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幕間 「甘くてほろ苦いオマケ」-1


 暦では本日は2月14日とある。

 そう、あの日だ。

 人間界では、日頃お世話になっている相手に感謝の気持ちを込めて菓子やその他のプレゼントを贈ることになっている、Xデイである。

 私がお世話になっている方といえばもちろん魔王様!………とトリフェ様だ。


 * * *


「魔王様とトリフェ様の為に、今日のお茶会にあわせて甘味をお取り寄せいたしました。なんと56種類、全てチョコレートでございます。飽きが来ない工夫をしてみました」


 魔王様のお心に叶うよう、一生懸命考えてみたのだ。

 私は魔王様の召使。

 具体的な職務内容は、魔王様のお世話であるのは言うまでもない。

 魔王様に日々満足した生活を送っていただけるよう、お手伝いする身である。

 今のところ、彼に仕える唯一の召使ではあるものの、飽きられたらポイ…・・・捨てされるだけならまだよいが、うっかり殺されてはたまったものではない。

 その辺り、上手く立ち回ることができないと、この魔界で私達人間――――弱者は文字通り生きていけない。

 だからこそ、魔王様に喜んでいただけるよう、日々私は色々な工夫を凝らしているのだ。

 こう見えて、見えないところにも気を使っている。

 今日も、この趣向なら、きっとご満足いただけるだろう、という布陣で臨むことにした。

 56種類。これだけたくさんあれば私の感謝の程もわかろうというものだ。

 今は通販でこのようなものを人間界から輸入できるのだから、魔界も捨てたものではないなとしみじみ思う。


「飽きが来ない工夫。確かにそれは素晴らしいな。お前もやればできるのだな」

 魔王様は感嘆の声をあげた。


(…やればできる、の一言は余計です、魔王様)


 私の繊細な心を傷つける一言へのフォローはせず、早速魔王様はそのうちの一つ手にとってお召し上がりになった。

 傍らのトリフェ様もつられて一つ。

「お前はいらんのか?」

「今日は魔王様とトリフェ様の為に開いた会ですから。いりません」

「そうか」

 少し拍子抜けしたような調子で魔王様が言った。

 そんなにも私は甘味に対して食い意地を張っていただろうか?……張っていたかもしれない。

 しかし、今日この時だけは違うのだ。

 だって、今日は日頃お世話になっている方へ感謝をささげる日なのだから。


「はい。どんどん召し上がってください。たくさんありますから」

「そうか」

「はい、トリフェ様もお召し上がりになってください」

「ああ…無論」

 なぜか妙にアツイ視線がトリフェ様から注がれている気がして、私は落ち着かない。

 そんなに大量のチョコレートに感動したのだろうか。

 近場にあったチョコレートの包みを解き、トリフェ様の口につっこんだ。

「ほらほら、美味しいでしょう…今のところは」

 突っ込んだチョコレートが余程おいしかったのか、ごほごほ咳をしながらむせび泣くほど感動しているトリフェ様を放置して、私は魔王様に向かって「はい、あーん」とチョコレートを食べさせようとした。が、残念。つれない魔王様は、唇を固く閉じて拒否をなさった。

 魔王様は、本当に照れやさんだなぁと思う。

 魔王様は口元をガードしながら、私に向かって強張った表情を向けた。


「…まて、今のところは、とはなんだ。毒でももったか?!」

「まさか、世界で一番憎いガサガサ動く黒い妖精さんよりも、更に丈夫そうな魔王様方に、そんなわかりやすいことはいたしませんよ」

「…その例えは限りなく不愉快だが、お前よりは丈夫なことは否定せん。それに、毒が入っていたら見分けるくらいはできる。だから、口に入れる前にそもそも気づくだろうな…毒が入っている気配はしなかったし、確かに入っていなかった。これは只のチョコレートだ」

「あ。やっぱり見分けられるんですか」

「試そうとしてたのか」

「ほんの小指の先ほどだけ」

 私は親指と人差し指を使って、小指の大きさほどの空間を作って見せた。かわいらしくえへ、と笑ってみる。

 ――魔王様の凍りつくようなまなざしが私を貫いた。


(そんな、ちょっとした冗談なのに)


 魔王様は少しばかりもお心に余裕がないようである。 

「八つ裂きにされたいのか」

「いえ、切り刻まれてエクスタシーに浸る趣味などかけらもございません」

「そうか…ならば、何をやった?」

「いえ、何も」

「…本当か?」

 魔王様は物凄く不審な目で私を見つめてきた。

 失敬な。

「購入した物には一切手を加えておりませんのでご安心ください」

「…そうか。そういえば包みは解かれていなかったな。確かに」

「はい、そうです」

「ならば、良いか」

 私のはきはきとした返事にようやく安心なさったらしい。

 魔王様が別のチョコレートへと手を伸ばしていらっしゃるのを、私はにこにことした笑顔で見守った。

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