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2-1. 「でんでんはアイの架け橋」

 ほぼ日課、とは言わないが隔日課といってもイイほどの頻度で、トリフェ様との強制的なお茶会は開かれる。

 魔王様を送り出し、「本日の暇つぶし」を作成中に聞こえる不穏な音――――自室の扉を叩くあの音が、私の平穏なる生活を脅かす、その予兆だ。

 あの独特の扉の叩き方。間違いない! 間違って欲しいけど、トリフェ様だ。

 叩き方がメイド頭と違うからよくわかる。


(ああ、今日もかい!)


 彼は私の部屋を今日もまた訪れようというのだろう。なんて迷惑な。

 瞬時に作り上げられる営業スマイル。

 私は精一杯、それはそれは優しい笑顔を作りあげる。

 表情筋は着実に日々鍛えられていってるに違いない。

(そうとも、私は出来る使用人!)

 使用人とは時に演じなくてはいけない。

 嫌なことがあっても、笑顔を作る。

 これは職場で上手くやっていくための必須スキルである。

 このスキルはこんな時にこそ役立てるべき。

 顔を作りでもしない限り、私は絶対嫌そうな顔をしてしまうだろう。それはまずい。

 作り上げた笑顔のまま、扉を開け私は即座に一言叩き込んだ。

「トリフェ様、それで今日は私にどのような御用ですか?」

 彼はぽつりと答えた。

「相談したい事がある」

 今日は真面目な用件か、とほっと胸をなでおろしたのもつかの間だった。



「最愛の、魔界一愛らしい妹に虫が付いたらしいっ!」



 最愛の、という言葉を口に上らせた瞬間あの貴族の坊ちゃん風に整った銀髪紫目の高貴な顔立ちが盛大に崩れる。

 デレデレと表現しなおしてもいい。しかし、その後の変化も凄い。

 虫が付いた、と口にした瞬間、この世のものとは思えないほど恐ろしい顔になった。鬼か阿修羅か。いや、魔物だった。

 ギャップの差が凄すぎる。アレが、コレになるなんて・・・!

 恐怖に顔を引きつらせなかった私を使用人の鑑と褒めていただきたい。

「どうすればいいだろうか?ああ、妹よ・・・」

 妹、と口にした瞬間、またデレデレとしたお顔に様変わりなさった。

 どうすればというのなら、『まず、その前にお顔を直されたほうがいいと思います』と言いたいのを私は懸命に堪えるはめになった。



 私の仕事は、魔王様の召使。

 具体的な職務内容は、魔王様のお世話。

 今日は蛍光オレンジのトランクスと黒地に金ラメ入りのボクサーパンツを薦めてみたが、残念ながら魔王様には気に入っていただけなかったようである。

 そう、私がお世話する対象は魔王様であって、決して目の前の人型をした魔物様のお世話ではない。

 接触嫌悪症の魔王様をお世話できる貴重な存在として、他の方のお世話は免除されている・・・はずだ。

 なんで、2日に一回くらいのペースで、私はこのひととお茶をしているのだろう?

 結局私は部屋に彼を招きいれ、どういうわけだか今、トリフェ様の為にお茶を注ぐハメになっている。もうなんで?

 いつも帰り際に、せめて来る前に連絡して欲しいといっているのに、一向に連絡をもらったことはない。

 連絡があれば今日は都合が悪いと一言断る事が出来るのに。

 遠まわしな言い方がいけないのか。

しかし、

「予めおっしゃっていただければ、もう少しお持て成しできると思いますので、ご連絡頂けると嬉しいです」

 何度もこういい続けられたら普通は気づくものではないだろうか。

 それとも、抜き打ち検査のつもり?

 あるいは、既に定期的といってもいいペースで来るので、もはや連絡をしなくてもわかると考えているのだろうか?

 全く以って意志が伝わらないのがもどかしい。直接言わなければ伝わらないものなの?

 ああ、そうか。コレが世に言うKYというものか。

 空気を読んでいただきたい。お願いだから。

 これが無害で顔の綺麗なだけなにーちゃんなら観賞用として楽しめるだろうが、この御仁、生憎と人間じゃなくて魔物。

しかも魔界を統べる魔王様の側近という方である。扱いを間違えれば爆発する爆弾のようなものだ。特殊能力などない人間など一捻り。勿論私も類に漏れないだろう。

 私も命は惜しい、面と向かって来るなとはいえない。ウカツにご機嫌を損ねるわけにはいかないのである。

 かくして私は、また来たんかいと嫌そうな顔をしそうになるのを抑えて、彼が来るたびに無理やり笑顔を浮かべて彼をお出迎えしているのであった。


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