第12回:お江戸の休日
勝海舟の弟子となった龍馬だが、連日「エー…ベー…シー…」と横文字の羅列に脳みそをひっくり返さんばかりに頭を抱えていた。見かねた勝が「たまには江戸の風でも吸ってこい」と龍馬を赤坂の盛り場へ連れ出した。
二人が立ち寄ったのは小さな弓で的を射る、揚弓場という的屋だった。勝は江戸っ子らしく「見てな、これが海軍の腕だ」と豪語して放つが矢は無情にも的の隅をかすめるばかり。
「……このおじさん、格好ばっかりだね」
懐のタマが龍馬に冷ややかに呟く。龍馬は慌てて「わ、わしがやってみますき!」と弓を引くが案の定、緊張で手が滑ってあらぬ方向へ。
ところが、放たれた矢はタマが懐の中で「エイ」と前足で弾いたとたんに軌道を変え的の真ん中を射抜いた。さらに、跳ね返った矢が隣の棚の景品の干物を次々と叩き落とす。
「……おめえ、天才か?」
勝は目を丸くして龍馬の肩をガシガシと叩いた。「理論じゃねえ、その勘だよ! おもしれえ、坂本おめえとは長い付き合いになりそうだ」
勝が景品を抱えて上機嫌で去る中、タマが龍馬の耳元で言った。
「……ちなみに龍馬。この的矢が転じて、将来こういう露天商はテキヤなんて呼ばれるようになるんだよ。ま、百年以上も先の話を今しても、人間はすぐ死んじゃうから何の意味もないけどね(※諸説あります。)」




