第2回:江戸の黒猫特急便
「ちょっと待ちや、タマ! 頼むき、もう一回だけ喋ってくれんか!」
浦賀の喧騒を逃れ、龍馬は必死に黒猫を追いかけていた。しかしタマは、アイツと喋ると面倒だと言わんばかりに屋根から屋根へ軽やかに逃げていく。
「無視せんといてよ! わしゃあ、おまんが化け猫やないか心配ながじゃ……」
龍馬が勢いよく足をもつれさせ、派手にずっこけた。その拍子に転がり落ちた先は、江戸へ急ぐ幕府の早馬の荷台だった。
「ひぇっ! 止めて、誰か止めてつかあさい!」
御者が「おお、急使の増援か! 頼もしいぜ!」と勘違いして、さらに激しく馬に鞭を打つ。荷台は、猛スピードで爆走を始めた。タマも慌てて荷台に飛び乗った。
「……1000年は生きてるけど、これほど速い馬車は初めてだね」
龍馬の横でタマが風に吹かれながら、ボソッと呟いた。
龍馬は目を見開き、タマと凄まじい速さで流れる景色を交互に見た。
「……え、今、なんて…1000…才??」
聞き返そうとした瞬間、馬車が大きく跳ねた。龍馬は叫ぶ余裕すらなくなり、必死に荷台にしがみつく。街道の人々は、その必死の形相を見て歓声を上げた。
「見ろよ!一刻も早く江戸へ危機を伝えようとする、忠義の塊だぜ」
夕刻、予定より早く江戸へ着いた龍馬は、荷台の隅でガタガタ震えていた。それを見たタマが、やれやれと首を振る。
「ただ、うっかり運ばれた積荷のクセに救国の英雄扱い……君の運の使い道、本当に間違ってるよね」
龍馬は震えながら、確信を持てないまま呟いた。
「……やっぱり、1000才って言うたがか?」




