7-2.「一番のご褒美」
理不尽なお小言も魔王様からの愛だと受け止めて、聞き流すこと一刻。
その辺りで魔王様も話がそれていた事に気付いたらしい。
魔王様はこほんと咳払いをすると、仕切りなおした。
「それで、ボーナスのことだが」
尚、愛だと受け止めたのに話は聞き流したのは、私の耳の特殊な性能による所で、決してわざと聞き流そうとしたわけではないということだけは申し上げておく。本当に、わざとではないのだが、何故か途中から魔王様の美声が耳に入らなくなることがあるのだ、不思議である。
私の特殊な性能を持つ耳は『ボーナス』の所で本来の「聞く」能力を取り戻したらしく、私は
「はい、魔王様」
とお答えすることが出来た。
「お前は何が望みだ。やはり魂片で支給しておくか? お前の場合魔力に転化することはできないが、人間で言う貨幣の代わりに使えるぞ」
お前へのボーナス支給はDランクだ、とおっしゃって私の望みをお聞きになる。
本来であれば、魔王様ではなく、それぞれが仕える上司から言われるものだが、私の上司は厳密で言えば魔王様一人。
だからこそ、私は魔王様から直接ご褒美をいただける。
「Dランクってどれくらいですか?」
「まぁ、人間界でいえば、そこそこ裕福なものが一月に得られる賃金と同じほどかな」
「それ以下の望みであれば叶えてくださると?」
「・・・・・・ものによるが」
魔王様の歯切れの悪い言葉にダメもとで申し上げようと、
「では、ぱん・・・」
「ぱんつは却下!」
「そ、そんなに魔王様は私の気持ちを汲むのはお嫌ですか。ああ、なるほど。好きな子を苛めて喜ぶSな方なんですね」
魔王様の性癖が、いまここにあかされる!
「そんなわけあるかーーー!」
そんなわけでもなかったらしい。
「えぇと、それじゃあ・・・」
思いつかない。
魔王様に仕える以前より数倍裕福な暮らしをしている現在、特に欲しいものはなかった。
衣食住が保障され、さらに「菓子」などという嗜好品まで簡単に口にすることができるのだ――――しかも、経費で落とせる。
一体これ以上何を必要とするものがあるだろうか。
「それじゃあ・・・・・・」
ああ、そういえば物品でなくてもよいのだった。
何かをする権利でもいいとそういえばきいた気がする。
「魔王様、では望みを申し上げます」
「言ってみろ」
「今度、私が行きたいところに一緒にいってくださいませんか?」
いつか行ってみたいと思っていたところ。
一人で行くのはちょっと気が引けて、今まで足を踏み入れたことはなかったのだ。
「・・・・・・まあ、それくらいならよかろう」
「本当ですか?」
「ああ、二言はない」
「わかりました、楽しみにしています!」
私は顔を輝かせた。
今なら魔王様の頬に熱烈なベーゼをお送りしたい気分だ。
「では、お時間取れる日程など決まりましたらご連絡ください」
――魔王様とピクニックだ。
思えば、お仕えするようになってから、仕事でなく一緒にどこかへ出かけることはなかった。これが初めてだろう。
私は喜びのまま優雅に一礼すると、執務室を離れた。スキップで。