22/28
第22回:西郷という男
看板を掲げたはいいが一向に仕事が来ない亀山社中の面々は、日々暇を持て余していた。見かねたタマが「煮干し代を稼ぐなら、金持ちのところへ行きなよ」と龍馬を小突いた。そして、数日後ようやく薩摩の西郷隆盛との会談が実現した。
だが、西郷はどっしりと座ったまま一言も発しない。不気味なほどの沈黙に、亀山社中の一同は「恐ろしい策略を練っているのでは?」と戦々恐々としていた。
龍馬も冷や汗をかきながら、懐のタマに助けを求めた。
「……大丈夫だよ、龍馬。このおデブちゃんは、ただお腹が鳴るのを必死に堪えてるだけだから」
タマの言う通り西郷は、極度の空腹で鳴りそうなお腹を独自の呼吸法で抑え込んでいただけだった。するとタマが西郷の膝へ音もなく飛び乗り、その太い腕にスリスリと身を寄せた。
「……おお、猫どんでごわすか」
タマの毛並みに触れた瞬間、西郷の緊張が解け我慢していたお腹が「グゥ〜」と派手に鳴り響いた。
「……ははは、こりゃ失敬。坂本どん、まずは飯にせんかね?」
西郷の笑顔を見た一同は「腹の虫まで操って場を和ませるとは、なんと底知れぬ余裕だ!」と勝手にその深謀遠慮に心酔してしまった。




