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フローズ  作者: クダミ
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約束と無くし物

「まさか入学初日から呪われるだなんて…やはり、ボクと同じSクラスに入れさせるべきデシタ」

「入試の点数で決めてんだから仕方ないって。それにまだ1日しか通ってないけど、Cクラスって中々面白いとこだよ。隣の席のラヴちゃんとかこれまたユーモアの通じる子でさぁ」

 

 保健室で玉虫を吐くのが治ってから数分後、今やっとノイたんと寮室に戻ったところである。

 

「ラヴ?ひょっとしてラヴ・ネプトゥンのことデスカ?」

「そそ。流石は生徒会長、皆んなの名前覚えてんだね」

「い、いやーーまぁこれくらいは出来て当然デスカラネッ!あと知ってることといえば…」

 

 不機嫌だった様子から打って変わり、頬を染めて上機嫌になったノイたんを「はいはい、先にお風呂入ってね生徒会長」と背中を押してバスルームに誘導する。ドアを閉め、またすぐに飛び出して来るんじゃないかと警戒しながら待ったが、シャワーの流れる音にホッと安心して自室に戻った。


 モルゲンロート魔人族学院の寮はいくつもあって、高級な所ほど内装やサービスが変わるのだそうだ。その中でも最高級であるこの寮には、リビングを挟んだ各ドアから自宅…この寮室なら、あのデメルング邸の部屋へと繋がっているという特殊な魔法がかかっていた。

 

 部屋の明かりもつけずにリュックを背から下ろし、制服を脱ぎながら少し思いにふける。


 考えるのは…ついさっき同級生に襲われかけたことだ。ミリガンが助けてくれなかったら、きっと今頃まで酷い目にあっていただろう。

 

(凄い力だった、なんの抵抗もできなかったなんて…いや情け無い)

 

 声をかけられた時には穏便に済ます予定だったのに、ミリガンの陰口を言われた途端に何か言ってやりたくなった。

 でもそれはただの言い訳で、本当に一番悪いのは冷静さを失った自分だ。


 今からこんなことで、無事にノイたんとの結婚を『正式に』認めてもらえるのだろうか───


          ◇

 

 ご両親から、私達の結婚を認める条件として出されたのは『二人で無事に学校を卒業する』ことだった。


「それに加えて、もしノイが浮気や理不尽な命令をテスタさんにした場合。その時は卒業まで待たずに即テスタさんをうちで引き取って金輪際、ノイに合わせないようにします」

「引き取る!?や、やぁーそこまでしていただくのは流石に「します」あ、はい」

「本気。なんですね」

「もちろんだよ。ノイにはそれぐらい、覚悟を持ってテスタさんと交際してほしいんだ」

 

 話が予想外の方向に進んでゆく。そもそも、この世界で言う学校とはどんな場所なのだろうか?

 

「こっちにも、学校ってあるんですね」

「あるわよ〜って言っても去年できたばかりなんだけど」

「えっ結構最近」

「近年、魔人族の中でも【ウィザード種】による【亜種】への差別が問題視されてきたからこそ、設立が決まった学校だからね」

「ほ…ほぉ」

「ウィザード種は魔人族で1番数が多く姿がボク達に近い種で、逆に亜種は進化の過程で動物なんかの要素が混ざった種のことを言いマス」

 

 また知らない単語が出てきたと、素直に顔に出せば、横からノイたんの解説が飛んでくる。 

 

「どうしてそんな差が」

「そこは種ごとで色々、理由が違うんですよ。海で暮らしやすいように魚の要素を取り入れた【魚人種】や【マーメイド種】。高山地帯向けに進化した【サンダーバード種】もいれば、罪を犯した罰として何代にも続く呪いをかけられた【ゴルゴン種】トカ」

「ただ、そうなってくるとウィザード種の中には『真祖様に近い姿をしたまま進化した、自分達こそ優れた種だ』という思想を持つ者が多くいてね。もちろん全員がそうという訳じゃないが」

「そうか…差別って、どこにでもあるんですね」

 

 ふと思い出すのは孤児院にいた頃だった。

 当時。私と似た容姿の子はあそこにはいなくて、よく年長の男子連中からは「石炭」と、アニキが駆け付けるまで散々髪を引っ張られ罵られたものだ。

 種族間の差別に比べたら小さいかもしれないけど、でも根っこは同じなんだろう。

 

「古い人にはもう頭が硬いのが多いからこそ、若い人達には学校での集団生活を通じて差別意識を無くしてもらいたいのよ。だからノイ、いつまでも休学してないできちんと通いなさい」

「えーーだって、あそこ本当につまんないんですもん。い・や・で・す」


(ハハぁんなるほど。ご両親は私を通わせることで、ノイたんが学校に行きたくなるようにしたいんだな)

 

 ピンときた。確かに、ご両親の話によればノイたんは幼い頃から大お祖父様に引き取られ暫くした後、ここでずっと一人暮らしをしているのだ…彼の人付き合い力に対して、ご両親が不安を感じるのも納得できる。

 

 ならば、自分が出来る事は一つしかない。

 

「あの、2人にはってことは、私も通えるんですか?」

 

 私の問いに、ご両親は揃って頷いた。

 

「もちろん。学費やらなんやらはこっちで出すから、テスタさんも通いなさい」

「入学試験は受けてもらうけど、それまで私達がきちんと基礎の勉強は教えるからね」

「チョッチョット、待ってくださいテスさん!本気で通うつもりなんデスカ!?」

「放課後デートとか楽しみだね」

「ワ〜〜〜なんだかボク、すっごく学校に行きたくなってきマシタ!」 

 

 ちょっと言ってみただけなのだが、ノイたんにはかなり響いたようだ。あれだけ嫌がっていたのに、今はもう全身でウキウキとしている。

 

「…ん、そろそろ時間か」

「テスタさん。また詳しい予定は明日話すから、それまで待っていてちょうだいね」

「わかりました。ありがとうございます、奥様、旦那様」

「あらやだ。さっきから気になってたんだけど、その呼び方はやめてちょうだい」

「?ではなんとお呼びしても?」

「義母さん・義父さん(おかあさん・おとうさん)それが良いわ。じゃ、またね」

 

 そう言い残し、2人をかたどったホログラムはぷつんと音を立てて消えのだった。 


          ◇


 それから「何の後ろ盾も無しにテスタさんを学校に通わせるのは心配だから、一応デメルング姓を名乗ってもらう」ということになって今のところ入籍してはいるが、これが常世では簡単な手続き一つで解消できるものらしい。

 つまり、約束を守れなければいつだって婚約は無かったことにできるのだ。

 

(無事卒業するって、難しいな)

 

 とりあえず、今の自分を整理してみる。

 

 入試─ギリギリ合格。

 授業内容─難しい、けど楽しい。

 運動能力─暴れたあの日以降、今のところ人並み以上の力は出ていない。

 財産─ミリアムさんが持たせてくれた給料を、ご両親が常世でも使えるよう両替してくれた分のみ。

 学院での立場・力関係─非常にナメられている。

 ノイたんとの関係─とりあえず、まだ好かれている。


 ……今の自分は、この広い常世で圧倒的に弱い立場にいる。

 ワクワクすることは沢山あるけれど、それ以上に恐ろしいことも待ち構えているのだろう。

 

 でもそんなことは、現世でも一緒だった。

 それは変わらないはず。それなのに。

 

(何か。何か現世にいた時は確かに持っていたのに、こっちにきてから無くしているものがある気がする)

 

 きっと大切なものだ。辛いことがあっても、苦しいことがあっても、乗り越える時に必要だったもの。

 

 なんだったっけ……それは……

 


「テスさーん!次お風呂上がったらアイスで、もっ、ピッ」

「ぬ」

 

 そういえば、つい考えごとに夢中で制服を脱ぎかけたままだった。驚いて固まってままの私とは反対に、ノイたんは絹を裂くような悲鳴をあげ、リビングの角まで飛び下がった。

 

「キャアアアアアアッ!!どっどうして!?イエッす、スミマセン…」

「おー…いいからいいから、落ち着いて。じゃお風呂入ってくる。アイス楽しみにしてるね」

「ハイ……スミマセン…」

 

 両手で恥ずかしそうに顔を覆っている。よく見たら耳が真っ赤だ。可愛い。

 もう部屋着に着替えるのは面倒なので、寝巻きを用意してさっさとバスルームに向かう。

 

 シャワーを浴びると、少し気持ちが落ち着いてきた。

 そうだ、悪いことばかりじゃないんだ。

 今日はとても良いことがあったんだった。


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