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フローズ  作者: クダミ
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どうか貴方だけは

『お前それは流石にダサすぎんだろ、やめとけって』

『え〜じゃあ テスタ・ゴージャス・ジャスティス にしとくわ』

『さらに…酷い…だと!?』

『おや、何の騒ぎです?』

 

『あっメイド長!』

『聞いてくださいよ〜コイツ、屋敷の中で自分だけ苗字が無いからって、好きな苗字作って名乗ろうとしてんすよ』

『それがまたダサいのばっかで…』

『なんでぇ良いじゃんか テスタ・タンバリン とか。私タンバリン超上手いし』

『いやいや、もっと自分のセンス疑えよ』

『確かに。とても自然な名前には見えませんね』

『ミリアムさんまで!?』

 

『そこから選ぶくらいなら 「テスタ・オール」 にしておきなさい』

 

『え』

 

『『そっその名前って』』

『さぁ話はここまで。もうすぐ旦那様が帰られる時間ですよ、皆んな出迎えの準備を』


           ◇

 

 その暗い部屋の中では窓から入る月光と、ミリアムさんの姿だけがハッキリと見えた。

 

 机に伏している後ろ姿からは、いつものような威厳や覇気が感じられない。

 それほど、疲れているのだろう…見ているだけで胸が痛んだ。

 

「ミリアム、さん」

「っテスタ!?貴方…無事だったのですね!!」

 

 どうしてここにいるのか。よりも怪我はないかとか生きていて良かったとか、乾いた返り血がこびり付いたこの姿を見ても恐れずに、そう言ってくれるこの人が本当に大好きだ。

 

「ごめんなさい。同様したとはいえ、坊ちゃんだけじゃなく怪我をしたマシューさんまで置いて逃げてしまいました」

「ではやはり、現場の惨状は貴方が」

「はい。気がついたら…あんなことに…坊ちゃんに恐ろしい光景を見せてしまいました」

「ああなんということ……いえ、過程は過程。貴方は無事に2人を守りきりました。きっと、皆んなわかってくれますよ」

 

 さぁ、今は早く帰って来たことを報告に行きましょう。

 そう言って、腕を引こうとしたミリアムさんの手を静かに制す。

 

「テスタ?」

「……ミリアムさん。それはもう、意味がないんです」

「意味がない?」

「はい。だって今、お屋敷で私のことを覚えているのはミリアムさんだけだから」

 

 丸メガネ越しにある瞳が、信じられないとばかりに大きく開かれた。

 息を呑んで「どういう…ことですか」と問われる。

 

「順を追って話すと、暫く私が怪我をして帰れなかった時があるじゃないですか」

「あのお医者さん…まぁお医者さんっていうか妖精か魔法使いみたいな人なんですけど、その人が死にかけた私を助けるために私を人間じゃなくしたんです」

「それのおかげで私、馬鹿みたいに力が強くなっちゃって。でもそれに気付かず暴れたせいで、あんな騒ぎになりました」

 

 ここでいったん一呼吸おいて様子を伺う。

 かなり混乱している様子だけど、しっかり聞こうとしてくれている。

 これなら、最後まできちんと話せそうだ。

 


「変な話ですよね。私もさっき聞いて知ったばっかです」

「その人が…昼間坊ちゃんが見た怖い記憶を消せるって言ってくれたんです。でもそうすると、私に関する記憶を全部消さないといけないらしくて」

「他の人の記憶と矛盾が起きないように、皆んなの記憶からも私を消してもらいました。だから…私はここから出ていきます」



「いけません!いけませんよそんなことは!!そんな理由で貴方がいなくなるだなんて!!」

 

 グッと、強い力で私の両腕に縋るミリアムさんの表情は必死だ。

 

「記憶を消したのならば、出て行かずともまだここにいればいいでしょう!?」

「ダメなんです。これからは人間じゃないことがバレないように、向こうの方達の世界で暮らさないといけないって」

「そんな!だったら、一緒にどこか遠くの、人気のない静かなところで暮らしましょうよ。勝手な話ですがもう貴方がいない日々なんて私…考えられません」

「……」

 

 予想外の提案だった。

 お母さんみたいに思っていたミリアムさんと、一緒に遠くへ。

 

 想像しただけで泣きそうになる顔とグラつく心を押さえ、無理矢理笑う。

 

「駄目ですよ、お屋敷はどうするんですか。メイド長が今いなくなったら総崩れですよ、皆んなミリアムさんのこと頼りにしてるんだから」

「っ!!」


 力が緩まった腕を、そっと剥がして両手で包むように握った。

 

「出てく前に1個だけお願いしても良いですか?」

「…なんでも、言ってみなさい」

「1人だけなら記憶を消さなくても良いって教わりました。だから、ミリアムさんだけは私がここにいたってこと、覚えていてください」

「もちろんです。絶対に忘れたりするものですか」


 落ち着きを取り戻した、いつもの『メイド長』らしいまっすぐな瞳で約束してくれたミリアムさんに、思わず甘えるように抱きついた。

 こんなこと、慎みがないと叱られそうだから今までやってこなかったけどもう最後かもしれないから。

 

 ミリアムさんは叱らずにそっと抱きしめて、そして私が1番欲しい言葉をくれた。

 

「どうか、お元気で。私の強くて賢い娘」

「ずっと、元気でね。私の最強で最高のお母さん」





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