異形の告解
教会の一室で、彼女はその告解を静かに受け止める。
ただ、その告解は普通の ――自身の罪を告白するものではなかった。
「許せないんです、アイツが! あの子をあんな目に遭わせたアイツがのうのうと生きている事さえ!」
まだ中年に差し掛かる前だろう、若い父親はまるで悲鳴の様な声を上げた。
敬虔な信徒として人生を重ねてきた彼は、自身の苦しみを享受し、常に相手を赦してきた。
相手を赦せなかったのは ――初めてだった。
「あなたは今、とても深く傷つき、苦しんでいるのですね」
小窓の向こうから聞こえてきたのは彼よりもまだ年若い少女の声。
それも当然か。 この教会には成人前の双子の姉妹しか居ないのだから。
だかそれでも彼はその心の内を吐き出したかった。
心の奥底に沈殿し澱となったそれは、吐露しなければ、自らの外に出してしまわなければ、容易に殺意へさえも変貌を遂げるであろう、混沌の想念だ。
「大丈夫です。
あなたはここへ来て、そしてその想いを口にする事が出来る程強い人です。
今はそれだけでいいんです。
主があなたを赦す様に、あなたもきっとその人を赦せます」
少女は優しい声色で、神の代行者としての言葉を発した。
告解の最中、彼女は神の代行者であり、神の愛を以て全てに赦しを与える立場になる。 少なくとも表面上は。
だからという訳ではないが、その心の奥底で、全く別の事を考えていた。
彼に優しい言葉を、神の言葉を代弁しながら、その心の奥底で全く別の事を思っていた。
その ――罪を犯した者の事を。
†††††
「お姉ちゃん。 やるの?」
彼が告解室から姿を消して、現れたのは告解を受けた彼女と同じ姿をした妹の顏だ。
小窓から覗き込む様にして双子の姉を見ている。
修道服を着た、修道女。
色白の肌、金の髪に蒼い瞳。
日本人風ではないが、彼女たちはその様に生まれついていた。
もっとも「今」の妹は瞳の色は左右が違っており、片方は血の様に紅い。
「ええ。 お願いね、詠華。 気をつけて」
「任せてよ、お姉ちゃん」
詠華と呼ばれた少女はそう答えるや否や、床に溶け込む様にしてその姿をなくす。
いや、なくした訳ではない。
本人の姿はないが床には『影』が残っており、その影はドアの隙間に入り込むとそのまま外へ出て行ってしまった。
それは有栖川 詠華がその死後に得た能力のひとつだった。
そう。
彼女は、彼女たちは一度死を経験した『黄泉返り』なのだ。
†††††
有栖川は時折『異形』の産まれる家系だ。
だからこそその血を広く広める事はなく、細々と、それでも永く暗殺を生業としてきた一族である。
人格者の仮面を被りながら、殆どの場合において『仕事』ではなく自らに課した『使命』として殺しを行う、そんな一族。
姉妹の両親もそうだ。
神学校を優秀な成績で卒業し、神父となった父は告解で全ての罪を赦すと嘯きながら、その裏で『神の裁き』を期待せず、またそれに頼るでもなく、犯罪者と呼ばれる者たちを自らの手で殺してきた。
だからこそ、その報いを受けたと言ってもいいだろう。
その罰は、後に一家惨殺という形で家族全員が受ける事となった。 なってしまった。
この様な生き方をしていても『異形』ではなかった父も、その生き方を咎めるでもなかった母も死に、双子は姉妹は一度死に陥ったものの『異形』として蘇ったのだ。
姉・園華は生前のまま異形に覚醒し、妹・詠華は別人格の異形として、まるで人とは別の存在として新たな生を受けたのだ。
それでも園華は、そんな目に遭いながらも父の後を継ぐ事を決めた。
勿論父のしてきた事は褒められるような事ではない。
父の目から見たら悪人でも、別の方向から見たら善人だった、なんてケースは恐らく多かったに違いない。
『被害者』の声だって自業自得のモノもあるだろう。
だけど、殺す事でその溜飲を下げる人が多くいるのなら、その死すら望む人が多くいるのならと、彼女は殺していく事を決めたのだ。
幸か不幸か、彼女たちの異形としての能力は、暗殺に向いたモノであった。
先程妹の詠華が影に消えた様に。
園華はゆったりとした修道服の中の重さを確かめる。
父の形見である鉄の塊を。
†††††
「ただいま、お姉ちゃん」
そう言って詠華が帰ってきたのは夕刻になってからだった。
「お帰り、詠華。 大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなかったら戻って来れないよ、お姉ちゃん」
園華の言葉に、詠華は無表情な微笑みを向ける。
微笑んでいるし、その声は弾んでいる。 間違いなく姉に懐いているし慕っている。 それなのに表情を感じられない、無機質な微笑み。
まるで何かが擬態している様なそれは彼女が異形となった時からの常であった。
「そうね。 それで、どうだったの?」
妹・詠華の異形のひとつは『影渡り』。
潜入や調査だけでなく、そのまま暗殺まで熟せるものだ。
「真っ黒だったよ。 あのおじさんが言っていた通りの『悪い』ヒト。
政治家との癒着もあるし、事故も事件も色々と揉み消してる」
言いながら、盗んできた資料を机に広げる。
そこにあるのは裏帳簿。
「そのせいかな、護衛に『異形』がいるの」
詠華はそう言って少し微笑む。
先程の無機質な笑みより深い、嗤っていると理解出来る笑みだ。
「そう……。 ひとり?」
そんな妹を見ても園華は気にしない。 気にしなく、なった。
今の彼女は戦いに飢えている。
ひとりで戦わず、ここへ戻って来たのは園華の反応を気にしているからに過ぎない。
予め園華がいいと言っていれば、彼女はその場で戦い始めた事だろう。
戦える敵がいる事は、彼女にとって幸運なのだ。
「多分、ひとりかな? あ、本人もそれっぽいからふたりか」
「そう、本人もなのね」
考え込む様な仕種をする園華だが、その腹は決まっている。
一度決めたら前提が変わらない限り覆さない。
それはそう自分に課した「仕事」であり「義務」であった。
「『影』はつけられたの?」
「とーぜんだよ」
胸を張る詠華に微笑みを向け、園華は懐の重さを確認しつつすっと立ち上がった。
†††††
詠華の付けた追跡用の『影』は市街地を離れ、山深い場所でその姿を消した。
いや、消されたと言うべきか。
「あっ……。 『影』、消されちゃった。
気づかれてたみたいだよ、お姉ちゃん」
道中、そう報告してくる詠華だが、その声色に危機感はない。
彼女は相手が強い分には何も気にしない。
それどころか強ければ強い程、好ましい。
例え、自身が敗れ殺されるとしてもだ。
「そう、あなたのアレに気づける様なヒトなのね。 どちらの方かは解るの?」
詠華の創る「影」は追跡用の場合ネズミ程度の大きさの二次元体である。
居ると解っていても簡単に察知できるモノではない。
もっとも耐久性は低く、ちょっとした厚紙を破る程度のちからで破壊されてしまうが。
「ん~、わかんないけど護衛の方かなぁ?
今おじさんの方を見てたから」
「今の距離は……」
妹にそう問い掛けかけた園華は、元々向かっていた方角へ、懐から抜いた銃を撃った。
――ルガーP08。
総弾数八発。 精密な設計により作られた、高い命中精度を誇るハンドガンである。
サイレンサーを付けられた銃身から、くぐもった音が響いたものの、それだけだ。 悲鳴やそれに類する音はない。
「……はぁ~。 いきなり撃ってくるかね。
最近のシスターは過激だな」
代わりに帰ってきたのは戯けた様なセリフ。
現れたのは身長が2m近いであろう、偉丈夫だ。
本人にも着ている衣類にも銃痕らしいものはない。
「そうですか?
薄暗い山中、女性に向かって忍び寄ってくる方に対しては、相応の対応かと思いますが」
「なるほど。
確かにそう言われてみると納得は出来るか」
男は話し、肯きながらも視線は姉妹から離さずにいる。 そこに油断はない。
「それで、キミたちの目的は何かな?
一応こちとら護衛なんてやっている身だ。 銃を持った者が対象に近づくなら咎めなきゃあならん」
「それを訊く必要がありますか?」
そう返しながらルガーから吐き出される弾丸は七発。
連射が容易なわりに総弾数の少ないこの銃はすぐに弾倉が空になる。 視線を切らずに袖に仕込んだマガジンを再装填。
「おお、おっかない……ね!」
素手でほぼ同時に発射された七発の9㎜弾を捌いた男は、滑る様に接近してくるものの、そこに立ち塞がるのは一言も口を挟まなかった詠華。
両手の指を十本のナイフに変化させ、男の首を、急所を狙う。
「おじさん。
ダンスならあたしが相手をするよ」
不意を突いたにも関わらず詠華が煌めかせる刃は男の手で捌かれる。
だが詠華は嗤っていた。
心底楽しそうにナイフを鳴らせる。
「未確認生物? いや、変身能力者か!」
「乙女はヒミツが多いんだよ、おじさん」
五指のナイフが輝線を描く。
それを避ける男へ更に弾丸が放たれた。 詠華という目隠しにより今度は躱しきれなかった男だが、ルガーは所詮9㎜。
皮膚を破り肉に食い込むものの、金属の銃弾は数秒と立たずに体外へ排出された。
「座間は何処ですか?」
園華は銃を持ち替えて、標的の名を伝えた。
――オートマグ。
マグナム弾を撃てるハンドガン。 その威力は折り紙付きだ。
「おやおや、そんなモノまで持ってるとは……。 最近のシスターっていうのはホント物騒なんだね」
暢気な口調だがその間も散発的に詠華の攻撃は続いている。
もっとも彼女の今の攻撃は『お遊び』だ。
こんな戦いを楽しめそうな相手が、こちらにまるで集中していない内に倒してしまうなんて、そんな勿体のない事はしない。
「それと座間かい?
アイツならもう来るよ」
男がそう言うや否や、何かが地面を削る様な、エンジン音のない暴走車が走る様な音が聞こえてきた。
「アイツはどうも初動が遅くてね。
動き始めると速いんだが」
姉妹が男のセリフを理解する前に、その音はあっという間に近づいてくるのが解る。 その音はまるで高速で走るバイクの様だ。
「それと遅くなったが自己紹介だ。
オレはヤツの護衛で“エイリアン”なんて呼ばれてるよ」
“エイリアン”はそう言うと着ていたジャケットを脱ぎ捨てた。 Tシャツから出ていた頑強な腕が、ずるりと無数の蝕腕に変化する。
「そうですか。 わたしは“マジックアワー”。
呼び名ばかり綺麗で恐縮ですが」
「“トワイライト”だよ、 おじさん」
「へ~、キミたちが……。
聞いていたより美人さんじゃないか、夕暮れ姉妹は」
マジックアワーは日没直後や日の出直前といった、空がオレンジやピンク、紫や青といった幻想的なグラデーションに染まる時間帯の事だ。
トワイライトはその時間帯の空や光の状態そのものを表わす言葉である。
「っと、来たな」
“エイリアン”がそう言うや否や、地面を削りながら走る「何か」が高速で突き抜けた。
詠華は素早く後退し、その直撃を躱す。
「『コレ』が雇い主の座間だよ」
そう言う“エイリアン”の周囲を、タイヤの様に高速で自転しながらぐるぐると回っているのが、標的だと言われ、園華の目が点になる。
「ちなみにコードネームは“スマッシュピンポン”だ」
真面目な顔で“エイリアン”はそう言った。
「はははは。 何それ、変なの」
「…………巫山戯ているんですか?」
「いやあ、見ていれば解るよ」
“エイリアン”がそう言うや否や、座間 ――“スマッシュピンポン”は目にも止まらぬ速さで周囲を縦横無尽に駆け巡り始めた。
大地を削りながら周囲を跳ね回る様に駆ける、駆ける、駆ける。
何かにぶつかり跳ね返っている訳ではないが、その様相はまるでスーパーボールだ。
姉妹を轢き殺さんとする様子はバイクの様にも見えるが、旋回時等にスピードの落ちないそれは、バイクとはまるで比べものにならない危険度である。
躱しながら撃つ園華の銃撃は果たして効果があったのかどうかすら解らず、詠華のカウンター気味の攻撃さえ座間を止める事が出来ずにいる。
「“スーパーボール”に改名した方がいいんじゃないですか?」
大地を抉る轟音に園華の声は埋もれてしまう。
彼女自身がそう思った時、
「これが終わったらそう伝えるよ」
すぐ後ろで声がした。
それがスマッシュピンポンの存在感とその轟音に紛れ接近した“エイリアン”なのだと、そう認識した瞬間、無数の蝕腕が一塊となり園華へ叩き付けられる。
「――かはっ……!」
「がっ!?」
しかし園華とて名うての暗殺者なのだ。
その一瞬だけ至近距離にいた“エイリアン”へ、オートマグが一発とルガーが全弾叩き込まれる。
轟音と共にルガーの9㎜弾は顔へ、オートマグのマグナム弾は腹へ。
先程9㎜弾を素手で捌いた“エイリアン”でも、この至近距離では如何し難い。
何せルガ-から放たれる弾丸の初速は最大400m/s。 オートマグであれば500m/sにも達するのだ。
ましてやカウンター気味の銃撃である。 躱せるはずもなく捌ける訳もない。
もっとも、肉体強化された異形である“エイリアン”には致命傷は負わせられていない様だが。
だが、そこへ急接近する存在があった。
「お姉ちゃんに汚い手で触るなっ!!」
詠華だ。
指から生えたナイフを先程までより30㎝以上も伸ばし、“エイリアン”を斬る、切る、斬り付ける。
蝕腕を断ち切り、胸元を切り開き、腹を貫き、抉る様に脇腹を切り裂いた。
――ゴポッ
内臓が溢れる、零れ落ちる。
それでも、“エイリアン”などと言う呼び名は伊達ではない。
まだ生きている。 生きているし、その明らかに致命傷に見える傷はゆっくりと塞がっていき、切断された蝕腕は徐々に伸びてきている。
戻りそうにない程はみ出した内臓ですら、元の位置へ戻ろうと、蠢く。
その傷へ、軽く10mは吹き飛ばされた園華が轟音と共に銃撃する。 ルガーに再装填する暇はない為オートマグを二発だけだ。
だがそこへ“スマッシュピンポン”座間が割り込んで来た。
人体としては異常な回転速度のそれはマグナム弾を押し止めてしまう。 もっとも一撃で回転を削られ、もう一撃で止められた彼はその素顔を、肉塊とも言えそうな丸い肢体を露わにする羽目になったが。
それでもそのせいで姉妹は“エイリアン”を倒しきれない。
それどころか“エイリアン”を挟む様に布陣していたふたりの横に“スマッシュピンポン”が陣取った為、座間vs園華と、“エイリアン”vs詠華という対戦カードとなり、各個撃破される構図になってしまったのだ。
†††††
「――脂肪塊」
その達磨に手足の生えた様な男は、ふらつきながらもそう呟きマガジンを再装填する園華を見ると、体躯に比べ細くアンバランスな手をかざし、
「潰れたまえ」
と意外に澄んだ声で言った。
途端、少女の全身に掛かる重圧。 風が、空気が、沈み込む様に彼女の身体を押し潰そうとする。 加重する。
軽量のルガーP08ですら、ちからを振り絞らないと持ち上げられない加重力空間。
その負荷に全身が軋む。
修道服ですら重く、オートマグなど持ち上がらない。
それでも園華はルガーを八連射する。 が、それは座間に届く前に地面へ落ちた。
加重されているのは空間そのもの。 彼女だけではないのだ。
もっとも範囲はそれ程広くないのか“エイリアン”と詠華は効果範囲外の様だが、再生しきってしまった蝕腕が詠華を押し止めており、加勢は期待出来そうにない。
「そのまま圧死するがいい」
「お断りします」
詠華の言葉と共に、彼女の背後に光が射す。
それは後光。
正しく天使の輪。
妹の『影渡り』と対になるかの様に得た姉の異形『輝きの輪』。
それを以て彼女が出来る事はたったひとつだけだ。
銃声はなく、硝煙もなく、彼女の持つルガーP08から射出されたのは『光の弾丸』。
光であるが故に火薬を使わずに光速で撃ち出される弾丸だ。
『光』は物資よりも二倍も重力の影響を受けるが光速という高速度故に故に、この程度の距離であれば殆ど重力に左右されず、そのくせ射出された先の的を破壊する事の出来るという理不尽な暴力。
マガジンが空のまま撃ち出された弾丸は“スマッシュピンポン”を撃ち抜く。 何度も何度もその『肉の鎧』を撃ち、穿ち、破壊していく。
「がっ!? あっ!?」
彼の『鎧』は厚い。
厚いそれは弾丸の衝撃を吸収し、簡単には貫かせない。
だが、抜けない訳ではない。
特にルガーは速射性と命中性の高い拳銃だ。
この程度の距離で園華程の腕があれば、銃痕の上に銃弾を撃つピンホールショットも難しくはない。
幾多の衝撃のせいだろう。 すでに重圧は消えてしまっている。
銃を撃ちながら園華は立ち上がると、右手にオートマグ、左手にはルガーを持ち替え――乱射。
「ぐっ! あぐっ! く……潰れっ……!?」
“スマッシュピンポン”が怒りの形相を露わにした時、その開かれた口内へ無数の銃弾が叩き込まれた。
「あぼ……ゴボゴボ……ゴボボボボボボ……」
口内から漏れるのは叫びでも悲鳴でも、いや声ですらない、水と気泡の弾ける音。
それでも『異形』である“スマッシュピンポン”座間だ。 彼にしろ彼女らにしろ、『異形』は兎にも角にも油断ならない為、更に眉間にマグナム弾を撃ち込んだ後、園華は妹の方へ向き直った。
†††††
詠華は“エイリアン”とは相性があまり良くないと言えた。
彼女の爪は鋭い。
名槍・蜻蛉切の様に、穂先に止まった蜻蛉がそのまま真っ二つ、とは言わないが落ちる木の葉がそのまま刺さる程度には鋭く、そして切れる。
先に、怒りに身を任せ、彼をあっという間に解体寸前まで追い込んだのは伊達ではないのだ。
しかし彼は護衛を生業とする『異形』である。
その能力のひとつは『堅き甲殻』。
正面からは酷く崩しがたい牙城となっているのだ。
“スマッシュピンポン”の乱入で再生させる時間を作られたのは誤算であろう。
彼女の爪は鋭い。
だが幾ら鋭くても、カミソリで樹は倒せない。
もっとも、詠華は笑ってる、微笑んでいる。
強敵と戦うのは、いい。
生きている実感を得る、数少ない機会だ。
それでいて自身の能力を試す機会でもある。
斬りかかる。
斬りかかるだけではなくフェイントを使う。
角度を変える。 袈裟斬り、横薙ぎ、唐竹割り。
五指を広げて切る。
五指を揃えて突く。
左右の手でそれらを組み合わせる。
そのパターンはどんどん増えていく。
それは決して無限ではないが、連続する攻撃の回数を増やせば組合わせは無限に広がるだろう。
詠華は微笑む。
心底楽しそうに笑顔で斬りかかる。
反対に“エイリアン”は余裕がなくなってきていた。
相性は良いはずだった。
先程の様に後先を考えない勢いで不意を突かれたなら兎も角、本来正面からやり合うなら彼の防御は鉄壁である。 相手の攻撃に合わせて自身を硬化し、または不可視の盾で受けるのは彼のもっとも得意とするところなのだ。
彼女はこちらへ致命傷を与えられず、こちらの一撃は少女の華奢な体躯など簡単に吹き飛ばせる。
それで負けるはずはない。
なのに彼は今、押されていた。
攻撃を受け止め、いなし、躱す。
リズムを変えようと速度が多少上がろうと、それで押し負けるような事などありはしない。
だというのに押されていた。
受けきれない訳ではない。
そもそも多少の攻撃を受けようがすぐに治る。
それなのに彼は明らかに押されていた。
その原因も判らぬまま、彼は戦いを続けるしかない。
この思考すらも既に術中に嵌まっているのだと、気づきもせずに。
†††††
そして、
園華の銃撃が“エイリアン”の動きを止めた。
“スマッシュピンポン”座間は既に倒れており、彼女はフリーになっていたのだ。
詠華の能力のひとつ『影気撹乱』により精神を乱されていた彼にはその程度の衝撃でも十分だったのである。
膝裏と背骨に銃撃。
仰け反り体勢を大きく崩した彼に、飛び掛かってくるのは修道服の少女。
落ち着かない精神状態と、不意の攻撃と、笑顔の殺意。
それは“エイリアン”久東 秀也がその瞬間動けなくなってしまうには十分過ぎた。
先程のシーンを繰り返す様に、蝕腕が断たれ、胸元は切られ、腹を貫かれそのまま脇腹は切り裂かれた。
違うのはその続きがある事だ。
更に繰り出される“トワイライト”有栖川 詠華の爪で、
胸骨は断ち切られ、喉は掻き切られ、目は貫かれそのまま脳は破壊された。
戦いは――終わったのである。
†††††
教会の一室 ――告解室ではひとりの年若い女性がその心の澱を、吐露していた。
その表情が語るのは憎しみであり、悲しみであり、怒りである。
そしてそれを忘れられない自身を恥じているようであった。
「――どうしても憎しみを忘れる事が……出来ないんです」
“マジックアワー”有栖川 園華は告解室にある小さな小窓から彼女の様子を見つめる。 酷く辛そうな女性の様子を覗き見る。
「あなたは今、とても深く傷つき、苦しんでいるのですね」
だが、彼女は言う事は前と同じだ。
「大丈夫です。
あなたはここへ来て、そしてその想いを口にする事が出来る程強い人です。
今はそれだけでいいんです」
憎しみを、怒りを忘れようとする彼等を肯定し、そして裏でその加害者を狩るのだ。
それが彼女の使命。
有栖川 園華が自身に課した役割であり存在意義なのだ。
「主があなたを赦す様に、あなたもきっとその人を赦せます」
自身が赦される事はないと、そう自覚しながら彼女はまた銃を手にする。
有栖川 園華
●クラス:リビングデッド・2/ガンナー・5/ルミナスリング・1
●コードネーム:マジックアワー
●一人称:わたし
●武器:オートマグ、ルガー、通常弾、光の弾丸、
●能力:タフネス、痛みに強い、ブルズアイ、知覚強化、曲射、狩人の瞳、ピンホールショット、弾丸生成/属性光/代償あり/威力増強、
親を失い、双子の妹も一度失ったシスター。今は両親の後を継ぎ、罪あるものを手にかける裏の仕事もこなしている。日々自分の罪深さを悔いながら・・・。
本編に書けませんでしたが、彼女は弾丸を撃つたびに髪の毛が短くなってました。
修道服を着てるから全然わからんちん(・ω・)
有栖川 詠華
●クラス:リビングデッド・2/シェイプシフター・3/シャドウウォーカー・3
●コードネーム:トワイライト
●一人称:あたし
●武器:シェイプブレード/フィンガーダガー
●能力:タフネス、痛みに強い、瞬間解体、シェイプチェンジ/ウェポン、変異戦闘、ディスターブ、影潜み、影追跡、
一度死んだものの異形として生き返り、生前とは全く違う人格を持った園華の妹。
それでも園華を姉として慕っている。
座間 隆宏
●クラス:サバイバー・1/アジエーター・1/ファットモンスター・5/ボス属性・2
●コードネーム:スマッシュピンポン
●一人称:ワタシ
●武器:デリンジャー
●能力:再生、人心掌握、高速回転移動/予備動作あり、肉の鎧、動けるデブ、重圧空間/発声必須、叩きダメージ半減、全能力値二倍・HP五倍、HP五倍、
久東 秀也
●クラス:ハードアーマー・4/アンノウン・4/テンタクル・3/ボス属性・1
●コードネーム:エイリアン
●一人称:オレ
●武器:触手、酸、
●能力:即席の盾、ピンポイントガード、防御力上昇、反撃、見えない手、酸の息、超反射神経、浮遊、触手、触手増加、再生、全能力値二倍・HP五倍、




