表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フローズ  作者: クダミ
2/22

お使い 〜馴れ初め編〜

 私が孤児院からこの屋敷に来たのはちょうど9歳になったばかりの頃だった。

 『息子と歳の近い使用人がほしい』という奥様の要望によって、品定めに来ていたミリアムさんと無事就職できた私を乗せた馬車は、雪景色の中を走っていた。

 

 あまりの寒さに、歯をガチガチならしながら窓の外を見ていた私にミリアムさんが「着ていなさい」と上着を脱いで渡してくれたことはよく覚えている。

 

 自分で言うのもなんだが、あの時からミリアムさんは私のことをよく見ていてくれた気がする。


「で。テスタ、あれからどうなったの?」

「え?」


 今年で13歳になる誕生日に、ミリアムさんからプレゼントされた小説を読みながら昔のことを思い出していると、いきなりそんな質問が飛んできた。

 

 使用人寮メイド練には2人で一部屋の個室が与えられているが、15歳未満の私達はまだ3人部屋。

 加えて、いつのまにやら先輩メイド達も何人か消灯時間までおしゃべりにきているせいで辺りはかなり賑やかだ。


「え、なんの話?」

「夕方の!いじめっ子連中の目をつぶした後の話!!」

「ああ…」

 

 目は潰してないけど、別に訂正しなくてもいいか。


「特に何もないよ。旦那様と奥様からは『ありがとう、相手の顔が割れたからこれで出るとこ出られる』って笑顔で言われただけだし、向こうもお医者さんが言うにはちゃんと治るってさ」

「わぁ〜それ奥様絶対ブチギレてる時の笑顔だったでしょ」

「うん、旦那様もかなりね」

「いじめた方が悪いとはいえ、なんか向こうの今後が可哀想に見えてきたわ」


 鳥肌がたったのか、寒そうに両腕をさする同僚の向こうから先輩が「けどアンタさぁ」と話しかけてきた。

 

「向こうにはまだ鉄板仕込んでたこと話してないんでしょ?もしも『ガルボン家のメイドは鉄みたいに硬い腹筋をもってる』…なんて噂がたったらどうしてくれるのよ」

「?別にいいんじゃないですか?ナメられなさそうで」

「おバカ、怖がられて男が寄って来なくなるじゃない。人生いつ出会いと告白のチャンスがあるかわからないんだから」


 そう言ってため息をつく先輩に「わかるわかる」と皆んな相槌を打ちはじめる。

 

「私も早く結婚したいなぁ、この間パーティーにいらしてた…確か西の方の王子様だっけ?素敵だったわ」

「いっしょに来てた商人さんもね!馬で移動しないといけないぐらい広いお屋敷を持ってるって」

「あらやだアンタ、そんなこと言っていいの?秘密の彼氏さんにバラしちゃおっかな〜」

「「「「何彼氏って!?初めて聞いた!!」」」」


もうすぐ消灯前だというのに、恋愛話で場が完璧に盛り上がってしまった。ついていけないので布団に潜り込み、少しの隙間から窓の向こうの月を眺める。

 

 結婚とかはまだよくわからなくて、あまり深く考えたことすら無かった。

 将来だって、きっと私もミリアムさんみたいに独身でこの屋敷に仕えているのだろう。

 

 大変なこともあるけれど、院にいた頃よりもここでの生活はずっと楽しくて暖かい。

 

 …けど時々、今みたいな瞬間にふと『まだ知らないだけで私を待っている何かがどこかにいるんじゃないか』と不思議な気持ちになることがある。

 

 きっと今の生活が幸せだから、贅沢なことを考えているだけだ。

 それよりも明日のために、もう早く寝ないと。


           ※


「ハサミを取りにぃ?なんで?」

「ああ、最近切れ味が落ちたからチェストさんのところに研磨を頼んでたんだけど、昼間取りに行くの忘れちゃってさ…明日には必要なんだけど俺これから親方に呼ばれてて、お願い頼む!」


 そう言って庭師見習いの男子、シェローくんは深く土下座した。

 正直この後も掃除だったりなんだったりで仕事があるから断りたかったんだけど、彼曰く「ミリアムさんには許可とってるからさぁ!!」ということらしい。

 

 忘れちゃったのは嘘じゃなくても、わざわざ私に行かせようとしているのは時間にうるさいチェストさんに会うのが怖いからだ。


 しょうがないので「貸し5つね」と予定外のお使いを承る。


 時間も時間だが、今から行けば完全に暗くなる前には帰れるだろう。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ