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フローズ  作者: クダミ
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恋は完璧であれ

セラスの回想




 ノイ様に初めてお会いしたのは、齢26の頃だった。


 毎年12月に、真祖一族主催で行われる『ユールの日』を祝うパーティー。


 私達ゴルゴン種はその昔、真祖様から罰として末代まで呪われた一族ではあったけれど……それと同時に彼等に仕える身分を与えられた種族でもあり、そのパーティーに参加することが許されていた。


 もちろんその経歴と、醜い容姿のせいで周りからはあまり良い目では見られない。だからいつも通り私は同い年の子供達とも距離を取り、挨拶周りをする母の足元に引っ付いてなんとか退屈を凌いでいた。

 


 本日何人目かの亜種に声をかけられた母から、雪降る窓へとうんざりしながら目を向ける…ちょうどその時だった。

 


 窓の手前にいる、私と同い歳くらいの男の子に気付いたのは。

 



 太陽みたいに強くて眩しい、さらりとした白金の髪。

 雪のように、透明感のある真白い肌。

 賑やかな場にいるにもかかわらず、どこか遠くを悲しげに見つめる瞳は、アメジストやタンザナイトを溶かしたような神秘的な光を放っている。

 


 恵まれた容姿を持った人には嫌というほど会ってきたけれど、彼は完全に別格だった。嫉妬を感じるどころか、むしろそうでなくてはあり得ないとまで思ってしまう。

 



 湧き上がってくる好奇心と恋心に胸を踊らせ、母の手を引いて彼は誰かと尋ねた。



 あの瞬間の、ノイ様を見た時の母の顔は今でも覚えている。恐怖・畏怖・尊敬・悲哀……全てがグシャリと混ざった、そんな顔をしながら母は答えた。

 


 あの方はノイ・モント・デメルング様。


 私達ゴルゴン種が全て死に絶え滅ぶその日まで、お仕えする真祖様のうちの1人よ。

 


 幼いながらたったそれだけでもう、彼と私が住む世界がどれだけ離れているのかがよくわかった。


 もう一度ノイ様の方へと振り返って見ると、隣にはもうピンク髪に青い瞳の可愛らしい少女——ウィザード種の中でも特に優秀な者が多いと誉高い、あのリラ家の娘『ユラエル・リラ』を筆頭に、沢山の少年少女が集まり、彼へしきりに話しかけている。

 


 浮かれた気分が、一気に凍りついて砕ける感覚がした。

 



 ◇

 



 それでも、ノイ様への恋心を振り切ることはできなかった。


 しかし再び母に尋ねても『真祖一族きっての無比の天才』としか話を聞けず、数少ない情報から余計に憧れは募るばかり。

 そのせいであの頃はよく、幼馴染で同じノイ様を慕う者同士でもあるヴィオレラとは会う度に「もしもノイ様とお付き合いできたら」なんて話し合っていたっけ。

 


 だからこそ、モルゲンロートに入学した時は本当に驚いた。

 


(まさか同じ学院に通うことができるなんて!私もあの時よりかは成長したんだし……身分は違えど今度こそ、後悔しないように話しかけみたいな)

 


 しかしノイ様の側にはまたあのユラエルに加え、更に『ノンジュ・コトタケ』とかいう美少女が増えていた。聞くところによると、彼女も相当な名家の出で優秀な魔法使いらしい。


 

 さらに噂によれば、2人ともノイ様の婚約者候補なんだとか。

 


 ただでさえ優秀なSクラスと劣悪なCクラスとに分けられて落ち込んでいた私にとって、その情報は充分すぎる追い討ちだった。

 



 やっぱり優秀な人は優秀な人と惹かれ合う運命で、そうでない者は邪魔にならないよう片隅で小さくなって



——大丈夫、わかりきっていたことだ


——大丈夫大丈夫、よく見ろとても美しい光景だ


——大丈夫大丈夫大丈夫、もう私は何もかもあきらめた


——大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫——

 


 そう何度も言い聞かせること数ヶ月。ようやく私も納得して、完璧同士の仲を祝福することができるようになっていた。


 

 

 奴が現れるまでは。

 



 ◇




『テスタ・オール・デメルング』【眷属 人間】——今までに見たことがない、幸せそうな笑顔をしたノイ様から妻だと紹介されたソイツは、私の知っている完璧とは程遠い姿をしていた。



 授業中は子供でもわかるような内容でも馬鹿丸出しの質問ばかりな上、運動をやらせてもルールが絡むとまるで駄目。地位も家柄も実績も無く、容姿だって到底ノイ様の隣に立って許されるようなものではない。



 性格だってそうだ!図太くケチで向こう見ず、何があっても次の瞬間にはケロリとしていて誠実さや思慮深さがまるで感じられない。



 しかし厄介なことに、大した実力も無いくせに外面が良い所為で教師もクラスメイトも皆んな徐々に奴に心を開き始めていた。



 同士であったヴィオレラも含めてだ。



 いったいなぜ、どうしてと問い詰めれば

 


「テスタ?まぁ確かにかなりムカつく奴だし、私もまだノイ様のこと諦めたわけじゃないんだけど……でもあいつ、別にそんな悪い奴でもないんだよね」


 

「セラスも一回、話してみたら?」と笑うばかりで完全に絆されている始末。

 


 オマケに最近ではグロンスキンに捕えられていた生徒を救出したと、僅かとはいえ他クラスの生徒からも一目置かれ始めている。



 馬鹿な、ふざけるな、どうせミリガン・アークやルチャル・ルプトゥラにただ引っ付いて行って何もしていないんだ。

 


 無能が評価されるなんておかしい!

 完璧じゃないと愛されないはずなのに!!

 


 それなのに、いったいどうして


 

「テスさん!お弁当のこの『だし巻き卵』というお料理、とっても美味しいデスヨ!食べてみてクダサイ」

「あ本当だ美味い、私これ初めて見るヤツだ」

「作れそうデスカ?」

「え〜どうだろね……ちょっと待ってよ……ええと先ずは卵と、後は何だこれ…さ、魚系の何かを感じる…」

「頑張ってクダサイ!ボク食べられるの楽しみにシテマス」

 


 ノイ様は奴にあんなに幸せそうな顔をするんだろう?

 


 ユラエルにも、ノンジュにも、きっと誰も見たことが無い特別な姿を……

 



セラスがノイを初めて見た時の描写と、テスタがノイを見た時の描写とはまたお互い違うものを想像するように書いてます。


こういう変なこだわりをいくら入れても叱られないって最高。

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