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フローズ  作者: クダミ
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会議は踊る、タンゴで踊る

オズ目線での職員会議。最後ら辺に、20話で出たCクラスメンバーもちょこっと登場。



「いやぁ〜それにしてもまさか留守中にグロンスキンが襲撃してくるとはね。まいったまいった、ワハハ」

「…理事長なら、予測できてたんじゃないですか?知ってた上でワザと出張旅行なんて」

「何を言ってるんだいエーレくん。流石の私も予知能力は持っていないよ、占いの類いは専門でないし。出張に関しても、本当なら多忙で断りたかったのに先方が是非是非とだねぇ」


 

 現在時刻17時30分、モルゲンロート魔法族学院【第一会議室】にて。先日の『グロンスキン襲撃事件』について、緊急で今いる職員を集め会議が開かれていた。


 マギア・マホガニー製の長机を囲み、先生方が座っている様子は中々圧巻だ。立っているだけで背筋が自然と伸びる。

 


(それだけに…理事長の付き添いといえ、俺みたいなのがここにいるのはやっぱ場違いだよな。長くなりそうだし、テスタにマンドラゴラの水やりを頼んどいて良かった)


 

 居心地の悪さから、目だけで天を仰いだ。先程からクレープス先生と理事長の間の空気が張り詰めている。まぁ生徒が危険な目に遭っている中、俺と同じく理事長命令で出張旅行に付き合わされていたクレープス先生からしてみれば、怒るのは当然だろう。


 にも関わらず理事長はといえば、いつも通り飄々としている。

 


「まぁ今回の襲撃に関しては、私も不可解に思っているよ。今まで現世で数体しか報告されていなかったグロンスキンが突然群れで魔人族を襲うだなんて…うーん、ヴァンダバール(ふっしぎー)!!」


 

 自前のブロンドが編み込まれた団子頭と、夕陽のように赤々と燃える瞳を眩しく光らせ、理事長は両手を広げる。これで…

 


(これで若作りし過ぎてなきゃ、まだ威厳があるんだがなぁ)

 


 そう、俺の主人である『ゴルト・ツァイ・モルゲンロート』は極度の若作り魔であった。


 年齢ならここにいる誰よりも上なのに『アンチエイジング魔法』とやらで10歳児以下の幼女へと姿を変えている。初めて出会った時はそういう存在なんだと思っていたが…魔人族や真祖の中でも、ここまで見た目の若さにこだわっているのは理事長だけだった。

 


「相変わらず他人事みたいな言い方しかできないんですね…あなたのそういうトコが、昔っからどれだけ!」


「そこまでです、クレープス先生。いくら私達教師一同が皆、理事長に不満があるといえ今は会議中。個人的な私怨は控えるべきですよ」

 


 グラスコードのついた丸メガネをかけ直しつつ、ヤヌス先生は淡々と語る。


 普段から仲の良い先生に嗜められたからか、席から立ち上がったクレープス先生もハッとして着席し直した。

 


「ヤヌス先生……すみません、感情的になり過ぎてました。ありがとうございます」

「いいえ、感謝は不用です。今回の騒動で私は現場にいながら無力でしたからね、そういう意味では理事長以上に叱られるべき存在だと思っています」


 

 ここで一つ、おやと思いヤヌス先生を見直す。


 銀髪のシニョンに褐色肌と、真面目で几帳面すぎる性格ゆえに無感情そうな人だが、今回は少し言葉に感情がこもっているように見えた。

 


「無力だなんてそんな、率先して生徒を避難させてくださってたのはヤヌス先生じゃないですか」


「そのとおり!!ヤヌス先生のおかげでAクラスとCクラスの避難は非常にスムーズでした!私なんてその間、グロンスキン8体を捻ることしかできず……ウッオオオオオオオオ!生徒の皆んなに情け無い申し訳ない!!」

「わ、ワカロウラ先生、少し落ち着いてっ」


 

 号泣しながら、黒髪を振り乱し机に頭をゴンゴンぶつけているワカロウラ先生の背を、隣の席にいた生物学担当であるアチェロ先生が優しく撫でた。笑顔ではいるが楓色の髪が少しブワリと広がっているあたり、突然の行動に引いているのだろう。

 


「捻るのは別に良いんだけどネェ、捻るのは。せめて1体くらい生きたまま、捕まえといてほしかったナァ」


「本当にっ!ずみまぜんっ!!」


「エレント先生〜これ以上はワカロウラ先生の涙でお部屋がいっぱいになっちゃうから、そこまでにしときなよぉ」

 


 追い討ちをかけるエレント先生を、呪文学担当のフーモ先生が嗜めた。


 方やクロムオレンジ、方やベビーブルー。浮世離れした瞳を持つもの同士が睨み合い、また室内の居心地が悪くなる。

 


「やっぱ有事の際に生徒が混乱せずに済むように、以前から話してた『避難訓練』を実施すべきですよ」

「私もそう思います。今回はグロンスキンでしたが、テロリストや他の害獣なんかも対象にしてより緊張感の出るよう、突発的に開催するのが良いかと」


「自分、魔法はあまり得意でないですからっ、だから最終的にいつも肉体言語で語るしかなくてっ」

「グロンスキンは魔法を弾くらしいですから、ある意味素手で戦うのは正解よ。むしろどうやって魔法を使わずそこまで強くなれたのかが、私は気になるわ」


「相変わらず、お坊ちゃん先生は随分とお優しいんだネェ」

「エレント先生が人の心を理解できないド畜生すぎるだけだぁよ」


 

 侃侃諤諤、やいやいやい。各々が勝手に話すせいで、場はより騒がしくなってきた。


 

(この会議、いったい最後はどこに着地するんだ…)



 

「ええいっ騒々しいぞ諸君!少しは落ち着きたまえ!!」



 

 バンっと机を叩き、ホイッスルのような声を上げて物理学担当のパヴァロ先生が立ち上がった。


 これには他の先生方も驚いて…若干約数名が呆れを含んだ視線を向けて静まる。



 

「フンっわかれば良いのだよわかれば!大体だね、諸君らが普段からそうやって落ち着きが無いから今回の事件でも生徒達は混乱していたんじゃないかね?聞いたところによれば、AクラスもBクラスもCクラスも防戦一方だったそうじゃないか。情け無い!我がSクラスを見たまえ!!皆堂々とグロンスキン相手に果敢に立ち向かい、勝利しているぞ!!特に生徒会のメンバーなんて…」

 



 注文されて気が良くなったのか、パヴァロ先生は鼻息を荒くしつつ饒舌に語る。彼もまた優秀な教師ではあるのだが…どうしても自分が担任であるSクラスを贔屓目に見てしまう、困ったところがあった。


 

「あのでも、パヴァロ先生。私が聞いた話だと…活躍したのは生徒会だけで、他のSクラスの生徒は皆んな逃げ回ってたそうよ?」

「ギクッ」

「確かニ。考え無しに挑もうとする馬鹿が多くて、救出するのにも苦労した覚えがあるネ」

「ギクギクッ」

「逃げるように言っても『倒してご覧に入れます』と周りをチョロチョロしてましたよ!」

「グゥッ」

「あはは。じゃあみーんなパヴァロ先生の教え通りに、迷惑かけてたんだねぇ」

「グアアアアアアアアアアアアッ」


 

 集中砲火をくらい、パヴァロ先生は真っ白になってイスに崩れ落ちた。フーモ先生のトドメの一言に、中々堪えるものがあったらしい。



 そこでおもむろに、理事長が両手を叩いて皆んなから視線を集めた。

 


「それまでだよ皆んな。パヴァロくんで遊ぶのは確かに楽しいが、そろそろ本題に入るとしよう」


 

 その一言で、皆居住まいを正す。毎回最初からそうやって、会議を進めていたら良いのに。


 

「まずは今回の襲撃に関してだが、狙われたのは何も弊学院だけじゃない。数多の政府施設や観光地や公共施設、人が集まりやすい場所に突然現れたと報告があった」

「ジャ、他所での捕獲は」

「残念ながら無いそうだ。どこも救助の過程で始末したり逃げられたり、その点で言えばうちはよく被害が重症者1名だけですんだものだよ」


 

 因みにこの重症者1名とはテスタのことだ。


 グロンスキンとの対峙後、駆け付けたノイ様に抱き締められて肋骨にヒビが入ったそうだが…聞いていて思ったが本当にアイツ、ちゃんとノイ様に大事にされているのか?


 

「残った血液も残骸も、全て政府が回収してしまいましたし…こちらではもう、グロンスキンについて調べることはできないんでしょうか?」

「ンッフッフッフッフ、そんなことだろうと思って……ジャ〜ン」

「おお!流石はエレントくん、隠し持っていたか!!」

 


 エレント先生が袖口から、何やら赤黒い液体が入った小瓶を取り出した。恐らくグロンスキンの体液だろう。探究心の強い人だとは常々思っていたが、まさかお上に内緒で回収していたとは。

 

「あ゛あ゛っ!それっグロンスキンの体液!!き、気になるっ飲ませてぇええ!!」


「うぉっ、やっやめんかネッ」


「アチェロ先生!発作が出てます落ち着いて!!」


 

 体液を見た途端、アチェロ先生が目を赤く光らせてエレント先生に飛びついた。そういえば確か彼女は【吸血種】で、色んな生物の血を吸うのが好きだと言っていたような。

 


「やれやれ、この後『新しい取り組み』についても話そうと思っていたのに…オズくん、Geh(行け)」

「俺がですか!?」

「そうだと言っている、早くしたまえ。あ、くれぐれも噛まれないようにするんだよ」

「っす……」


 

 ワカロウラ先生に締め技をくらっていても尚、アチェロ先生はエレント先生ににじり寄っている。いつもの温和な姿からは想像もつかない、東方の鬼のような迫力があった。

 


(これを今から……ハァ。テスタがいりゃあ、吸血種を相手にした時の対処法を見せてやれたのにな)

 


 ◇



「で、用事って何?」


「ああえっと〜ほらっ早く!」

「俺ダメっ、お前先いけって!」

「急かすなよ!まだ心の準備がっ」


「まぁまぁ。俺達も別に急いでないから落ち着けよ、な?」


「「「は、はい…」」」


 

 確かに急いではいないが、妙にモゾモゾとしていて怪しい3人組だ。


 食堂から出たタイミングで「話したいことがある」と声をかけられ、中庭まで付いて来たが…さっきからずっとこんな調子で話が進んでいない。Cクラスというだけで他クラスから軽く見られていた件もあって、ミリガンなんかはずっとピリピリしている。

 


「…先日は、グロンスキンから助けてくださってありがとうございました」

「あれっじゃあひょっとして、3人とも湖の時の?」

「はい、そうです!覚えててくださったんですね!」

 


 なるほど納得した。ハンナやカメリアとは、あの後すぐに再開して連絡先を交換するまで仲良くなったけれど、そういえば湖で救出した3人とは会話すらしていないのだった。


 

「今日はそのお礼をと思って、おおお手紙をっ皆さんに!」

「わおお手紙か!あんがとね」

「大したものじゃないんですが、どうしても言葉じゃ長くなりすぎるんで」

「確かに。今からこんなにレターセットが分厚くなるような話されたら、日が暮れるわ…」

「特にルチャルさん!私、あんな風に殿方に力強く抱き上げられたのは初めてで…このご恩、末永く忘れません!!」

「えっ俺!?」


 

 言いたい事を全て言い切ったのか、3人は「じゃあ!」と踵を返して校舎へと走って行った。互いに笑顔でどつきあっている後ろ姿を見るに、普段から仲良しなんだろう。1人ごとに3通ずつ。ミリガンの言う通り、渡された手紙はちょっとした小説くらい分厚かった。本を読むのは好きだし、あまり感謝の手紙を貰ったことが無いからこれは読むのが楽しみだ。


 

「しっかしルチャル!良かったね〜モテモテじゃんか」

「んー…抱っこして運んだ時のこと覚えてるなら、魚人に戻った姿を見てるってことだよな?なのに、どうしてあんなに嬉しそうなんだ…」

「そりゃあ、どんな姿でも助けてくれたルチャルがカッコよかったからでしょ。自信、持って!」



 わからん、と額に手を当てるルチャルの背を軽く叩いた。これを機にもっと、自分に自信を持ってくれたら良いんだけども。


 

「いーや、私はちょっとこういうのダメだな。今まで散々馬鹿にしておいて助けてもらったから手のひら返すとか、怪しい」

「まま、抑えて。別にあの3人に直接馬鹿にされたこととか無いじゃんか」

「そうだけど…」


 

 対してミリガンは、納得がいっていないのか落ち着かなそうに手紙を弄っている。無理もない。これ以上は本人が呑み込めるまで、そうっとしておいた方が良さそうだ。


 

「じゃ、教室に行こう」

 


 ◇

 


 Cクラスに足を踏み入れた途端、ワァッと皆んなに囲まれた。

 


「おたくら、さっき他クラスの連中に付いてったみたいだけど、大丈夫だった?」

「ン大丈夫だよソワン。なんならほら、ファンレター貰っちった」


「おお!ルチャル殿の便箋、猪目模様があしらわれてますな。手前が察するに、もしやこれは恋文では」

「ありゃあ〜コリャ隅に置けませんねアンタァ!」

「こ、恋文!?えええ俺、どっどうしたら…」


「あれ、ミリガンちゃん。ちょっと怒ってる?」

「歯ぁ、抜いとく?」

「抜かない…ハァ…」


 

 こうしていると、自分も大分このクラスに馴染んできたような気がして嬉しくなる。入学してからもう1ヶ月。色んなことがあったけど、入れたのがCクラスで本当に良かった。

 



 

 …と背中に一つ殺気を感じつつ、そう静かに思った。




入学編も、あと少し

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