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第30回:賠償金ネゴシエーター
長崎での談判が始まった。沈んだ、いろは丸の賠償を求め龍馬は紀州藩の重役たちと対峙した。緊張のあまり龍馬の手は震え請求書の金額を書く際に、つい勢いで0を一つ多く書き加えてしまった。
「……あ、いや、これは……」
龍馬が慌てて書き直そうとした瞬間、隣に座るタマが小さな前足で龍馬の手をグイと押さえつけた。袖から覗くタマの瞳は、冷酷な光を放っている。
「……書き直すなんて、野暮な真似はしなくていいよ。これが沈んだ船と僕の昼寝を邪魔した代償の正当な額だ。いいかい、一歩も引いちゃダメだからね」
タマの耳打ちに龍馬は、顔面蒼白でツッコんだ。
「タマ、おんしゃあ……これじゃあ強盗ぜよ! 相手は紀州藩様じゃぞ!」
だがタマは動じず、紀州藩の面々を……文句あるのかい?と言わんばかりの凄まじい眼力で睨みつけた。
その化け猫じみた威圧感に紀州藩士たちは「坂本の後ろにいるあの猫は、もしや魔物か」と戦慄し、ついに言い値を呑んでしまった。
「通った……本当に通ったぜよ……」
腰を抜かす龍馬の横で、タマは悠然と茶を啜った。
「ほら、うまくいったでしょ。僕に任せておけばいいんだよ、龍馬」




