嫁入り
「荷物、それだけですか?随分と少ないデスネ」
「そお?あんま服とか買わないようにしてたし、仕事着も今着てるやつ以外は置いてきたから」
手に下げてあるトランクの中はほとんどが本と、この間デメルング邸から帰った時に来ていた服が占めている。
あとは数少ない私物と私服ばかりだ。
「鞄、持ちマス」
「あいいよいいよ、そんな」
「駄目デスヨ。代わりにボクに掴まっててくだサイ」
スッと差し出されたのは左肘。
庭を散歩した時と同じ、エスコート……でも私達の関係はもうあの時と違う。
◇
『お嫁さん!!ど、どうして!?』
『生まれて、初めてだったんです。誰かに命懸けで守られたのは。しかも貴女にとってボクは見ず知らずの他人なのに』
『そんなの当たり前だって』
『それだけじゃありません。ボク、貴女と一緒にいると心がずっと嬉しいんです…癒されたり騒がしくなったり熱くなったりして。こんな気持ちになれた相手は、テスさんだけです』
『ででででも結婚とか夫婦って私、まだあんまりよくわかんないから…ちゃんとお嫁さん出来るかどうか正直不安』
『大丈夫!何も怖がらないでください。貴女がボクを幸せをくれた以上に、ボクが必ず貴女を幸せにします…ウゥッ…だからお願い、お嫁さんになってください…グスッ』
『う〜〜またそんな、こっちに罪悪感湧くような泣き方して!わかったから、ちょい落ちつ』
『えぇっ!?今【わかった】って言いましたねぇヤッタァ!!テスさんこれから末永くお願いしマス!!!!』
『あ……あああ…』
◇
半ば強引ではあったが、交わされてしまった婚約関係。
いきなり始まる『夫婦生活』に、嫌でも緊張してしまう。
でも、私はもうどこにも帰ることはできないんだと自分の胸に言い聞かせ、差し出された左肘に抱きつく。
「これから…よっしく、ノイたん」
精一杯の挨拶に、彼は満足気に微笑んだ。




