転移
初めての投稿です!!
とても拙い文章ですがぜひ読んでください!!
───……ジュウゥゥゥゥ
「……流石にもう焼けただろ」
肉だ。
元の世界では見たこともないような巨大なステーキ。
空飛び火を吹く赤い爬虫類の。
その肉塊をボロ剣で刺し、フライパン替わりのボロ盾から持ち上げてみる。
重い。
ステキだ。
綺麗なきつね色に焼けている。
もっと小さく切り分けるべきなのだろうが、これはロマンの問題だ。
俺は顎が外れそうなくらいに口を開け、そのステーキを思いっきり頬張った。
ジューシーな肉汁が口いっぱいに広が…………らない。
「モゴ……っ」
表面しか焼けてない。
火があまり通らないのだ。
レア……というにしても生臭さすぎる。
噛み締めても、ジワリと血の味が滲むだけ。
食感もゴムのようだ。人を轢いたタイヤを頬張ってるみたい。
それでも俺は食べるのを辞めない。
必死に食いちぎり、喉に押し込む。
食べ物を選り好み出来るような状況ではないから。
という理由もあるが、
俺にとってこの、竜の肉はそれ以上の意味を持つものだ。
(……あ、きた)
飲み込んだ血肉が、胃袋の中で爆発したように熱を放ち、全身の血管が焼け焦げるような激痛が襲ってくる。
そして、頭の中に声が響く。
『赤竜を捕食。竜性鎧皮を獲得。火炎耐性を獲得。竜炎を獲得。』
はあ、牛のステーキが恋しい……。
綺麗に焼き目のついた、柔らかくて、噛めば肉汁が溢れ出す本物のステーキ。
フォークとナイフを使って、冷えた飲み物と一緒に流し込んでいたあの味が、ひどく遠い昔のことのように思える。
たった一週間前、俺の日常は終わった。
◇
一週間前
(はあぁぁ……、課外授業取らなきゃよかったな)
俺は後悔していた。
高校三年生になったんだから、今まで以上に勉強を頑張ろう!と決心した頃の俺はもうどこにもいない。
今はただ帰りたい。
つまらん。
ねむい。
ひま。
「───……ぃ、おいッ! 龍田ァ! 龍田伊吹ィ! 寝るなら帰れ!」
……ん、どうやら眠ってしまっていたようだ。
突っ伏していたノートから顔を上げて教室を見渡す。
俺は後ろ左端を陣取ってるから、全員が何をしているのかがよく見える。
最初のころは20人ほどいたのに、今では俺以外に5人しかいない。
一番に目に入ったのが、すぐ右隣で真面目に授業を受けている絢崎朱音。
チラと怒鳴られた俺を冷たい横目で一瞥し、すぐに黒板へ視線を戻した。
座っていても分かる凛とした姿勢。剣道部主将を務める彼女は、まるで鞘に収まった名刀のように一切の隙がない。白く細い首筋やしなやかな指先には、竹刀を軽々と振るう確かな筋力が隠されている。誰もが認める美貌と相まって、まさに高嶺の花だ。
──実のところ、俺と絢崎は幼馴染なのだが、高校に入ってからの約二年間、ただの一度も口を利いていない。完全に赤の他人だ。
学内では彼女に関する噂が絶えない。
『絢崎には、昔から両想いの彼氏がいる』らしい。
告白して玉砕した連中曰く、普段の氷のような彼女からは想像もつかないほど、うっとりと熱を帯びた笑顔でそう語るそうだ。
(……絢崎、付き合ってたのかあ、いやまあ俺には関係ないことだけど。彼氏がいるような素振りなんて見せなかったな)
俺は小さく息を吐き、絢崎から視線を外して教室の残りを見渡した。
窓際の席では、いつもライトノベルに没頭しているオタクが、ブツブツと何かを呟いている。相変わらず変なやつだ。
その斜め後ろには、大柄な体を窮屈そうに机に突っ伏して爆睡している学校一の陽キャがいる。運動神経抜群で、誰にでも気さくに話しかけてくるお人好しだ。
さらに前列には、女子と見紛うような小柄で中性的な顔立ちの美少年が、申し訳なさそうにノートを取っている。
そして教壇のすぐ目の前の席から、神経質そうに眼鏡を押し上げながら、俺を忌々しげに睨みつけているのが、ガリ勉で責任感の塊のような、この学校の生徒会長だ。
「龍田ァ! キョロキョロするなら帰れ!」
さっきから家に帰そうとするのは、英語教師の吉田だ。コイツのすぐ帰らせようとする教育方針のせいで、この濃すぎるメンツが出来上がってしまったのだ。
そう呆れながら、俺が再びノートに視線を落とそうとした、その時だった。
(──……ん、……なんだ?)
ふと、音が遠のいていった。
教師の怒声も、窓の外の車の音も、すべてが水底に沈んだように凪いでいく。
やがて全てが無音になると同時に、俺の意識は消失した。
───夢を見ていた。
俺は透明で、川のような冷涼な流れがサラサラと体を通り抜けていく、心地よい夢。
一寸先も見えない暗闇の中にいるが、不思議と不安はなく、ずっとこのままでいたいような安心感さえある。
この得も言われぬ感覚に微睡んでいると、暗闇を押し広げるようにして光が広がり、視界を真っ白に染めながら、俺を包み込んだ。
気づけば、足裏が硬い石造りの床を捉えていた。
「……っ」
強く瞬きをして、視界のピントを合わせる。
そして夢だと思った。
俺達全員、見知らぬ豪奢な大広間に立っていたからだ。
ふと視線を落とすと、いつの間にか、俺の右手の甲には見たこともない複雑な紋様が浮かんでいた。
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