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フローズ  作者: クダミ
25/35

空中水流救出作戦!!

VS グロンスキン



 見る限り、空飛ぶグロンスキンは2体とも学院の外を目指している。腹が膨れたから巣に帰るのか、それとも腹に入れた誰かをどこかへ運ぶつもりなのか。想像することしかできないけど、とにかくこのまま逃す訳にはいかない。

 


「腹のデカさからして青いのに2人、赤いのに1人ってとこか」

「もっと加速して追いつく?それか着陸するまで跡をつけてみる?」

「向こうがまだどんだけ早くなれるかわからんから、ここは救助優先で……」


 

 グラウンドの上空に差し掛かったちょうどその時、下の方から大きな歓声が上がった。視線を向けると、なんと5匹くらいのグロンスキンがグラウンドの芝生の上で氷漬けにされていた。周囲に大きな血溜まりがいくつもあるあたり、ひょっとしたらもっと数がいたのかもしれない。

 

 大勢の生徒が取り囲む中心で、グロンスキンと向かい合っているのは…

 


「ノイたん!?」

 


 プラチナブロンドを靡かせ、オーダーメイドの白制服を着て生徒会を率いる姿は、遠目から見ても彼だとよくわかった。


 というかどれだけ距離があっても流石はノイたん、彼が一番輝いて見える。

 


「か、カッコいい〜」

「凄いな…あの数をたった1人で」

「私達が1体倒すのにどれだけ…グヌヌ、ちょっとジェラシー」

「ま、ここはノイ様に任せて俺たちはあっちを早く追いかけようぜ」

「そだな…ん、あれ、ちょっと」

 


 1体のグロンスキンが、氷漬けから無理矢理もがいて抜け出した。それと同時に、ノイたんの頭上に巨大な白槍が複数本展開される。このまま串刺しにすれば反撃される前に倒せるだろうが、気になったのはそこじゃない。そのグロンスキンの腹が膨れていることだった。

 


「やめろ!殺すなぁあああーーーー!!」

 


 ルチャルの三叉槍ですら、グロンスキンに飲まれた人を傷付けず攻撃するにはギリギリの大きさだったのに、あの白槍では確実に無事では済まないだろう。


 彼に人を殺させるわけにはいかない。


 必死になって叫ぶと状況を察してくれたのか「先行ってるぞ!」とルチャルは追跡の続きを、ミリガンは少しグラウンドの方へと高度を下げてくれた。

 


(ノイたん頼む、気づいてくれ!)



 ◇



 他生徒の悲鳴を聞き、駆け付けたグラウンドは随分と見苦しい有様だった。複数体の醜いグロンスキンに、恐怖から杖を構えることもできず逃げ惑う生徒達。


 魔法を忘れたその様子はただの人間と変わらない、いや、人間以下に見える。

 


「気持ち悪いなぁ、皆んなテスさんを見習ったら良いのに」

 


 思わず出た独り言に、そういえばこの醜態に彼女が巻き込まれていないか、と辺りを見回す。SクラスやBクラスが殆ど、Aクラスが少しでCクラスの生徒は見当たらない。直前の授業が、ここら辺の教室ではなかったのだろうか。

 少しだけホッとした、早く片付けて彼女の元に向かわないと。

 


「皆んな落ち着け!怪我をした生徒はノンジュのところに集まってくれ!ノンジュ、結界を」

「言われなくても、ハァッ!」

「酷い…よくも皆んなをっ」

「数が多すぎる…ノイ様、早いとこやっちゃってくださいよ!」


 

 勝手にくっついて来た生徒会メンバーに急かされ、ムッとしながら呪文を唱える。


 手っ取り早く済ませたいので今回は、視界に入っていないグロンスキン全てが対象だ。 

 


『シュテレ・カルト』

 


 詠唱し終えると同時にグシャリと骨と肉が潰れる音がして、生徒の歓声が上がった。ただの『重力魔法』に自分なりのアレンジを加えて使い勝手を良くしただけの魔法だ、それほど驚くことではないと思うが。


 そして、あと残るは目の前の5体…


 

(そういえば、今までグロンスキンの捕獲に成功したという話は聞いた事が無いな)


 

 ふと、この5体を捕えて理事長へ『お茶会でのテスさんとのやり取り』を聞き出す交渉材料にしてやることを思いついた。


 仲間が潰されたことに動揺しているのか、動きが鈍くなったグロンスキンをまとめて氷漬けにする。

 


『シュテレ・フェルゼン』


 

「あの怪物を一瞬で…なんと、見事な」

「美しい、美しすぎますわっ」

「やっぱりノイ様はスゲェ!ノイ様万歳!!ノイ様万歳!!」

「殺して!早く殺してぇ!!」

「醜いお前たちには、当然の罰だっ」



 いつの間にか逃げ惑っていた生徒達がまるでスポーツ観戦かの如く、周りを取り囲んで好き勝手に叫んでいる。耳障りが悪い、これならグロンスキンの呻き声を聞いているほうがまだマシだ。


 と、気を取られていたせいか1体のグロンスキンが己の皮膚が裂けるのも構わず身を捩って、氷漬けの状態から抜け出した。全身からダラダラと出血しているのも気にせず、意味不明な咆哮をしている。

 


「無駄なのに」

 


 溜め息とともに指をさし、頭上に召喚した白槍【ヴァルハイト】を向ける。残り4体もいるなら、1体くらい始末しても構わないだろう。

 


「やめろ!殺すなぁあああーーーー!!」


 

 突如、周囲の雑音もグロンスキンの咆哮すらも打ち消すほどの必死な声が空から降ってきた。大好きな、聞き間違えようの無いその声は、と上空を見上げる。


 輝く黒い瞳に、オーダーメイドでワンポイントに白が入った黒制服…ミリガン・アークの後ろにくっついて手を振っているのは遠目から見てもよくわかる、テスさんだ!


 彼女だと気づいた途端、脳裏に様々な感情が駆け抜けてゆく。

 


(ちっちゃーい!遠目で見てもかわいっ。ミリガン・アーク近すぎでは?処す処す処す。ああしかし、あのスカートであの高さの箒に乗っていたら下着が見えてしまうのでは!?早くこの場にいる奴ら全員の目を潰さないと、いや、それよりも優先すべきは)

 


「テスさーん!無事だったんデスネ!今すぐそちらへお迎えニ」

「ノイたぁあーーん!やる前に!吐き出させて!!」

「へ?」

「そいつの腹!中に人が捕まってる!殴って吐き出させてーーーー!!あっ前!」

 


 前、そう聞いて視線をグロンスキンに戻すとこちらに突進してきていた。ヴァルハイトを突き刺そうとすれば、テスさんの先程の「吐き出させて」という言葉を思い出す。


 吐くといっても方法は…殴る…殴る…

 


『シュテレ・ゾーレ』


 

 地面から勢いよく氷でてきた柱を生やし、突進してきたグロンスキンの腹部を突き上げる。少しも予想していなかったであろう一撃に、堪らずグロンスキンは痙攣しながら何かを口から吐き出した。


 

「ヒィッ!ひ、人がっ」

「なんておぞましい!」

「あの子、さっきまで一緒に逃げてたと思ってたのに、いつの間に…」

 


 なるほど、中に人が捕まっているとはこういうことか。駆け寄った生徒会メンバーに救出される男子生徒を見ながら、一人納得する。


 ともあれ、これでやっとテスさんを迎えに行ける。きっと沢山褒めてくれることだろうとウキウキしながらまた空を見上げれば、そこには雲しか浮かんでいなかった。

 


「テス…さん?テスさん、テスさん!いったいどこに!?」

 


 そこにいてほしかった筈の彼女がいないことに、今までに感じた事が無いような怒りが湧いてくる。


 早く見つけないと、早く抱きしめて安心させてあげないと!!


 

(どこだどこだどこだどこだどこだ!いや落ち着け…もし彼女がボクの魔力を使ってくれれば探しやすいが…待てよ、ミリガン・アークの箒に乗っていたのなら、奴の魔力を感知すればすぐに見つけられる筈!)


 

 いざ、テスさんの元へ!!

 そう思っていたのに、急に氷漬けにしていた残りの4体も無理矢理外に飛び出してきた。また周囲の悲鳴に、呻き声。集中力が嫌でも乱されて酷く不快に感じる。

 


「邪魔するなよ…」


 

 心の底から溢れた憎悪が魔力と共に、声に混ざって爆ぜた。

 



 

「ごめん遅らした!」

「大丈夫!まだそう遠くまで行ってないみたいだよ、ほらっ」

 


 ミリガンが指をさした先には、さまざまな大きさの水滴がまるで道のように空中に漂っていた。きっとルチャルが、どっちへ行ったかわかりやすいよう目印に置いてくれたんだろう。

 


「結構時間経っちゃったけど、追いつけそ?」

「イッヒッヒッ…」

「ミリガン?」

「そーんなちょっとやそっと離れたくらいで、私とこの【トマホーク】から逃げ切れると思ったら…」

「ミリガンさん?」

「大間違いじゃあ!リミッター解除!!」


 

 いきなり荒ぶったミリガンに合わせ、箒が何やらキーンと甲高い音を立て始めた。後ろを見ると、箒の先に何やら赤白い光がどんどん集まっている。

 


「ミリガンさん!?」

「飛ばすでぇえええええ!!」

「ミ、ああーーーーーーーー!!」


 

 急加速した箒はまるで隕石のように、向かい風で口が閉じられなくなる早さで飛んでゆく。もうミリガンに掴まって叫ぶことしかできなくなっていた。

 


「あああっ、ほひふひはっ(追いついた)!」

「お待たせ!」

「来たか!お疲れさん」


 

 叫ぶこと数分、水飛沫を上げながら飛ぶルチャルの槍にやっと追いついた。ハズレかけの顎を片手で治し、前方を飛ぶグロンスキンを目で捉える。


 さて、どうするか。

 


「救出優先だろ?でも空中戦なら、こっちよりも自由に飛べる向こうに武がありそうだな」

「呪いは効くけど、呪法って速度が遅いから避けられちゃうかも」

「ん〜…お、湖」


 

 進行方向の左手には、授業中に通った湖が広がっていた。もうここまで飛んだのかと思うのと同時に、とある作戦を閃く。

 


「なぁルチャル」

「どうした?」

「水魔法、得意なんだよね?だったらこういうのって……」

 


  ◇



「真水か…いや、できる。任せとけ」

「うん、万歳よろしく。すぐに作戦始めっから」

「了解!」


 

 言い終わると同時に、槍が速度を上げ湖の方へと飛んでった。

 


「じゃあミリガン。私に構わず、しっかり当ててね」

「ほ、本当にいいの!?」

「いいの、いいの。別に死ぬわけじゃないし…ん、そろそろ良いかな。じゃあ今度は名付けて、


空中水流救出作戦開始ーーーー!!」


「うぉおおおお!!」


 

 ミリガンの箒がまた急加速する。グロンスキンの真後ろビタビタにくっついた瞬間、箒に立ち乗りになって赤色の背へと飛びつく。突然の奇襲に、慌てて私を振り落とそうと暴れるが、しっかりと組み付いて無理矢理ミリガンの方を向かせる。

 


「ミリガン!今ぁ!!」

『呪いあれ!』


 

 入学初日にも見た『強制吐蟲呪法』はミリガン曰く、呪う相手に対して恨みがあればあるほど吐き出す虫の量が多く大きくなるらしい。


 逆に、それほど恨みが無ければただ嘔吐するだけで終わるんだとか。


 完全に呪いが直撃するタイミングを見計らい、組み付いていたグロンスキンを足場にして、今度は近付いてきたもう一体の青色の方へと飛んだ。

 


「だりゃっ!大人しくするんだよ大人しく!ミリガーン!」

『呪いあれぇ!!』


 

 今度もまたぶつかる寸前で飛び退いた。


 えずき出したグロンスキンを視界の端で捉えつつ、落ちてゆく。

 


「ミリガンごめーん!着地まで考えてなウボッ!?」

「テスちゃん!掴まっボァッ!?」


 

 下から向かってきた冷たい水の柱が、うねりながら私とミリガンを巻き込む。とりあえず息を止めて流れに身を任せていると、地面に身体が付いた瞬間、水が霧散した。


 

「ゲホッあー…ミリガン、大丈夫?」

「はっはっはっシンジャッ死んじゃうっ!お、泳げないのに、私っ」

「悪りぃ、2人とも落下してんのかと思って巻き込んじまった」

「いやぁ大丈夫。助かったよ、あんがとねルチャル──」



 ルチャルの声がした方へゆっくりと振り返れば、そこに立っていたのは大きな、大きな魚人だった。青い体色に緑色の目、顔の傷からすぐに元の姿に戻ったルチャルだと気付けたが…気になったのはそこではない。

 


「え、ルチャルくん?私、初めてその姿…見たんだけど…」

「…なんだよ」

「なんだよって言うか…ンフフ、めちゃくちゃ可愛いねンフフフ」

「笑うな」

「イヒッわかる、本当に、可愛い…イヒヒヒヒ」

「笑うなって」

「えーちょい触らして」

「私も!」

 


 ネコザメの魚人であることは聞いていたが、いかつい体型に反して気が抜けるような顔をしているのには驚いた。初めて見る姿に、私もミリガンも大興奮で腕をさすってみれば、少しザラつく癖になりそうな触り心地をしていた。

 


「はいはい、もう終わり!ったく…大量の真水は海水より扱いにくいから、魔力の多いこっちの姿に戻っただけだってのに…」



 ぶつぶつ言いながら、ルチャルは足首に付いている黒い輪ををいじった。途端に光に包まれ、いつも見なれた人の姿へと変わる。

 


「ああー、もっと触りたかった!」

「かった!!」

「我慢しろ。それよりも、ほら…やったな俺達、作戦成功だ」

 


 ルチャルの指差した先には、さっきグロンスキンから吐き出された生徒が3人寝かされていた。


 私が組み付いて動きを止め、ミリガンの呪いで吐かせて、ルチャルが湖の水を操って生徒をキャッチする。急いで考えた作戦だが、中々良かったんじゃないだろうか。



 

「上手くいった!イェイおつかれ!!」

「イェイッ!」

「おつかれ!」

 


 作戦成功の興奮から、互いにハイタッチし合う。

 グロンスキンは倒せなかったが、救出は済んだ。


 あとは学院に戻って

 


「「DEARーーーLARーーーGERーーーー!!!!」」

 


「ギャアッ!きっきてる!きてるよ!?」

「そりゃそうだよな…テスタ!」

「OKぃ、くるなら来い!!」

 


 ミリガンは箒を、ルチャルは槍を、私は拳を。横並びになってこちらへ降下するグロンスキンへ向け、構える。


 こうなった時の作戦は考えていない、ということはもう戦うしかない。

 


「ぶっ飛ばし、あっ」

「「あっ」」

 


 突如真横から飛んできた白槍が、グロンスキン2体にまとめて突き刺さった。全く予想していなかった出来事に3人まとめて呆気に取られていると、私も真横から何かがぶつかり吹き飛ばされる。


 

「おっゴッ」

「テスさん!テスさん!!ああ、やっと見つけましたよ!こんなところにいたんデスネ!!」

「の、ノイたん…」


 

 蛇のように、胴に彼の腕が巻き付いて締め上げ…いや、抱きしめられる。ただでさえぶつかられた時の衝撃で身体中が痛いのに、このハグでバラバラになりそうだった。なんとか落ち着いてほしくて、声を絞り出す。


 

「助けて、くれて、ああんがと…でもちょ、ちょいっ一回離してっ」

「嫌です!さっきみたいに急にいなくなるつもりなんでしょう!!あの時、ボクがどれだけ悲しんだか…」

「ゔぅーー」

「て、テスちゃんしっかり!おいゴラ離しなさいよこのっ」

「おいミリガンっ、流石にノイ様に杖向けるのはやめとけって!」

 


 骨が軋む様な音に、ノイたんとミリガンとルチャルの声が段々と遠くに感じる。

 

 そういえば確か、以前にもこうやってノイたんに抱きしめられて死にかけたことがあったな…と思い出しながら、意識を手放した。



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