決闘制度
やっと戦う!やった!!
『魔法による攻撃および呪いは【防御魔法】【障壁魔法】によって防ぐことができる』
『逆に魔力を一切帯びていない物理攻撃は魔法で防ぐことはできない。(クレープス先生の一言:なので急な落石等の予想外の攻撃や事故に対しては必ず人工物や自然物を使って防ぐこと)』
「…はぁーん」
「おいテスタ、テスタ」
『なんで防げん?』
『魔法を介して魔力で作り上げた物質と、自然物や魔法を使用していない人工物ではそもそも強度が違うから。その為、魔法の中では魔力で一から物質を作るよりも自然にある物を操作・集積・召喚する方が…』
「あ、だからカメリアの魔法って」
「テスタ!」
「はいはい、どうした」
「どうしたってお前な、ちゃんとさっきのクレープス先生の話聞いてたか?」
「聞いたよ。だから戦闘魔法の座学ノート、読み返してんの」
後ろの席へ振り返り、手に持っている『いつか主席になる!テスタさんの戦闘魔法!』と表紙にデカデカと書いたノートを見せた。
買ってからまだそれほど経っていないのに、書き込みの多さと読み返しのし過ぎでもうかなりボロボロになってしまっている。
「物は大事になさい」ともしこの場にミリアムさんがいたら叱られそうだ。
「いきなり【決闘制度】なんてのが決まってビックリしたよ。中世に戻った気分」
「だよなぁ。確かに今まで『魔法を使った喧嘩は禁止』なんてルールは無かったが…まさか学院側が教育の一環としてOKするなんてな」
◇
【決闘制度】
それはついさっき発表された、学院での新しい取り組みのことだった。いつも以上にやつれた様子のクレープス先生の口から、重々しく内容が語られる。
「皆んなも知ってのとおり、弊学院はもちろん竜鬼族の【グルーブ騎士学園】や妖精族の【エクリプス・アカデミー】では入学式の頃から生徒同士による魔法を用いた喧嘩がちょくちょく問題になっている」
「その問題について各学校の理事長が集まり
『生徒同士が互いの主義主張を力と言葉で伝える機会を作ってあげたいね』
と話し合った結果、生まれた制度がこの【決闘制度】だ…はぁ…」
「内容としては決闘を挑みたい生徒が相手の生徒に対して申し込み、受け入れれば『制限時間30分』の決闘が始まる。敗北条件は
・倒れてから10秒以内に復帰できずにいる
・明らかに戦闘続行が不可能な状態になる
こと。因みに審判者として開始と同時に理事長の使い魔が出現することになっている」
そこでいきなり、クラス中のタブレットがポコンと音を立てた。
先生に「授業中だけど今だけタブレットを確認してくれ」と言われ画面に視線を落とせば、学院公式アプリ【モルボード】に何やらメッセージが届いている。
「さっき言った決闘の申し込みについてだけど、各生徒には勝利ごとに応じてアプリに★が表示されるようになっている。★が多い者は少ない者に対して決闘を申し込めないようになっているから、一度アプリで自分と相手の★の量を確認してから挑むように」
もう一度深いため息をついた先生に、ジンジャーがスッと片手を上げた。
「武器の持ち込みは?」
「今のところ可能だよ。ただし古い呪いとかの曰く付きの物は一度、審判者の確認が入る」
「人数制限は?」
「一対一だけ。ただし召喚獣や使い魔の使用は許可されている」
「★が多いと、何か特典があるんですか?」
「無い。理事長曰く名誉と暴力の証だそうだ」
そこまで聞くと「へぇ良いですね」とジンジャーは微笑んだ。どこが良いのか全くわからないけど、私も質問したかったことを全て聞いてくれたのはありがたい。
「他に質問は?………なら最後に戦闘魔法学教師として一言」
私達の顔をじっと見つめてから、先生は口を開いた。
「回復魔法や治療魔法は確かに便利なものだ。近年だと解呪魔法の発展で解けない呪い自体少なくなってきているし、生徒の中には多少の怪我でも自然治癒だけですぐに治せる者もいる」
「ただ『心』は別だ。これに関してはすぐに治せる魔法も無いし、死ぬまで治らない場合もある。故に戦う相手が例え他クラスの生徒でも同じクラスの生徒でも、必ず最後に心が折れた者が負ける」
「だからこそ、勝っても負けても絶対に心だけは手放すな……以上だ」
◇
改めて、タブレットを確認してみる。自分の顔写真と名前の下には、★が1つだけあった。
「これって皆んな、最初から★1つ付いてんだっけ」
「いや理事長の独断と偏見で一部の生徒だけ付けられてるらしいぞ。例えばノイ様とか…ほら」
「うわ凄っ」
検索して出てきたノイたんの概要には★がありすぎてほぼ真っ黒になっていた。そのさらに下、関連者として表示された生徒会メンバーの★は軽く10は超えている………一応私も妻として出ているけれど、1つしか無いのが悔しくてしょうがない。
「くっコンニャロ今に見てろ……ん、そういえばルチャルも★1つ付いてんだね」
「大した実力も無いのに、なんでだろうな」
「実力たってルチャル、この間の事件の時とか大活躍してたし、成績だって上の方にいるじゃんか。寧ろ私からしたらもっと★が多くても良いと思うよ」
「そうかぁ?だったら良いんだが…」
うーむ、とルチャルは机に肘をついて前髪をかき上げる。納得しきれないと言った感じだろうか。
「そんで、ミリガンは何でそんなに沈んでんの」
「だって!私だけ★が3つもついてんだよ!!3つも!!」
さっきからずっと机に突っ伏して黙っていたミリガンが、長い髪が乱れるのも気にせずガバッと顔を上げた。黄色い瞳が涙目で充血しているせいか、いつも以上に迫力がある。
「これじゃあ『是非喧嘩売ってください』って言ってるようなもんだよ!ああ~~一体どうして私だけ」
「多分だけどヒント:生徒3人まとめて解呪院送りにした件」
「それだ…もう答え出ちゃったや」
「まぁまぁ、逆に楽しみが増えたって考えようよ」
再び机に突っ伏したミリガンの頭を、慰めの意を込め撫でる。そんなに怖がらなくても、ミリガンならそれなりに戦えると思うんだけど。
「…と、もうこんな時間か。私ちょっとエレント先生のとこ行ってくるね」
「前の授業の補習か?フラスコ爆発させた時の」
「そんなとこです。昼休みが終わる前には戻るから」
◇
怒りに任せ、苛立ちを隠す事もせずに廊下をカツカツ歩く。途中すれ違った幾人かの生徒が、青ざめて窓から飛び降りたけれど別に知ったことでは無い。
ようやく辿り着いた、目当ての理事長室の戸を乱暴に開く。
「失礼します」
「おや、ノックも無しかい。品行方正だ何だと言われている生徒会長様が聞いて呆れるね」
赤・黒・金と、相変わらず趣味の悪い部屋だ。豪華なアンティーク調のプレジデントデスクに向かい、理事長は何かの書留に目を通しながら返事をした。
この人のこういう挑発は挨拶のようなものなので、構わずに本題に入る。
「なんなんですかあの制度は、生徒会では何も聞いていませんよ」
「そりゃ言ってないもの、当然だよ」
「あんな手間も時間もかかる無駄なもの、今すぐ廃止してください。やる意味がわからない」
「ほほう『意味がわからない』ときたか!いやぁ、初めて会った時から『ボクはこの世の全てを知っています』みたいな顔してた君がね~」
「良い加減ふざけるのはやめてください」
威嚇の意を込め、瞬時に氷魔法で作り出した氷柱を一本飛ばす。手元の書留を狙ったつもりだったが、何の魔法も使わずに片手で掴まれた。
そのまま何事もなかったかのように、首元に当てている。
「おお、ちょうど暑いと思っていたんだ。ありがたい」
「…もし、この制度でテスさんが傷付くような事があれば……」
「その時は、どうしてくれるんですか」
そう、手間が時間がと言いつつボクが一番心配しているはテスさんの事だった。
★が無ければ誰にも決闘を申し込まれる心配はないのに…理事長のせいで最初から1つ付いてしまっている。
ボクが牽制していても、全く理解できない事にこの学院には彼女のことを良く思っていない生徒も多い。気の強い彼女のことだ、申し込まれれば拒む事なく決闘を初めてしまうだろう。
「やはりそれが本音か…まぁ他人に興味を持てなかった頃に比べれば、よく成長したね。教師としても親戚のお姉さんとしても嬉しいよ」
「質問の答えになっていません、ブチ殺しますよ」
「ん、そうだった。あ~テスタくんね、でも彼女の事なら心配いらないと思うよ、寧ろ自分の心配をしておいた方が良い」
「何故?ボク誰にも負けませんけど」
「いやいや、そうじゃない」
「君がテスタくんに置いて行かれないよう、気をつけろってことさ」
◇
今日もまた無事に授業を済ませ、グッと伸びをしながら植物園へ向かう。
急な知らせのおかげで色々と準備を急ぐことになったが、取り敢えずやれる事は全て済ませた。
「そろそろやっか!決闘」
振り返って、教室を出てから後ろを着いて来ていた殺意の塊に声をかける。魔法か何かで姿を消しているようだが、ここまで露骨だと気付かない方が難しいもんだ。
不意に空間が陽炎のようにゆらめき、1人の女生徒が現れた。
紫色の髪に、赤い瞳
「クソ不本意だけれどお前に、決闘を申し込む」
私がこのクラスで今のところ唯一話せていない生徒で、入学初日からずっと殺気を飛ばしてきた相手。
「受けて立つ」
気持ちを落ち着けるためにも、メイド時代を思い出しながら上品にお辞儀を返す。
その瞬間足元が盛り上がり、円状の舞台へと姿を変えた。舞台の外、円を割るような位置に柱が立ち、そこに1羽の大きな赤色のインコが止まった。察するにあの鳥が審判者である理事長の使い魔か。
「オ゛ァッ、申シ込ミガ受理サレマシタ!コレヨリ
『テスタ・オール・デメルング』
ト
『セラス・フィズィ』
ノ決闘ヲ、開始シマス!!」
「恨まないでね」
「誰に言ってんだよ」
『決闘開始ー!!』
宣言と共に、いつ攻撃がきても良いように後ろに飛び退って拳を構える。
「ま、お前は手も足も出ないまま死ぬんだけど」
セラスからずっと目を逸らさずにいたのに、気付けば目の前には大口を開けた蛇が迫っていた。




