第14回:操練所の休日
機関蘇生の功績で大幅な予算の増額を勝ち取った龍馬は、完全に慢心していた。連日の祝宴と先生だと持ち上げられる日々に、すっかり緊張感が欠落していたのである。その日も勝による最先端航海術の講義の真っ最中だというのに製図机に突っ伏して深々と眠りに落ちていた。
「……バカ龍馬……鼻提灯が膨らんだり萎んだりしてて、見てるこっちが恥ずかしいよ」
懐の中でタマが呆れ顔を見せるが龍馬は、爆睡中である。無意識に動かした筆がインクを零し、紙の上をミミズが這うような奇妙な線を描いていく。さらに、タマがそのインクの付いた足で紙の上を歩き回ったため、図面はもう無茶苦茶に汚れている。
そこへ、視察に来た勝海舟が通りかかる。「……ん? なんだ、この図面は」と絶句した勝は、汚れた図面をまじまじと見つめた。
「……これだ! 船体の抵抗を減らす流線型の設計図じゃねえか! 坂本おめえ、寝ながら未来の軍艦を視ていたのか!」
「……え、あ、はい! 夢の中で異国の広い海を……」
慌てて起きた龍馬は、タマの足跡を指して適当に話を合わせた。タマは隣で「……ただの肉球の跡なんだけどね。でも、ホントにそんな船ができたら、いつか僕を世界の果てまで連れていってよ」と小さな欠伸を吐き出した。




