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フローズ  作者: クダミ
18/35

『ミリガン・アークは』 〜入学編〜

初登校の話なのに新キャラ視点。

用語もキャラもどんどん増えてゆく…

 憂鬱だ。

 いったいどうして『今日』は絶対に来るのだろうか。

 

 愛用の丸眼鏡を手探りで見つけてから、アラームがけたたましく鳴るタブレットを止めて緩慢な動きで嫌々ベッドから出た。

 

 朝食を済ませて身支度をとドレッサーの前に座れば、赤毛・黄色い瞳・白く血色の悪い肌の自分の姿が写り、また憂鬱な気分が増す。

 

「………怖ぁ」

 

 それからはなるべく鏡を見ないよう、いつも通りに三つ編みを結って、戸締りを確認してから学院へと向かった。

 

 

 【モルゲンロート魔法学院】に通い出してから、私の毎朝はずっとこんな調子だ。

 

 

           ◇



 ここ、Cクラスは普段から騒がしい教室だけれども、今日はなんだかそれ以上に皆んなガヤガヤと賑わっている。

 ただごとではない雰囲気にこちらも落ち着けず、隣の席にいる『ルチャル・ルプトゥラ』くんをチラッと伺えば、視線に気づいたのか少し笑って話しかけてくれた。

 

「なんかさ、今日新入生が来るらしいよ」

「新入生?転入生、とかじゃなくて?」

「じゃなくて。だってさ、転入生だとしても魔人族・竜鬼族・妖精族の中でそれぞれ学校が初めて出来たの去年からだぜ。よそに転入するにしてもまだ気が早すぎるって」

「んー…でも妖精族なら少しあり得るかも」

「まぁアイツら本当に気まぐれだからなぁ」

 

 どんな子が来るか知っているか、と聞こうとしたタイミングで担任である『エーレ・クレープス』先生が教室に入って来た。

 

 私を含めた皆んなが、シンと静かになる。

 

 不機嫌そうにまとめられたボサボサの髪とくたびれたスーツ。

 濃さを増した目の下の隈はいつも通りだが、明後日の方を向いて

 

「なんでアタシんとこなんだよざけんなよあの理事長これもう特別手当てつけるべきだろ給料増やせよバーーーーーー…」

 

 とかろうじて聞き取れる声でぶつぶつ呟いている姿は初めて見た。

 

 異様な雰囲気に、思わずルチャルくんと顔を見合わせる。

 

「……アおはよう皆んな、突然だけど今日からこのクラスに新入生来るから。ほら入って」

 

(えっいきなり!?)

 

 心の準備もまだなのにガラリと戸を引いて入って来たのは、輝く白金、いやちょっと待ってこの方は

 

 

「「「ギャアアアアアノイ様ァアアアアア!!」」」

 

 

 反応が鈍い私を除いたクラス中の女子。

 否、男子達数名も一斉に悲鳴を上げて色めき立つ。

 

 

『ノイ・モント・デメルング』

 

 

 魔人族を統括する種族の頂点、真祖の中でもトップクラスの実力者である孤高の天才。

 学院の生徒会長にして、エリート揃いであるSクラスの主席。

 家柄・才能・美貌の全てを合わせ持ち、ミステリアスな雰囲気から男女問わず視線を集め、学内でもいろんな派閥のファンクラブがいるという───


 とにかく、同じ学院に通う者同士であれど、私と比べたら雲の上の上の上みたいな人だった。

 

 しかしそんな彼がなぜCクラスに?

 

 周囲の反応を伺えば「ノイ様がクラスメイトになるってこと?」「登校する前にシャワー浴びとくんだった」「くぅ〜今日もナイススメ〜ル」「今のうちっ今のうちに絵に描かないとっ」と興奮状態で好き放題騒いでいる。

 

「おおい静かに!新入生だつってんだろ。ハイ自己紹介」

 

 クレープス先生のその一言に、クラス中がハッと我に帰る。

 改めてノイ様に注目すると、隣に知らない子が立っていた。

 

 褐色の肌に黒い瞳。

 短い黒髪から男の子かと思ったけれど、着ている制服は私と同じスカートタイプの制服だ。

 パッと見だけなら普通そう………でもあれほどノイ様の近くにいるのに動揺するそぶり一つ見せないあたり、ひょっとすると只者ではないのかもしれない。

 

 自己紹介。と言われた彼女はキョロと教室中を見渡してから口を開きかけたが、それよりも早くノイ様が見た事もない神々しい笑顔でこう言った。

 

 

「こちら『テスタ・オール・デメルング』さんと言って、ボクの『妻』で『人間の眷属』でもある方です。Cクラスの皆さん、ご挨拶を」

 

 

 ………………妻?

 

 あそうか、だから名前にデメルング姓が入っているのか。

 そう理解した瞬間に、Cクラス生徒一同は隕石のように弾けた。

 

「ええええええええええええ妻ぁああああああああ!!!!」

 

 女子達の声は悲鳴と啜り泣きに変わり、男子達の声は興味と好奇心に染まる。

 

「嘘ォ!!嘘ォ!!嘘ォ!!」「そんな!ノイ様の好みがまさか日焼けボーイッシュだっただなんて!!」「人間!俺初めて見たっ」「そもそも禁術だろ?どうやったのか知りて〜」

 

 暫くそうやって阿鼻叫喚と化した教室だったが、地を這うような低い声でノイ様が囁いた瞬間また静まり返った。

 

「ご挨拶を、と言ったのが聞こえませんでしたか?」

 

 これだけでとんでもないプレッシャーだ。

 魔力から生まれた冷気に、心臓が握り潰されそうな圧を感じて思わず呼吸が浅くなる。

 

(嫌だっ、助けて)

 

「ねぇノイたん。もうホームルームの時間終わるから、そろそろ自分の教室行った方が良いよ」

 

 それが初めて、彼女が発した言葉だった。

 恐らくクラス中の脳内に「ノイたん?」と聞きなれない言葉への疑問が駆け抜けたことだろう。

 

「ヘッ!?でっでもテスさん」

「いややっぱどう考えても嫁の入学に夫がずっと付き添うのってなんか恥ずいわ。うん、だから早よ行きな」

「ボクまだ心配デ」

「行きなはれ」

「あっあっソンナッ」

 

 嫌々するノイ様の背中を無理矢理押して、教室からピシャリと追い出した。

 唖然とした空気も気にせず、クレープス先生に「すんません、席はどこに座ったらいいですか?」と質問している。

 

「おお…じゃあ、あそこの『ラヴ・ネプトゥン』の隣。そこが席だから」

「ありがとうございます」

 

 そう言って先生が指を刺したのは、私の目の前の席だ。

 ノイ様の妻。正直、知り合いというレベルでも全く関わりたくないのにまさかいきなり近くの席とは。

 

(あああバエル様…どうか彼女がこちらに話しかけて来ることがありませんように)

 

 と親戚ぐるみで信仰している神様に祈りを捧げているのも知らず、彼女は片手を軽く上げて「よっしく」と周囲に挨拶しながらこちらに堂々と向かって来る。

 

(まぁ、でもきっと私なんかより隣の席のラヴくんの方に気が行くよね。なんてったって四六時中アイアンメイデンに入っているような人だし)

 

 ラヴ・ネプトゥンは登校初日からずっとアイアンメイデンの中にいて、誰も素顔を見たことはおろか、声すら聞いたことが無い変わり者だった。

 良かった、逆に私は影が薄い方でとちょっぴり安心してホッと胸を撫で下ろす。

 

「えっ」

 

 しかし驚いた声に顔を上げると、彼女はラヴくんの方ではなく、なんと私の方を見て目を丸くしていた。

 あの黒い瞳に見つめられると、なぜか緊張してしまう…目を逸らし震える声で「なんですか」と早口で言えば、ハッとして申し訳なさそうに「いや、ごめん」と静かに席に着いた。

 

 少し無愛想に言い過ぎたかな、もしノイ様に告げ口されたらどうしようと不安に思ったけれど、もう着席した次の瞬間には隣のラヴくんの外側にまた「よっしく」と柔らかくグータッチをしている。

 

(あんまり、根に持たない人…なのかも)

 

          ◇

 

「ねぇ、もし良かったら学校案内してもらえんかな。簡単で良いから」

「ヒッわっわたっ私が!?」

「お願いします」

「ひええ」

 

 興味を持たれないどころか、むしろ向こうから話しかけて来た!

 断りたくてルチャルくんに助けてくれと目で訴えるも、ニヤニヤしながら「いーなぁミリガン、新入生直々の指名だなんて。次の授業始まる前に帰って来いよ」と逆に背中を押されてしう。

 

「覚えてやがれ…」

「今なんて?」

「あっやっなっなんでもないですよ、いいい行きましょっ」

 

 慌てて教室から飛び出し、とにかく1番近くの【第一図書室】から案内を始めた。

 

          ◇

 

「……で、あそこが【第二十図書室】で薬学関係の本の所蔵場所に繋がってるの。でその隣が【実験室】で、主に薬学とか錬金術の実習で使われてるんだ」

「ほぁ〜、じゃあなんの薬作るか忘れた時とか、隣の図書室ですぐに調べられるんだ」

「でも蔵書がとにかく多いし重たい本ばかりだから、結構時間かかるよ」

「なるほど、じゃあやっぱちゃんと予習して来ないとかぁ。でも基本は人間の学校と変わりないみたい…不思議…」

「テスタさんはその、人間なんだよね。いつからコッチにいるの?」

「大体ひと月前くらいからかな。それまでは普通に向こうで暮らしてた」

「ひと月前!?」

 

 少し前を歩く彼女…テスタさんを改めて眺めてみる。

 

 才ある絶世の美女・常に落ち着きを持った賢女・強く凛々しいご令嬢

 

 ノイ様のお相手になるような人がいるなら、きっとそういう方々なんだろうなと思っていたけれど、改めて見てもテスタさんはその内のどれにも当てはまらないような人だった。

 

 でも彼女と話していると、いつの間にか普段の倍以上に饒舌になっている自分がいることに気づき、驚いた。

 最初こそ緊張していたのに、たった少し歩いて話しただけでもうリラックスしている。私の話を真面目に聞いてくれるのもそうだけれど、返答がハキハキとしていて聞き取りやすいテンポで喋ってくれるのが大きい。

 

 これはもう私の中の【人見知り防衛壁突破ランキング】では金メダルを獲得していることに等しい……(※因みに参考までに言うと、銀メダルのルチャルくんはこれまでの人生で初めて、約一ヶ月で話せるようになった相手だ)

 

「おーそうだ、忘れてた」

「へ?」

「いや大した事じゃないんだけど、ん」

 

 そう言って、私に向けて左手を差し出して来た。

 

 これは その いわゆる

 

「テスタ・オール・デメルング」

 

 そう名乗り、こちらをまっすぐに見つめて握手を求めるその姿は、私にはとにかく眩しく見えた。

 

(どうしよう!早く、早く私も!返さないと!!)


 心臓の音が痛いほど、うるさく鳴る。

 

 震えながら、なんとか右手を差し出そうとした。

 

 

「あれぇ、Cクラスの魔女じゃん」

「突っ立ってないで退いてよ、カエル臭い」

「目が腐る」

 

「っ!」

 

 いやと言うほど聞いたその声に、反射的に手を引っ込めてしまう。

 そういえばここら辺は、Bクラスに近いんだった。

 

「ミリガンさんこの人達、誰?さっきCクラスにはいなかったよね」

「はぁ!?嘘ヤダ何コイツ、Cクラスなんかと一緒にしないでくれる」

「あたし達はBクラス!あんたこそ誰よ」

「あ〜ひょっとしてコイツじゃない?新入生って」

 

 気分が悪くなってきた私を背に、テスタさんが3人組の前に立つ。

 

(駄目だ、こいつらにテスタさんを関わらせちゃ、ああっでも魔女ってバレちゃったどうしよう)

 

 頭の中がグルグルして思考がまとまらない。

 

「そっか、なんかよくわかったわ。じゃミリガンさん、戻るからしっかりこれ握ってて」

「へ」

「あっ逃げたっ!!」

 


 不意に手を握られ、気づいた時には走り出していた。

 私の手を引いて前を走る彼女は、こちらを振り返ってニッと笑う。

 

「次のカーブで加速すっから!行くぞっシュッシュッポッポォ!!」

「汽車は!カーブで!そんなスピード出さないってっあっあっ早いいいいい!!」

 

 カーブどころかずっと加速し続ける彼女に、運動不足の私は息も絶え絶え、白目をヒンむいて足を動かす。

 

(もーダメッ千切れる、足が上半身だけ置いて走って行っちゃう!)

 

「はぁいCクラス駅に到着。オォイノサイハ〜アスィモトニキィヲツケテクデサィ」

「へ、へ、えっ?ついだ?」

 

 気づけばもうCクラスの前にいた。汗を拭いつつ眼鏡をかけ直して見ると、私を引っ張ってくれたテスタさんは汗ひとつかいていない。

 

「変な人達が出て来たけど、楽しかった。また次もお願いして良いかな?」

「私は良いけど…でも、さっき聞いたでしょ、私って」

 

 不意に教室の戸が開いて、ルチャルくんが出て来た。

 

「お、2人とも帰って来てたか。もうすぐ授業始まるぞ。魔人史のヤヌス先生厳しいから、早く早く」

「わかった」

「ありがとう」

 

 お互い急いで席に戻る。

 内心、今すぐにでもさっきの続きを話したかったけれど。

 

           ◇

 

「おおよそ2万年前。この星に3柱の【神祖】様が降臨されました。神祖様は人間の住む【現世】の隣に今私達が住んでいる【常世】を作り出し、またそれぞれが【魔人族】・【竜鬼族】・【妖精族】と3つの種族の祖となる【真祖】様を生み出され…」

「あーあの、すいません。今の話の中に3回くらい しんそ って出てたんですけど、どれがどう違うんですか?」

「どれが、という言い方は不敬ですよ。ざっくりわかりやすく言うなら【神祖】と書く方が最初に現れたお方。【真祖】と書く方が各種族の中でも最初に生まれたお方です」

「なるほど…神祖は、神様。真祖は、最初の人間みたいなもんと。メモメモ」

 

 私達にとっては小さな頃から知っている話だけど、人間として生活していたテスタさんには、少し難しいみたいだ。

 クスクス笑われている姿を見ていると居た堪れなくなるけれど、本人は全く気にせず真剣に、ヤヌス先生の説明をノートへ書いている。

 

「一般常識のはずですが、入学前に勉強されませんでしたか?」

「ちっちゃい子向けの絵本買ってもらって、読んではいたんですけど。そこには神祖じゃなくて神さまって書いてあったんで、そっちの呼び方で覚えてました」

「なるほど子供向けとはいえ不適切ですね。Mrs.デメルング、よろしければその絵本の名前と出版社を教えていただけませんか?」

「?先生も読むんすか?」

「いえ後ほど抗議文を送ります」

「や…いやぁーそこまでしなくても」

 

 

 ジリジリと授業が終わるのを待ちつつ、頭の中でテスタさんにどう自分が【魔女】であることを説明するのか考えていた。

 身の程知らずかもしれないけれど、もしも彼女と仲良くなれるのなら、この説明は絶対に必要だ。

 なるべく…不快感や嫌悪感を感じさせずに…上手く伝えられたら良いのだけれど。

 

「…あ、授業終わってる。あれっあれっテスタさんは?」

「授業終わった瞬間に、すっ飛んで来たノイ様に連れて行かれたぞ」

「し、しまった!」

 

 ああああああと思わず頭を抱える。

 とはいえまだ放課後まで時間がある、それまで必ず話せるはずだ、大丈夫焦ることはない。

 

          ◇


「待ってたわよ新入生!私達は【ノイ様ファンクラブC】の幹部で……え…『私も入りたい』…だと!?」

「テスさん!昼食にお弁当を用意していますから、一緒に中庭で食べまショウ!!」

「なぁなぁ、新入生って一応その新妻、なんだろ?ノイ様と普段どんなことしてんの?」

「テスさん!!特に理由も無いけど、会いに来ちゃいマシタ!!」

 

 ダメだ。授業が終わり次第、皆んなが私よりも早く彼女に話しかけている。私から話す隙が全く無い。

 

(というかノイ様が本当に早い!テスタさん連れて消えたと思ったら、声だけ残って聞こえるってもうどういうことぉ!?)

 


 今日はこれ以上チャンスが無さそうだ、こうなったらもう明日に回した方が良いのかもしれない。

 

「え、待って、なんで」

 

 しょぼくれつつ、ガロンリュックを背負い昇降口へ向かうテスタさんを隠れつ眺めていると、いきなり例のあのBクラスの3人組が現れて彼女取り囲んだのだ。


 そのまま少し会話をし、どこかに移動してゆく…見たところテスタさんは落ち着いているようだけど、このまま放ってはおけない!

 

 ゼェゼェ息を吐きながら、気付かれないよう離れて追いかけること数分後。やっと到着したのはこのバカ広い学院内でも端の端、空き教室が連なる廊下だった。

 ひと気の少ない場所をしっかり選んでいるあたり、ノイ様がすぐに来られないよう気をつけているんだろう。

 

「だからほら、あんたを私達のグループに入れてあげるって言ってんの」

「そっちの方が劣等種と犯罪者の身内ばっかのCクラスとつるむより、よっぽど有意義でしょ」

「その代わり、あんたはノイ様に私達を『親友』だって紹介してくれるだけで良いんだから」

 

 ………………予想以上に、酷い話だ。

 私だけならいつものことだけれど、まさかCクラス皆んなのことを悪く言われるだなんて。

 

「劣等種?犯罪者の身内?」

「あらぁ知らないの?あんたと一緒にいたあのミリガン。アイツはね、私達【ウィザード種】の面汚し【魔女】の一族なのよ」

 

「あっ…あああ」

(ダメっ!それ以上言わないで!)

 

「魔法使う女の人なら、皆んな魔女じゃんか」

「違う違う!コッチで言う魔女は、神祖様の伝えられた魔法とは別に、現世にある魔法を勝手に好んで使ってる異常者連中のことよ」

「しかも変な神を信仰しているだけじゃなくて、一族の中には大昔には現世にいる人間の男に絆されて常世の魔法を教えようとした超大罪人までいたんだから」

「バカだよね〜キモいよね〜、蔑まれて当然だぁ」

 


 頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

 


 全てバレた、嫌われた。

 


 今後は彼女も、連中のように私と顔を合わせる度に暴言を吐いてくるんだ。


 

「それってミリガンさん関係無いじゃん」

「「「はっ?」」」

「えっ」

 

 テスタさんのその一言に、マヌケな声を出す連中と同じく、私も思わず声が飛び出た。

 

「関係無いって、あんたちゃんと話聞いてた!?」

「聞いてた。だから関係無いって言った」

「ハァアアアおつむ足りて無いんか?」

「だって、その大罪人の人ってミリガンさんじゃ無いんでしょ。なんで現世の魔法を使うのが悪いのかよくわからんけど、少なくともあの子と話してみて気付いたことがある」

「な、何を」

 


 そこまで話して、彼女は両手の握り拳を天に突き上げ叫んだ。



「私は!ミリガンと!!友達になりたい!!」

 

 

「わ…たし…も…」

 

 口から情け無い声が漏れ出るのを、かろうじて両手で必死に抑える。

 まさか、同じことを思っていてくれていただなんて。

 

「じゃ、そう言うことだから。アンタ達の友達にはならん。バイビー」

 

 そう言って連中に手を振って歩き出した彼女。

 だが頭に血が上ったのか、一人がとんでもない行動に出た。

 

「言わせておけばっこのっ!!」

「ムッ、ムグ!」

「ちょっと、それは流石にマズいって!」

「うるさい!怪我なんてどーせ後で治療魔法かけときゃ治るんだから…ここコイツをひき肉にしてやる!!」

 


 ノイ様を呼ばせないためか、片手で口を塞いでテスタさんを壁に押し付けている。もう片方の手には杖……

 

 

 

(そんなの絶対に許さない)

 

 

 


 不意に廊下を照らしていた電灯が酷く明滅し出した。

 

 突然の出来事に、連中は驚いて辺りを見回す。

 日が暮れるのが遅くなったとはいえ、ここは学院内でも特に日当たりが悪い場所だ。

 そうなるだけで自分自信が見えなくなるほど、真っ暗になる。

 

「何!?なんなの!?」

「落ち着いて、ただの『ポルターガイスト(霊障再現魔法)』!術をかけてる奴が近くにいるはずよ!」

「クッソ、どこだっどこにいる!!」

 

 やがて完全な暗闇の時間がしばらく続き、次に灯りがついた瞬間には

 

 テスタを押さえている1人を除いた、他の2人が廊下に倒れていた。

 

「は、どうし…ヒィッ」

 

 倒れた2人の口から、大きな蜘蛛と蜂が這い出て来る。

 

 それも何匹も、何匹も何匹も何匹も何匹も

 

「嫌っ嫌っなんで!?」

 


『エアスト(お前に)』

 


「ミリガン!まさかアンタが」

 

 いつの間にか、廊下の真ん中に濡れ羽色の魔女帽子を被りこちらに杖を向けたミリガンが立っていた。その表情は普段オドオドしていた姿からはほど遠く、鋭い。

 


『ツヴァイト(お前に)』

 


「クソがっ!やらせるかっガァッ離せ!!離せバカ!!」

「行けミリガン!やっちゃってーーー!!」

 

 手に噛みつき拘束から逃れたテスタが、逆に反撃させまいと後ろから羽交締めにする。

 このチャンスは絶対に、無駄にはしない。

 


『ドリット(お前に)─────呪いあれ!!』

 


「ギャアアアアアアアアアア!!!!」

 


 呪文をかける対象に、怨みがあればあるほど強くなる。魔女の黒魔術のうちの一つ『強制吐蟲呪法』は、学院内のどこに居ても目立つほどの強い光と共に放たれたのだった。

 

           ◇

 

「オロロロロロロ」

「ごめんなさい、ほんっとうにごめんなさい!ま、まさか対象以外も巻き添えに出来るだなんて私知らなくて」

「なーに、気にすることなオロロロ」

「もう喋らなくていいから!」

 

 あの後、私が魔法を使ったことに気付いた先生方が駆けつけて来て、重症度の高かったBクラスの3人組は学外にある『解呪院』へ、逆に低かったテスタさんは『保健室』へと運ばれ、今は事情聴取の終わった私が付き添っているという状況だ。


 口からムカデやらなんやらを垂らしながら搬送されて行くあの3人を見るのは胸がスッとしたけれど、巻き添えをくらってゴミ箱へ玉虫を吐き出しているテスタさんには申し訳なさしかない。

 

「やぁでもモロッ、魔女の魔法ってペッ、凄いんだねオゲェッ」

「本当なら、恨んでる相手にしか効かないはずなんだけど…」

「じゃあそれだけミリガンはあの3人のこと、嫌ってたんだ」

「うん、実際には悪口言われてただけなんだけどね。でも昔からどこに行っても『魔女だ魔女だ』って言われてたんだから、さっきのはちょっとやりすぎたかなーとは思うけど」

「いや悪口だって暴力だから、怒ったり恨んだりするのは当たり前だと思う。それに私もヤバい状況だったし、あれは100パーセント正当防衛。助けてくれてありがとう」

「…どうして」

「?」

「…どうしてテスタさんは、あの時私に声をかけてくれたの?」

 

 その時私は少しだけ、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。おかしなタイミングだけど、今聞いておきたかったから。

 

「んー…変な理由だけども、ミリガンはね、私の家族に凄く似てるのよ」

「家族?」

「そう、血は繋がってないけど大事な家族。普通の人間だし現世にいるからもう会えないんだけどね」

「そっか、だから」 

「だけどいざ話してみたらビックリこれまた全然似てない!」

「あっこの調子で似てない方に行くことあるんだ!?」

「中身は結構違ったね…ハキハキとネチネチぐらい違う。でも、おかげでミリガンはミリガンでめちゃくちゃ面白い人だってことがわかったんだ」

「……」

「だから、友達になってみたいってお」

「テスさん!!呪われたと聞きましたが無事デスカ!?!?」

「ギャアッ!!」

 

 不意に戸が開いて、必死の形相のノイ様が現れた。

 

 彼女をひとめ見ただけでもう、誰が魔法をかけたのか見抜いたのだろう。

 私を真っ直ぐに睨んで「よくも、お前が」と殺気を飛ばしてくる。


 が、

 

「ああノイたん、おつかオロロロ」

「ヒッ」

 

 テスさんの口から玉虫が飛び出た瞬間、青ざめて後退った。

 

「…もしかして虫、嫌い?」

「い、イエッ、まさか!テスさんの口から出た虫なら全て宝石みたいなモノで、ワワッ来ないでクダサーーーイ!!」

 

 1匹の玉虫が、ゴミ箱から跳んでノイ様を追いかけて行く。見たことない姿のノイ様に、唖然としている私をよそにテスさんはずっと「いやぁ〜やっぱノイたん可愛いわ」とケタケタ笑っている。

 

(いけない、話しの腰が折れちゃった)

 

 今度はこちらから、手を差し出す。

 

 それに気づいて、驚いたように数秒固まった後、汚れた手を拭こうとアタフタするテスさんの手を無理矢理握った。

 


「ミリガン・アーク」

「…テスタ・オール・デメルング」

 

 

 

「今気づいた、名前まで似てんじゃん!」

 

 

 

 言ってることの意味を察し、お互いまた笑い合う。

 

 私の生涯の大親友が、出来た瞬間だった。



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