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眷属少女のブーケット  作者: クダミ
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よくある話

 

【モルゲンロート魔法学院から話は変わり——レーゲン渓谷グラス市郊外にある『白い森』】



 

 鬱蒼とした森の中を縫うように発光しながら飛ぶ石と、それを追いかけて走る5匹の黒い狼の群がいた。


 小川を超え咲き乱れる花々を越えても尚、石は止まる素振りを見せない。

 

 うんざりしたように、右端の狼が口を開く。

 


「それにしても気味の悪い所だな。日が全く差さねぇくせに、花畑が出来てやがる」

「同感だ。加えて我々以外の生物の気配がしないあたり、森全体がノイ様の支配下に置かれていると考えていいだろう」

「そんな!じゃあこの森に入ってからもう5日も経ってますけど、ひょっとしてずっと同じ場所を走らされている可能性もあるって事ですか!?」

「落ち着きなさい。イアトス様から授かった『導具』が道を間違えるわけがないでしょう」

「ああ。何かの魔法にかけられているなら、とっくに危機を教えてくれてる筈だ」

 


 5匹が改めて先導する石に目を向けた途端、音も無く真上から青紫の【線】が降って来た。

 


「っ!止まって!!」

 


 中心にいた狼が叫ぶのと同時に、全匹の狼が止まって宙返りする。


 狼の姿から一変、黒いローブを纏った男女が現れた。

 無精髭の生えた男・屈強な体躯の男・背の低い男・長い銀髪を覗かせた女・頬に傷のある男と、目元は隠れていてもそれぞれに特徴がある。

 


 青紫の線。

 いや、降って来たのは頭部にキキョウを咲かせているメイド——ブルーメリッターのバローンだった。メイド服には所々に東洋の甲冑が装飾が付いており、東洋の武士を連想させる出立をしている。


 大きな薙刀の鍔にゆったりと爪先立ちになっている姿からは、何の感情も読み取れない。

 

 薙刀の切先には先程まで彼等を導いていた石が砕け散り、サラサラと音を立てて消えていた。

 


「この魔力、ノイ様の使い魔か」

「植物に人の身体を持たせるとは……相変わらず、型にはまらないお人だ」

「とはいえ所詮は使い魔、複雑な動きはできまい。『バリッツ・エンダーレ(稲妻・前進)』!」


 

 詠唱が終わるよりも早く、銀髪の女が雷を纏って突進する。バチバチと輝く様子は凄まじい。

 


 あと1㎝で接触。

 


 するとバローンの身体が 宙に 浮いた

 


「あ——」

 


 全く重力を感じさせない浮遊感。それに反し、地面から引き抜かれた薙刀の一撃は速く重い。

 

 反撃する間も回避する間も無く、女は袈裟斬りにされる。

 


「アイネット!」

「馬鹿が!さっさと『再生』しろ!!」

 


 無精髭の男が地面を殴る。未だ呆然と切り離された半身を見つめるアイネットと、更に薙刀を振りかぶったバローンの間に地面から盛り上がった土が壁となり割り入った。

 追撃を邪魔されても、バローンは全く動じていない。バックステップで土壁から生えた棘を巧みに躱し、いつの間にか背後に回っていた屈強な男と傷の男に振り返る。

 


『マルテ・ラーレ(炎・螺旋)!』

『マルテ・リーエ(炎・直線)!』


 

 2人の魔法が絡み合い、巨大な炎のランスとなって飛んでくる。これだけの炎魔法は植物であるバローンにとって、当たれば致命傷は避けられない。


 とはいえ、バローンを含めたブルーメリッターはあの『ノイ・モント・デメルング』が作り出した使い魔だ。

 


 自身の弱点の対策を、怠る事は絶対にしない。

 


『       』

 


 薙刀が手のひらで高速回転すると同時に、高威力の水流が放射される。水の勢いは炎のランスを消し去るだけでは止まらず、2人の脇腹を抉り抜いた。

 


「ぐっ」

「このっ」

「下がって!一度立て直しましょう!」


 

 無精髭の男といつの間にか回収されたアイネットを含め、背の低い男を中心に結界が張られていた。血の滴る脇腹を押さえつつ、残りの2人も結界の方へと向かう。

 


 バローンはジッと動かずにただその様子を眺めていた。

 


 巻き込まれないように。

 


 耳をつんざくような轟音と共に、鮮やかな黄色い【円】が木々を薙ぎ倒して現れる。

 予想外の攻撃に2人は反応も出来ずに巻き込まれ、バラバラに切り刻まれた。結界の表面に飛び散る肉片と鮮血に、内側にいる方は最早青ざめることしかできない。

 

 黄色い円はそんな血溜まり避けるように、弧を描いてバローンの隣へと着地した。


 現れたのは回転ノコギリを両肩に担ぎ立つ、ヒマワリの頭を持つメイド。ブルーメリッターのゾンネンだった。

 バローンと違ってメイド服には所々プレートアーマーが装飾されており、メイドというよりかは騎士に似ている。ヨッと片手をあげてバローンに挨拶している様子は、周囲の惨状に対して気楽に感じられた。

 


「2人とも『再生』を!アイネットはそろそろ行けますか?」

「ええ、なんとか」

「たく、次は油断すんなよ」



 2輪が結界の方を伺うと、袈裟斬りにされたはずのアイネットの身体が縫い目ひとつなく治っていた。さらに切り刻まれて血溜まりに浮かんでいたはずの2人も、治療魔法や回復魔法を唱えることなく肉片が集まって立ち上がろうとしている。

 


「驚くのも無理はない、我々はイアトス様から加護を得ている。自分の魔力を消費せずとも、回復する加護をな」

「だからアンタ達がいくら強くても、俺達は必ず突破して任務を遂行してみせる……それにアンタ達もわかってるんだろ?その方がノイ様にとって為になるって」

 


「へぇ、どうボクの為になるって言うんです?」

 


 森の奥から白い影がゆっくりと現れた。


 臨戦体勢だった2輪が、武器を下ろして主へとお辞儀をする。


 辺りに息が凍り付きそうな魔力とプレッシャーが漂い出した。

  


「ノイ様」

「今月に入ってもう20回目ですよ、貴方達みたいなのが来るのは。皆さん学院への侵入が無理だからって、屋敷なら成功すると思ってるんですかね」

「俺達が鬱陶しいのなら、そろそろあの人間を手放したらどうです?イアトス様もそれを望まれていますよ」

「相変わらずだなぁ!やっぱり大お爺様は、いつも自分にとって都合の良い事しか考えてない」

 


 苦笑して側にいる2輪に「面倒な相手です。お前達は下がっていなさい」と指示を出す。 ノイが右手を掲げ広げると、手のひらに紫色に光輝く水晶が現れた。

 

 高濃度の魔力が圧縮されたソレに、侵入者達の背に汗が伝う。見た事も聞いた事もない魔法だった。



「コレはですねー実は最近テスさんをイメージした魔法を何か作ってあげたいなと試行錯誤していたらできたモノなんですが……フフ……丁度いい機会です、お前達で試させてもらいますね」

 


 そう言い終わると同時にノイの姿が消え、次の瞬間には結界を蹴り壊していた。驚愕する背の低い男を隣にいた顎髭の男は突き飛ばしたが、代わりに腹部を殴り抜かれてしまう。

 


「ぐっ」

「1匹目」

 


 咄嗟に雷魔法で剣を作り出したアイネットが斬りかかるも、髪の毛の1本すら切る事も出来ずに躱されてしまう。お返しと言わんばかりにアイネットの顔面に拳を1発返し、ノイは「2匹目」と呟いて振り返った。なんの感情もこもっていないその顔に、僅かにたじろいだ2人の目の前に現れ「3、4匹目」と同時に胸の中央を殴った。

 


 すると殴られて地に伏した4人の身体から、白い木の根っこが生え始めた。動揺して叫ぶ4人を全く気にせず木はどんどん伸びてゆき、終いには4本の呻く白い大木だけが残っていた。

 


「んーやっぱり駄目ですね、全然綺麗じゃない!ボツ!!」

 


 1人だけ攻撃から逃れ、仲間の変わりようにガタガタ震えてるいる背の低い男にノイが近づき笑顔で囁く。

 


「心配しなくても、さっき皆さんに殴り込んだ水晶を取り除けば元の姿に戻れますよ。ただ除去の方法と皆さんを運ぶのは貴方にお任せしますね」

「あ、あ、」

「あーあそれと、大お爺様にこう伝えておいてください

 

『ボクはもう二度とお前の言いなりにはならない』


 って。それじゃよろしくお願いします」

 


 後ろ手を振り、バローンとゾンネンを伴いノイは森の奥へと去って行く。

 


 残された男は仲間達だった木に囲まれ、暫くその場で啜り泣く事しか出来なかった。



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