5-3.「甘くてほろ苦い」
仕事をとっとと片付けたらしいトリフェ様と私はお茶をしていた。
「・・・今日も、魔王陛下のお声が私の部屋まで響いた」
今朝の私と魔王様とのやりとりのことだろう。
「そうですか、やっぱり名物ですね」
お茶をすすりながら、私はちろりと横目にトリフェ様を見た。
窓の外の日の位置はまだ高い、といっていい。
日が沈むまでには暫く時間があるはずである。
本来ならこの時間にはまだ仕事をなさっていてもおかしくないはずだ。
なんでこの方は既に私の部屋にいらっしゃってるのだろう。
いや、わかっている。
この方は仕事がはやい、早すぎるのだ。
サボってるのじゃないのかと疑った事もあるのだが、他ならぬ魔王様からあいつほど仕事を熱心に片付ける奴はいないという言葉を聞いた。
普通の魔族の5倍くらいの速度で仕事をしているらしい。
だったら、こんな所でお茶してないで、その分もっと仕事をすればいいのに――――と魔王様に向かって呟いたら、息抜きがあるからこそ頑張れるみたいだぞと言われた。
息抜きくらいさせてやれ、とも。
(――――息抜きなら別の場所でしてくれればいいのに)
もう、この方とお茶をした回数を数えるのは諦めた。
諦めざるを得ないほどの回数をこなした。
私は魔王様の専属召使なのに、魔王様とお茶を飲んだ回数よりも、トリフェ様とお茶を飲んだ回数のほうが明らかに多い。
おかしいだろう、この状況。
ただ、私はこのお茶会からトリフェ様を締め出すことは諦めていない。
茶ぐらいひとりでゆっくりと味わいたい。
もしくは別の人と味わいたい。
このおエライ様とのお茶会は私の繊細な心臓には刺激的すぎる。
それに、魔王様にお願いして、茶の銘柄数種類とお茶請けの菓子を用意させて頂くのもめんどうであるし、ここら辺でいい加減にやめたい。
この方も何が楽しくてここに・・・・・・とは思うものの、理由の一端は垣間見えている。
おそらく、この方は友達がいない寂しさを私で埋めているのだ。
身の丈にあったお友達づきあいをしてほしいものである。
スイ様や、最近知り合った同じ人間のキセとは違い、この方相手にお茶するととても気を使う。
私が少し身動ぎしただけで「どうした」とか「どこに行くのか」といちいち聞いてくるので、その度に答えを返さなければならないし。
(お姉ちゃんについてくる小さな弟か!)
勿論、こんな弟は全力でお断り申し上げる。
只でさえ数多い弟妹。
あの両親ときたら本当に自重と言う言葉を知らないのだ。
もうこれ以上は欲しいとも思わない・・・・・・がきっと私がいぬ間に増えているに違いない。
まあ、例え増えていなくとも、仮に現在よりも実の弟妹が少ない状態であっても、やはりご遠慮申し上げるが。
実の妹に大層なシスコンぶりを発揮していらっしゃるこの方のことだ。
姉であってもきっと似たような目にあうだろう。
想像するだに恐ろしい。
現状とて良いものとはいえないが。
思わず溜息をついたら、すかさずトリフェ様の「どうした?」が飛んできた。
「なんでもないです」
「そうか」
「はい」
また溜息をつきそうになるのをなんとかやり過ごした。