5-1.「甘くてほろ苦い」
「今日から魔王様にぱんつを薦めるのをやめようと思います」
私がしおしおと項垂れてそう申し上げたら、魔王様は感極まったという様子で頭を撫でて下さった。
「とうとう分かったか、お前のドアホな頭でも」
私の栗色の髪を撫でる魔王様の手は乱暴だったけど、不快ではない。
その感触を少し楽しんでから、私はほうっと息を吐き出した。
「ドアホは言いすぎだと思いますが、私も良く考えたんですよ。魔王様が何度私がお渡ししても、せっかくのぱんつを却下なさるから。ああ、魔王様はぱんつが嫌いなんだなって」
何が不満なのだろう、と毎日毎日考えていた。
しぶしぶトリフェ様のお茶の相手をしながら。
魔王様の暇つぶしを作成しながら。
魔王様のお召し替えのお手伝いをしようとして部屋から追い出されながら。
その他色々している間も、ずっと、ずっと。
そうして、ある時、漸くひらめいたのだ。
ああ、魔王様はぱんつが嫌いなのだと。
どうでしょうか、と視線で促すと魔王様は孫をみまもるおじいちゃんのように目を細めて頷いた。
「そうか、漸く分かってくれたか、おまえも。気づくのが遅すぎたな。もっと前に理解しろというのはお前のドアホな脳みそには難しかったか」
だから、ドアホは言いすぎだ。
魔王様のいけず。
しみじみした口調で言わないで頂きたい。
しかしまぁ、私も答えにたどり着くまでに少し時間を掛けすぎた。
魔王様が多少なりとも私に意地悪な言葉をかけるのも無理はないと思っておくことにする。
そんなことをつらつら思いながら、魔王様のほうを伺っていると、魔王様がはたと何かに気づいた顔をなさった。
どうしたのだろうか?
先ほどまで好々爺のような表情をしていたのに、今は風呂場で突如黒いエネミーGに遭遇した少女のように表情が凍り付いていく。
だんだん、魔王様の顔色が悪く・・・?
「魔王様?」
「・・・って。むぅ、まてよ」
「はい?」
待ってみた。
「念のために聞くが。・・・お前は、俺に、ぱんつを薦めるのを、やめるんだな?」
注意深く、一語一語はっきりと発音するように魔王様がお尋ねになる。
だから私も、一語一語はっきりと発音するように応えた。
「はい、私も愚かでした。魔王様がまさかノーパン愛好者だとは気づかず、必死で魔王様に気に入っていただけるようにぱんつを選んでいたなんて。端から、間違っていました」
本当に、前提条件からして間違っていたのだ。
どうしてこれほど魔王様が私の薦めを拒否なさるのか、よくよく脳みそを振り絞って考えてみた。
その時閃いたのが先ほど魔王様にもお伝えした「ぱんつ嫌い説」。
さらに、もう一歩踏み込んだところまで考えてみた。
ただぱんつ嫌いなだけなのだろうか、と。
すると、ピコーン、と私の頭に天恵が降って来たのだ。
そうだ、魔王様はノーパン健康法を試しているに違いない。
ぱんつ嫌いというだけでなく、ノーパン健康法を試しているからこそ、魔王様はあれだけ固辞なさったのだ。
私もまだまだ、傍仕えとしてまだまだだと痛感した。
魔王様にお叱りを頂くのも無理はない。