4-3.「本日は学習日和」
いざアドバイスを貰おうと、私のしたことと魔王様の対応についてを細かく説明しだすなり、彼女の形の良い唇は呆れたようにOの字の形に開けられた。
「呆れた!あんた毎日、ナニやってるのよ!?」
「ナニって。そんな・・・照れるじゃないですか」
「バカ。じゃなくて、あんた毎日あの魔王様にそんなセンスないパンツ薦めてたの?」
「・・・ぐさっと心臓に突き刺さるような言葉ありがとうございます。ああ、少し喜びを覚えそう。・・・でも、センスないだなんて。・・・魔王様に黒じゃあんまりにも当たり前でしたかね?」
新鮮さに欠けていたということだろうか。
確かにマンネリはよくない。
「逆よ、逆、百万歩譲って色が黒はともかく、なによこのピンク色の刺繍。名前入りなんて、あんた幼児?」
「・・・名前入り大事ですよ! 落としても誰のものかわかるじゃないですか!」
「誰が落とすのよ!」
「私は落としましたよ。・・・というか、落としたのを、先日トリフェ様が届けてくださいました」
乾いた洗濯物を運んでいる最中、どうやら落としたようなのだ。
「あんた、下着に名前入れてるのかい!」
「ええ、勿論です」
私は力強く肯定した。
何故か絶望したような溜息を零す彼女が不思議だ。
その彼女は途中で何かに気づいたようにはっと目を見開いた。
「まって!」
「はい、待ちます」
「・・・・その前に、あんた、何ていった?トリフェ様に・・・?」
「トリフェ様に拾っていただきました。あの時は助かりました、ほんと」
「なんてことさせてるのよーーー!魔王様の側近に!」
「えーと、なんだか嬉しそうでしたよ?女性の下着フェチなんでしょうか」
「違うわ、ぼけ!ああ、トリフェ様、可哀想。あたしが慰められるものなら慰めて差し上げたい!」
「慰めるといいんじゃないですか?なんだか、魔王様からも最近トリフェ様が可哀想だとお聞きしましたし」
「トリフェ様は両性具有体をお好みでないのよ!ちっ」
そう、目の前の美女は、小ぶりな胸があるが、下もついているのだ。
ナニが、などと淑女の私には決して口に出せないものが。
「新しい世界の目覚めを経験させてさしあげるとか」
「・・・・あんたは口を開くな」
トリフェ様のお気持ちも知らず、非道だわ、鬼、悪魔、と罵られる私。
魔族に鬼悪魔と罵られる日が来るとは、生まれたときにはわからなかった。
本当に、人生とは面白い。しかし、彼女に罵られる原因は心当たりがないので戸惑うばかりだ。
真の友情が育った暁には、彼女と心から分かり合えればいいと願っている。
「口を閉じたら喋れません。・・・が、とりあえずなんとなく答えはわかってきた気がしますし、今日の相談はこれまでにしておきます」
多分、魔王様は名前入りの下着がお好みではないのだろう。
スイ様の口ぶりからその辺りが私にも漸く察せられた。
魔王様も、名前入りがイヤなら、素直にいってくださればいいのに、照れ屋さんめ。
「それでは、スイ様、ありがとうございました。また」
「もう来なくていいわ!」
「スイ様も照れ屋さんですね、ふふ。ではでは」
私は手を振って、スイ様に別れを告げた。
* * *
私は意気揚々と魔王様の元へと向かった。
厳重に閉じられていた扉も今は開いている。
部屋に入ると、すぐ魔王様の姿が目に入った。
「魔王様、わかりました!」
「なにがだ」
「はい、何故魔王様が先ほどのパンツを却下なさったかわかりました!」
「言って見ろ」
「はい、名前入りだったからですね!言ってくだされば良かったのに。我が家では、下着には名前を入れておかないと他の者と間違えてしまうから、必ず名前を入れるという習慣がありましたが、魔王様はそうではなかったのですね」
3枚セットで安売りするパンツは、柄が同じであることが多い。
貧乏子沢山な我が家では、名前で誰のものか判断していた。
しかし、考えてみれば、魔王様のパンツは他の洗濯物を一緒に洗ったりなどしないだろう。専用の洗い場も、洗濯係もあるくらいだ。
ならば、区別の必要はない。名前を入れる必要はないのだ。
だから、パンツごと私は追い出されたのだろう。
この回答できっと100点満点だ。
私は魔王様にとっておきの笑顔を浮かべて・・・
「もういっぺん考え直して来い、ドアホーーーーーーー!」
今度は蹴りだされた。
魔王様と只人である私が分かり合える日はまだまだ遠いようである。