傾げつつも、スイ=クワップ様改め、スイ様の言葉に頷いて、「魔王様に気に入っていただけないのは何故なのか」という件についてアドバイスをもらう事にした。
自室へ戻る途中、彼女のことを思い出すとは、我ながら今日はなんと冴えているのだろう。
私は魔王様から追い出された後、彼女のことを思い出した。そこで、自室へ向かう道を通り過ぎて、ずんずんと彼女に与えられている城の一角へと向かったのだ。
こんな時には彼女を頼るに限る。何度助けてもらったことか。
彼女はひょんなことでできた、この魔界での私の友達だ。
身分としては召使の私などより上なので、様づけで呼ばせて頂いているけれど、私は友達だと思っている。
――彼女とはじめてあったときの台詞を、私は今でも覚えている。
「あんた、魔王様になれなれしすぎるのよ!」というアドバイスだった。
私は翌日、魔王様に「私は魔王様になれなれしすぎですか?」とお聞きしたら、「今頃気づいたか、ドアホ」と褒められた。
彼女は本当にいい人だ。
そんな彼女にことあるごとにアドバイスを求めに訊ねていたら、ある日など「うっとうしいのよ、あんた!」と照れ隠しの一言を貰った。
真に可愛らしい。人間界でも、こういう友達がいた。
(友情っていいな)
懐かしく思いながら、面倒見のいい彼女と友情を深めている今日この頃なのだった。