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第9回:金毘羅のタマ

脱藩した竜馬は江戸に向かう途中、讃岐金毘羅大権現で最大の難所にぶち当たっていた。目の前にそびえ立つのは、延々と続く七百八十五段の石段である。

「……死んでしまう……江戸に着く前に、わしゃあここで仏になるぜよ……」

膝をガクガクさせ、這いつくばって階段を登る龍馬。周囲はこんぴら狗と呼ばれる代参犬を連れた参拝客でごった返している。その喧騒の頂点、本宮の境内に辿り着いた龍馬は自分の目を疑った。

拝殿のど真ん中、一番高い神座にタマがふんぞり返って座っていたのだ。三本の尻尾を揺らし、神主が捧げる最高級の煮干しを前足で一丁前に吟味している。

「おお、代参猫様……! ありがたや」

群衆が拝む中、龍馬は慌ててタマを隅へ引っ掴んでいった。

「タマ! おんしゃ、何をしゆうがぜよ!」

「……龍馬、遅いよ。もう二回もおかわりしちゃったじゃないか」

タマは口の周りを舐めながら、事も無げに言った。

「ここの神主、祝詞の滑舌が甘いね。僕がちょっと睨んだら、震えて煮干しを増やしたよ。江戸までの軍資金に、少し神様のバイトをしてたのさ」

「バイトって……おんしゃあ、バチが当たるぜよ……」

龍馬は、神域の静寂よりも隣の猫の不敵な笑みの方がよほど恐ろしく感じるのだった。

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