第25回:有頂天からの影
薩長同盟という大仕事を終えた龍馬は、鼻の穴を膨らませて寺田屋へ戻った。お龍を相手に、いかに自分が西郷や木戸を翻弄し日本の夜明けを引き寄せたかを講釈し始めたのである。
「あの西郷どんもわしの前では借りてきた猫……あ、タマのことじゃないぜよ。とにかく、わしの一言で皆がひれ伏したんじゃ!」
威張る龍馬の懐から、タマが冷めた目で顔を出す。
「この男はなんでこんなに調子に乗りやすいのかね……だぶんバカなんだろうね……」
龍馬はさらに調子に乗り、同盟の証拠である手紙をバッと広げようとした。しかし、先ほど食べた激辛鍋の汁が指についていたせいで目をこすった瞬間に激痛が走った。
「あ、熱い! 目が、目が潰れるぜよー!」
のたうち回る龍馬、お龍はそれを見向きもせずタマに煮干しをやりながら冷たく言い放った。
「……日本を洗濯する前に自分の手でも洗ってきたらどうですか。さあ、お風呂へ行ってらっしゃい」
「そんな殺生な……!」
目に沁みる唐辛子と、お龍の塩対応に涙する龍馬。そんな平和でマヌケなやり取りの傍らでタマだけは、金色の目を細め、夜の深淵を見つめていた。
「……浮かれるのは勝手だけどさ、派手に動けば動くほど君を邪魔だと思うやつらも出てくる。危険の足音が少しずつ近づいている気がするんだよね」




