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フローズ  作者: クダミ
23/35

プチっとするか、ブチ抜くか

ノイとテスタの違いについて



「んー……やっぱり、気になる…」

 


 頬杖をついて、目の前の書類を再度読み直す。


 新しい部活動【園芸部】の申請書。

 そしてそこに書かれてある生徒の名前はテスタ・オール・デメルング──ボクの妻の名前だ。


 今現在。生徒の数が少ない弊学院では充分な部員数が確保できなくても、よほどトンチキで不真面目な活動内容で無い限りは部を創部しても良いという決まりがあった。

 したがって、たとえ部員数が1人でも園芸部は問題なく創部できる。

 なんだったらもう創部されて、1週間以上は経過している。

 

 ただ問題は、そこじゃ無い

 


(テスさんはどうして、ボクに何も相談してくれなかったんだろう。何か一言くらい、頼ってくれたら良かったのに)

 


 溜め息を吐いて、テスさんの名前の部分だけ指でなぞる。


 彼女の初登校から4日目。わざわざSクラスまで来てくれたかと思えば、ニヤニヤしながら手渡されたのがこの申請書だ。

 


『園芸部!?わざわざ部活にしなくても、庭いじりなら屋敷にあるのを好きに使ってもらっテ…』

『いや〜それがさ、管理人のオズさんって言う人がこれまたスンゴイ庭仕事のプロでね、どうせやるならその人に色々教わりたいのよ』

『そんなのボクの方が教えられマス!』

『んでもノイたん、最近しょっちゅう生徒会で忙しそうにしてんじゃん』

『ウーッ!そ、それハ』

『それにどうせなら部として活動した方がいいって、言ってくれたの理事長だし。あ、あと顧問にもなってくれるって』

『理事長ガ?』

 


 確かに理事長は学園長も兼任している。


 一応顧問として活動できはするが…正直、珍しい人間の眷属であるテスさんに近づきたいだけな気がしてならない。

 下心は無くとも、研究者気質が強い人だ。顧問・生徒という立場を利用して彼女でアレコレ実験するつもりじゃないのか。


 もちろんこのことは、テスさんにも言ってある。

 

 だが

 


『そこは私も気になって聞いてみたんだけど、違うって言ってたよ。ただ早いところ植物園を完成させたいのと、一部の管理を生徒に任せてみたいんだって。そんでゆくゆくは園芸部の人数を増やして全体の管理をさせる…のが、野望なんだそうで』

『それって、ただ業者を雇いたく無いだけじゃないデスカ』

『んまま、落ち着け。私は別に悪いやり方じゃないと思うけど。あと普通に話してみた感じそんなに悪い人には見えんかったよ。この間お茶会した時とか、めちゃくちゃ良い茶葉で淹れてくれたし』

『お茶会』

 


 ああ全く、思い出しただけでもハラワタが煮えくり返りそうになる。

 


(あの女…ボクを差し置いてテスさんとお茶会だなんて!それに部の活動中は、あのオズとか言う管理人と2人きり…あダメだ、本気で苛ついてきた)

 


 実は最近、テスさんと触れ合う時間が極端に短くなっている。


 理由は帰りの遅いボクにもあるけれど、宿題だの予習だの復習だのでテスさんはよく部屋に籠りがちなのだ。

 わからないところがあるなら教えてあげるのに、いつも彼女は「まずは自分で頑張ってみるんだぁよぉおお!それでもわかんない時はお願いします」と言って聞かない。


 気になって部屋をこっそり覗いたら、本当にずっと勉強をしていて邪魔しようにも気が引けてしまう…そんな日々が暫く続いていた。

 


(でもテスさんもテスさんだ。こんなに想ってるのに気付いてくれないなんて…ちょっと、こう、プチっとした方が良いのかな…良いかも、うん、イイかも!!)

 


 別に何も、傷つけようというわけじゃない。


 彼女を魔法で手のひらよりも小さくして、ほんの少しの間…720分くらい、勉強よりもボクの方を優先させるだけだ。

 この魔法はまだ授業でも教わっていないだろうし、学院内では使用できる者は少ない。初めて見る魔法に「おわぁ!凄い!!なんじゃこりゃあ!?」とさぞ驚いてくれることだろう。

 


 手のひらの上で、何も出来ずにいるテスさん。

 


「フフフ………絶対に楽しい…」

「ノイくん楽しそうだね、何か良いことでもあったの?」

「ん」

 


 いつのまにか、顔にも声にも出てしまっていたようだ。向かって右斜めの席にいる、書記が声をかけてきた。

 


「失礼。うるさかったですね」

「ち、ちがうよ!ただ最近のノイくん、よく笑ってるから…」

「確かに、前よりずっと機嫌が良くなったな。何かあったのか?」

「どーせ新しい魔法を思いついたとかでしょ。ノイって本当に、それしか考えてなさそうだし」

 


 副会長に会計まで、会話に混ざってくる。そういえば生徒会の連中にはまだテスさんのことを話していないのだった。この際だ、教えておこう。

 


「いえ、妻のことを考えていました」

「えっ」

「へっ」

「はぁ?」

「どんなって聞かれると控えめに言ってもの凄くかわいいんですが、それ以上にとにかく釣り上げたての魚みたいに元気な方ですね。何でも興味を示してくれるから、会話していて本当に飽きがこないのも魅力の一つです。あと特に好きなところが」

「待ってふざけないで!何言ってるの!?」

「妻?魚??」

「ノイくん、それ、本当?」

 


 急に会計が声を荒げ、こちらを睨みつける。副会長はただ口を開けて唖然としているが、書記の方は何故か酷く青ざめていた。

 


「?ふざけてないです、全部本当のことです。名前はテスタ・オール・デメルングさんと言って、この前Cクラスに入られた方です。皆さんどうか失礼の無いようしてくださいね」

 


「Cクラスだと!」

 


 突如、部屋のドア付近から飛んできた声。

 


 目を向けると…そこにいるのは…誰だ!?

 


(待て、本当に思い出せない。この間テスさんに全生徒の名前を覚えてるって見栄を張ったばっかりなのに、ばっかりなのに!)

 


「ふん、なるほど。生徒会長様は、そうまでしてユラエルの気を引きたいんだな」

「なっなななに言ってるの!?やめてよセンくん!」


(セン?てっきりバ行から始まる名前かと)


「おい、ノックも無しに入ってきて先ず言うことがそれか」


(もっと情報が欲しい。そもそもどこのクラスだ?)


「相変わらず、風紀委員のクセに礼儀がなってないんだね」


(風紀委員!確かに、よく見たら腕章がある)


「うるせぇ、ユラエルに負けてる奴は黙ってろ」



 もう少し、あと少しで思い出せそうだ。あっあっわかったかも!

 


「Cクラスの新入生、見たことがある。パッとしないならまだしも、ムカつく表情をしていたな。ユラエルに比べたら宝石と…いや、星と石ころくらい差があるんじゃないか?」


「………」


「そんな奴を連れてきて、ユラエルが嫉妬してくれるとでもお も 」


「キャア!」

 


 ギュッと圧縮され、床に落ちた赤く脈打つ正方形の肉肉しい箱は、さっきまでそこで喋っていた『虫ケラ』だ。



テスさんの悪口を言ったのに対して『瞬間圧縮魔法』をかけるだけだなんて…罰としては軽すぎるが、あまり騒ぎを起こして両親の耳に入るとマズいから、とりあえず今はこれだけにしておこう。

 


「ノイっ、こ、これ、生きて」

「生きてますよ。暫くはそのままなので、どうぞ捨てるなりいたぶるなりしておいてください」

 


「おーい誰か!理事長が新しくレース場を学校に設けたいって言い出したんだけど…うお何コレ!?」

「理事長が?わかりました、ボクが行きます」

 


 虫ケラを見つけて入り口付近に固まる庶務を他所に、魔法で浮かせた上着を羽織りつつ理事長の元へと向かう。

 


(テスさんを小さくする案、どうしようか…よく考えたら、大きくする方が触れられる面積が増えて良いかもしれない。眠らすのもアリか?いや、そうなると話せないのがな……)

 


          ◇

 


「そろそろ休憩にするぞ、手ぇ洗って来い」

「ブチ抜く…ブチ抜く…真っ直ぐ…真っ直ぐ」

「おい」

「をっをっなになに」

 


 集中して目の前の岩石にツルハシを振り下ろそうとすると、いきなり耳元でパチンっと手を叩く音が響いた。

 


「休憩だ。集中力が必要とは言ったが、あまり根を詰めすぎるな」

「う、ウス!」

 


 慌てて水道へと走る。初めてからもうそんなに時間が経っていたのか…少しは修行に慣れてきた証拠だと良いけど。

 


 今やっているのは道具に魔力を流し、丈夫にしてから木を移植するための穴を掘るという作業(修行)だ。


 オズさんが言うには眷属は魔法を使うことができないかわりに、主である真祖から魔力を借りることができるそうだ。私だったら主であるノイたんの魔力を使わせてもらっているのだが…ツルハシを当てた岩が大爆発したり、スコップの当たった小石がもんの凄い勢いでオズさんの腰に命中して大惨事になったりと、とにかく集中しないと彼の魔力は扱いが難しかった。

 


「お待たせしました。あヤッタ!オズさんの動物パンだ!!」

「お前さんこれ好きだね」

「いやだってこれめちゃくちゃ美味いですよ。どれにしてやろ…よしゃ、ハリネズミ」

 


 お礼を言って齧り付く。ナッツと甘すぎないチョコが、少し固めの生地と合わさっていくらでもいける。

 


「うん、やっぱり美味いです。ノイたんにも食べさせてあげたい…」

「なら今度レシピ書いてやるよ」

「良いんすか!?ありがとうございます!」

「ただし、俺レベルのパンに仕上がるまでは最低でも10年かかると思え」

「あ結構大変」

 


 暫く談笑しつつ、オヤツをいただく。魔力で身体能力を上げるコツをつかみ出してから、大分元気に作業ができるようになってきた。最初の3日間は何をやってもすぐにバテて、ヨレヨレのボロボロになりながら帰宅したもんだ。


 

「ところで、最近ノイ様とはどうなんだ」

「ノイたんと?ノイたんと……は最近ちょっと、ゆっくり話せてないかも、です」

 


 向こうが忙しそうだから。


 というのは言い訳で本音を言うと、あの日以降ノイたんに近付くことに、私は若干引け目を感じていた。


 もちろん、態度に出したりあからさまに距離を取ったりはしていないが、今の自分はまだまだ彼の隣に立てるような者じゃない。


『くっついて幸せに浸っている暇があるなら、もっと己に磨きをかけるべきなんじゃないか』


 そんな気持ちが、強く彼の近くにいたい自分を押さえ付けている。


 学校生活で上手くいっていない部分を彼に察されたくなくて、朝ごはんの時も夕ごはんの時も学院での生活を聞かれても「全然大丈夫、超楽しい」とありきたりな事しか言えずにいた。


 

「まぁ俺が気にすることじゃないが…いくら近い距離で暮らしていても、たまにはそばにいる時間を作っておいた方が良いとおもうぞ」

「うーん、でもなぁ」

「世の中にはな、ずっと一緒にいると思っていた相手と急に離れ離れにされることもあるんだ。言っておきたいことは言える時にしっかりと伝えておけよ」

 


 どこか遠くの方を見ながら、オズさんは寂しげにそう言った。

 


          ◇



 お風呂から上がると真っ先に、リビングのソファで読書をしてるノイたんの様子を隠れて伺う。


 夕方のオズさんの言葉が脳内に浮かんだ。ちょっと深呼吸して意を決し、若干ぎこちなくソファに近寄る。

 


「の、ノイたんっ。横っ、良い?」

「テスさん!はいどうぞ、少し寄りマスネ」

「うむ」


 

 唾を飲んで真横に腰を下ろす。


 ノイたんのいる側の肩やら腕やら脚が、妙にフワフワして落ち着かない。

 


「ちょ、ちょっちょっとね、話したいなと思ってね」

「ボクもです。今夜はテスさんとお話ししたい事があったノデ」

「そうだったんだ…あ、先に話す?」

「いえテスさんの方が、お先にドウゾ」

「ありがとね。じゃ…ちょっとお願いが…」

 


 ゆっくり、ノイたんに向かって両手を広げる。

 


「?テスさん?」

「抱き、ついても良いぃーーーーーかな?」

 


「…………ぇ」

 


「ごめん、はしたないね。やっぱやめとく」

「ダッ抱きっやめ!?あっやめるのダメです!ボクはしたないの大好きですから、お気になさらズ!!」

 


 「サァ!」と慌てて両手を広げる姿に、ホッとして飛びついた。


 胸元に頬が触れる。少し呼吸するだけでスッキリとした彼の香りがして、心が安らぐ。

 


「良いね。世界で一番、安心する場所」

「そ、そうなんデスカ?」

「うん。前はガルボン邸の寮のベットが、そうだったけど、今はここ」

「……へぇ」



 ゆっくりと抱きしめ返され、頭と背中を撫でられる。少しくすぐったくて、ついにやけてしまう。

 


「珍しいですね、テスさんからこうしてくるだナンテ」

「本当はずっとこうしたかったんだけどもね。一応私、淑女だから。自分から行くのはがっつきすぎかなって」

「そうでしたか…寂しい思いをさせてしまって、スミマセン。思えば、生徒会だなんだで最近はテスさんを独りにさせてばかりデシタネ」

「いやぁ私も、勉強とか部活とか夢中になりすぎててお嫁さんぽくなかったね。ごめんよ」

「気にしないでください。おかげでこんなに、かわいいお願いが聞けましたカラ」

 


 いつもより低く、優しい声音に、顔がグァーッとひどく火照り始めるのを感じた。慌てて「そ、そんじゃあ次!ノイたんの話したい事って!?」と顔を見上げる。

 


「え、ボク?」

「さっきそう言ってたけど、何言うか忘れた?」

 


 なぜか大変気まずそうにアーとかエーとか唸りながら目を泳がせている。あきらかに様子がおかしい。心配になって一旦、居住まいを正そうと身を反らすと

 


「ダメッ!」


 

 と強い力で引き戻された。


 肩と掴まれた左手首に痛みが走る。

 


「わっおっ」

「あ…ご、ゴメンナサイ…テスさん、また部屋に戻っちゃうじゃないかと思って…」

「大丈夫、座り直そうとしてただけ。どこにも行かないから安心して」

 


 不安げな表情をした彼の頬に、そっと手を沿わす。ミリアムさんも、私が不安がった時にはよくこうしてくれたものだ。

 


「明日はお休みだし、ココでこのまま好きなだけ映画ってやつ見ながらゴロゴロしようかなって思ってたんだけど、ノイたんどう?好きなだけで良いから、付き合ってくれる?」

「ッハイ!もちろん!!朝までお付き合いしマス!!」

「よしゃ、じゃあ夜食作るの手伝って」

「任せてくだサイ!」


 

 ソファから立ちあがろうとすると、そのままひょいと抱き上げられてキッチンに運ばれる。

 おいおい私は子犬か何かかと呆れたけれど、さっきと変わって幸せそうな彼を見ていると、まぁいいかと許してしまう自分がそこにはいた。

 



「そういえば、話したいこと思い出せた?」

「忘れちゃいました☆大したことじゃなかったので、もうかまいまセン♡」

「そ、そうなん?(気になるな…)」

 




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