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7-3.「一番のご褒美」

 

 約束の日が来て、私は魔王様と共にピクニックにでかけた。

 場所は当日まで知らせなかったのだが、現地へつれてったところ、魔王様の形のいい眉はみるみると急角度に釣りあがった。魔王様が大きく口を開く。私は慌てて耳元へ手をやろうとしたが、

「己はアホかーーーーー」

間に合わなかった。

 耳がきーんとなる。

 洞窟では音が必要以上に響く。

 そう、私の現在地は洞窟の入り口、入ってすぐの場所だった。

 洞窟内は暗く、明りを持たなければ一歩先も見えないこの空間が、一体どれほど奥まで続いていることか私には想像もつかなかった。

 右手にはお弁当を限界まで詰め込んだバスケット・・・・・・を先ほどまで持ってふらついていたが、魔王様が私のその余りにも無様な姿に哀れみを覚えたらしく、奪うようにして(但し、お弁当が寄り弁にならない程度の絶妙な力加減で)、今では魔王様がそのお力でふよふよと浮かせて私達の後ろについてくるようにさせている。

 そのバスケットも一瞬揺らぎかけるほどの衝撃だった。

 私の繊細な耳もしばし使い物にならなくなった。じんじんとする。

「えぇと、何かいけませんでしたか」

「当たり前だ!」

「どうしてでしょう?」

「呪われし洞窟は禁域だ」

「抜け道をせっかく発見したんですが」

 呪われし洞窟とはその名の通り呪われているらしい。

 この洞窟はなんでも何十代か前の魔王の怨念がこもっているのだとか。

 この洞窟がそれだと、今知った。

 まぁ、確かにちょっと寒けがするけれど、最近は少し暑くなってきていたから涼を取るには丁度いいか、くらいにしか思っていなかった。

 呪われし洞窟、それは『呪われし』洞窟。そのまんますぎる。

 とてもセンスのないネーミングだと私はおもった。

 私に任せてくれたらもっと素敵な名前をつけてあげるのに。呪手異夢じゅていむとか。

 ジュテームとは、私の暮らしてた人間界の一部で使われている言葉で、愛しているを意味するらしい。

 呪いと愛とはどこか似ていると私はおもう。どちらも根底に執着があるのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、私は洞窟の奥への好奇心を捨て切れなかった。

 未練がましく、洞窟の入り口から中のほうをうかがった。奥のほうはやはり暗くて全く見えない。

 どんなものがあるのだろう。呪われているといくらいだから、足を踏み入れたら閉じ込められるとか、恐ろしい罠が発動するとかそういったものだろうか。

「面白そうな洞窟だとおもったんですが」

 私は残念そうにつぶやいた。

「危険だから立ち入り禁止にしているんだ。・・・・・・大体、コレをどこで見つけた」

「露天風呂の覗きに絶好スポットを探索してたら、裏手に」

 私は全てを言う前に、魔王様にどつかれた。

「何のために探していたかとかはきかん。俺の血管がきれかねん」

「魔王様の体を鑑賞す・・・」

「言うな! 耳が穢れる!」

「・・・・・・えーと、とりあえず。ここの探索はだめってことですね?」

「そうだ。お前にしては理解が早かったな」

「むーん、残念です」

「お前への褒美は別のものにすることにする。わかったら帰るぞ」

「・・・・・・くださるんですか?」

「働きに対しては労ってやらないといけないからな」

「でも、魔王様お忙しい中お時間作ってくださったのに」

 結局洞窟探検はできなかったが、時間を割いてくださったのは間違いない。

「その延長だ。気にするな。・・・・・・帰るぞ」

 しかめ面をしたまま、魔王様は私を連れて城へ帰還なさった。


(少しでも心にかけてもらえることこそ最大の褒美なのに)


 私はくすくすと笑った。

 魔王様が怪訝な顔でそれをご覧になっている。

「なんでもないです」

 そうか、とぶっきらぼうにつぶやく魔王様を見て、私の胸は温かくなった。




 そういえば。

 魔王様がいまだふよふよと浮かせて下さっているバスケットに目をやった。

「お弁当はどうしますか?」

 せっかく城の料理人に頼んで用意してもらったものだが、洞窟探検が中止になってしまった今、そのお弁当は不要なものとなるだろう。

 城では広い食堂で魔王様は好きなものを召し上がることができるのだから。

 けれど、魔王様はバスケットを一瞥し、首を振る。

「無論、無駄にはせん」

 おお、MOTTAINAI精神ですね。

 魔王様の見上げた心遣いに私はいっそう胸を熱くした。

「では、昼食に召し上がりますか? 準備を致します」

 厨房へ持ち込み、食堂でお召し上がりになれるよう体裁を整えようとバスケットに手を伸ばすが・・・・・・ふい、とバスケットは私の手元から離れていく。

「ちょっと、魔王様。私の魔王様よりも断然短い手を伸ばしても、その位置では届かないのですが」

「ああ」

「意地悪ですか? ああ、なるほど魔王様は好きな子にいじ」

「違う!」

「では、なぜ」

「せっかく弁当にしたのだ。城の庭にもいい感じの木陰がある。敷物を敷いてそちらで食えばいい。たまには野外で食うのもいいものだ。気分転換は必要だろう?――――勿論お前もつきあえよ? その量は俺だけでは食い切れんからな」

「・・・・・・っはい! 畏まりました」


 お弁当は、本当に美味しかった。

 本当に美味しかった。

 至急延長になったボーナスはこれでいいんじゃないかと、こっそり思う程度には。 

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