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7-1.「一番のご褒美」

 本日はボーナス支給の日である。

 ボーナス! なんという美しい響きだろうか。

 これを貰うのが嫌いだというひとは、私の長くはない人生の上で、いまだお目にかかったことはない。



 一年に二度あるこのボーナス支給日には、働きのランクに応じてご褒美がいただける。

 Sが一番最良で、次はA、その次はB、C、D、E、Fまでランク分けがされている。

 ボーナスは現物であったり、何かの権利であったり、金品であったりと、望むものに応じて支給の形態は異なるのが普通だ。

 流石にSランクであっても、「魔界が欲しい」などといった要望は叶えられないが、魔王様が過去滅ぼして支配下におさめてある国の一つや二つならばランクに応じて手に入れることもできるのだそうだ。おお、太っ腹!


 金品の場合は、一番多いのが「魂片タマカタ」を用いた支給方法。

 この魔界には貨幣というものはない。では、物々交換で物をやりとりするのかというとそれも少し違う。勿論、一部ではその方法での物品の授受は行われているので間違いではない。

 ただ、人間界においての「貨幣」にあたるものはあるのだ。

 それが「魂片」と呼ばれる生き物の魂の欠片を結晶化させたものであり、一般的にはそれを用いて必要なものを購入する。

 「魂片」の元は人間であったり、小さな小動物であったり、時には大型獣であったりもする。また、すでに死したもののそれであったり、今現在も生きている生き物の生気の一部であったりと様々だ。

 魂片とはそもそも、生命が活動するに当たって必要とされるエネルギーの塊なのだ。

 死したものの魂の方がエネルギー効率がよいため、純度が高く、価値は高い。

 これは魔界でくらす者たちの魔力にそのまま転化させることも、物品の流通に使うことも可能だ。

 外見はちょうど、薄く色づいた透明な石のような形をしている。形も様々で、魂片の元となった生き物がよほどそれに未練を残していたのか、バナナの形をしていたり、二つのおわんをひっくり返したような形をしているものもあったりする。

 見本として見せられたものの中に、それ以上に変わった形をしていたのはなかったが、他にもいろんな形があるらしい。

 いずれ他のものも見てみたいが、私がこの城で働いている間に見れる機会があるだろうか?

 とりあえず、見本はネコババしなければ手にとって見てもいいといわれたので、中の一つを私は取り上げてみた。

 

(なぜバナナなんだろう)


 気になる。

 バナナ、バナナ。

 昔は高価な食べ物だったらしいが、私が子供の頃にはすでに手ごろな値段で買えて、栄養価の高い優れた食物だと知られていた。

 そんな未練になるほどバナナが好きだなんて。特別なバナナなんだろうか。色はピンク。先端の少し手前がくびれていて、そこから先の部分がわずかに盛り上がっている歪な形だ。

 手にとってよくよく見てみようと思ったら、魔王様になぜか止められた。

 恥じらいを知れ、らしい。

 私には残念ながら、何故かよくわからなかった。

 そう申し上げると、人間の三大欲求の一つが最も大きく現れた形だからとおっしゃられた。

 バナナ、と三大欲求。つまりは食欲か。

「私、そんなに大食らいじゃありませんよ?一日5回くらい食べますけど」

「十分だ!と、いうかそんなにお前は食べてたのか!……まぁ、わからないなら、それでいい」

「うーん、一日4回に食べるのを減らせばいいんですか?」

 おなかがすくと仕事効率下がりますよ、と申し上げたら魔王様は呆れたようにため息をおつきになった。

 仕方ない、一日三食まで減らしてみるか。

 一回に食べる量を少し大きくして食いだめしてみよう。

 


+ + +


 人間界に流通する貨幣の場合、勝手に作られては、価値は酷く下がってしまう。

 魂片の場合も同じだ。だから、作ることができるのは魔界でも力が酷く強い、許可を得た一部のものしか作ることはできないらしい。

 その筆頭が魔王様であることはいうまでもない。

 つまり、魔王様であれば、この魂片を作ることができるというわけだ。

「ところで、私の魂もこの魂片にできるんですか?」

 私は気になることを聞いてみた。

 自分で作ることはできないが、自分が素体になるくらいはできないだろうかと思ったのだ。

 好奇心を隠せず、魔王様にわくわくとしながら尋ねたら、魔王様は難しい顔をなさった。

「できないことはないが、生きてるまま作るとなると、屑のような残念なできばえのものを作るか、あるいはお前が消耗して一月は足腰が立たないくらいの体になる覚悟がないと無理だな。・・・作ってみたいのか?」

「いいえ、一ヶ月も足腰が立たなくなるほど激しくされるなんて、私には荷が重うございます」

「・・・・・・その言い方はやめい。人聞きが悪い」

「はぁ」

「・・・・・・まあ、いい。どちらにせよお前の魂で作る気にはなれんな」

「私が動けなくなったら、魔王様のお世話をするものが不在になりますしねぇ」

「それもそうだが。・・・・・・お前の魂で作ったら、ぱんつの形をしていそうで嫌だ」

 ぱんつの形の魂片。

「・・・・・・まぁ、そうですよね」

 否定はしない。

 私を素体にしたら確かにその形になってもおかしくないだろう。

 私はいまだに魔王様に私推薦のぱんつをはかせて差し上げたいという野望は捨て去っていないのだから。

 しかし、魔王様はその答えがおきに召さなかったらしい。

「否定しろ!」

「魔王様は我侭ですねぇ」

 やはり、王ともなると我侭になるらしい。魔界で最強だ。逆らうものも殆どおるまい。

 彼が欲しいとなったものは全て意のままなのだから。

「言葉は正しく使え。どっちが我侭だ。いや、お前は我侭というより傍若無人か。お前ほど俺を振り回す召使など金輪際いないだろうな」

「お褒めに預かり光栄です」

 私は微笑んで深々と一礼した。

 魔王様から過大な期待をかけられているなど、なんて光栄に浴していることか。

「褒めておらん・・・・・・」

 魔王様は照れ隠しの一言を呟いている。


 私はつつましく心の中でく呟き返した。――――こいつめ、照れやさんだなぁ、と。


 その瞬間、魔王様がびくりと震え、盛大なくしゃみをなさった。

 照れ屋さんな魔王様が病でも得たのかと慌てたが、どうやら一時的なものだったらしく、魔界に住む者一同胸をなでおろしたのだが、何故か魔王様に「きっと、お前のせいだ」と理不尽に怒られることになった。

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