神様の贈り物
「もういい!出ていく!!」
これが、僕が聞いた彼女の最後の言葉だ。
ひなを怒らせてしまった理由は、今でも覚えている。
付き合って3年目の記念日に、僕は職場の忘年会に参加していた。
一次会で帰る予定だったんだ。
だけど、二次会を断れる雰囲気じゃなかったし、新卒の僕が断れるはずもない。
いや、そう思い込まないと、この後の全ての言い訳ができなくなる。
泥酔して朝帰りをした僕に、ひなは涙目で怒りをぶつけてきた。
記念日のパーティーの準備をして、ずっと待っててくれたんだ。
怒るのも当然だ。
それなのに僕は、酔っ払ったまま、へらへらと笑いながら謝ってしまった。
そんな最低な会話が、僕たちの最後の会話だなんて、情けなさすぎて、涙も出なくなる。
ひなは、着替えもせずに、本当に出ていってしまった。
もしかしたら、すぐに帰ってこようとしてくれてたのかもしれない。
本当は、すぐに追いかけてほしかったのかもしれない。
もう何も確かめることは出来ない。
あの時、すぐに追いかけていれば、間に合ったのかもしれない。
全ての予想も選択も、後悔でしかなく、いくら考えても、あの事故を無かったことにする事はできない。
ここに居続けることが辛すぎて、二人で暮らしたアパートを引き払うために、遺された、ひなの遺品を整理していると、あの日プレゼントしようとしてくれていた手編みのマフラーと手紙を見つけた。
その手紙には、出会ってから今までの二人の思い出と、僕への想いが詰まっている。
「ごめん…。」
ひなを失った日から、初めて出した声は、掠れていた。
あの日から過ごしたクリスマスの華やかな彩りも、年末の慌ただしさも、お正月の賑わいも、全て灰色に染まっている。
耳に入る全てが、ただの雑音に聞こえる。
それでも、前に進まなければならない。
そう言い聞かせて外に出ても、何一つ変わらない。
そのままフラフラと人の流れに身を委ねていると、初詣で賑わう神社にたどり着いた。
神様、ひなに会わせてください。
ひなの居た世界に、帰してください。
それが無理なら、この命を奪ってください。
目を強く瞑り、願いというよりは、縋るように繰り返した。
急に周りが静かになり、僕はゆっくりと目を開ける。
そこには、ひなが居た。
あの日の光景が、目の前にある。
ついに幻覚を見るようになったか。
「ねぇ、私、怒ってるんだよ?」
それでも、いい。
僕は、優しく抱きしめた。
「ごめんね…、愛してる。」
違う…。
この声、この香り、この温もり、愛おしい人、全部、大切な真実。
神様がくれた、大切な宝物。
もう二度と、離したりはしない。
ひなを包む手が、熱く強く鼓動を届ける。
囁き合う吐息だけが、二人の頬を伝う雫を溶かした。




