開幕『テスタ・オールは』
必ず完結させるを目標に頑張ります。
「テスター!どこにいるのですかっ!テスタっ!てすたああああああああああああ!!」
黄昏時。
もうそろそろ夕食の準備をしなくてはと使用人達が働くガルボン邸に、メイド長であるミリアム・オールの怒号がこだまする。
その声だけでも初めて屋敷に訪れた者にとっては縮み上がりそうな迫力だが、慣れきった屋敷の面々は「ああ、いつものやつね」と微笑しながら肩をすくめて聞き流していた。
「全く、こういう時だけすぐに出てこないんですからっ」
スゥウと急ぐ足を止めずに息を吸い込んで、さらに腹の底から声を出す。
「テええ!!」
「うーす。どしたのメイド長、あんまり怒るとまたシワが増えるよ」
「すっおうぉっ!?いっいたのなら早く出て来なさい!」
いきなり、背後から探していた本人に声をかけられるとは思ってもいなかった。
心臓が飛び上がりかけた胸を押さえ、顔からズリ落ちそうになった眼鏡をかけ直しつつ…先程から探していた相手、テスタ・オールを睨む。
よく日に焼けた褐色の肌、少年のように短く切られた黒髪と同じ黒い瞳。
一応、驚かせたことに対して申し訳なく思っているのか「えぇ…すんません」と人差し指で頬を掻いている。
「そんなことよりもテスタ!!」
「あ、はい」
「貴方…坊ちゃんのご学友の指をへし折ったとは本当ですか!?」
そもそもは学校から馬車で戻られた坊ちゃんをお出迎えしてからのことだった。
近頃学校へ行く度に少し塞ぎ込んだような様子だった坊ちゃんが、今日はご機嫌そうに鼻歌を歌っている。
さては本日の送迎付き添い係であるテスタが、何か楽しませるようなことをしたんだなと、気になって聞いてみれば満面の笑顔で言われたのはまさかの
「テスタがダイアンのやつの指を折ってくれたんだ!4本も!4本もだよ!!」
仰天してそれから本人に問いただそうと走り回り、今に至る。
「折った…っていうか、それだとちょっと語弊があるっていうか…」
「ゴニョゴニョしないで、はっきりとお言いなさい!」
「違うんですよ、向こうが勝手に殴って勝手に指折ったんです」
「勝手にって貴方…」
「あーっいたいた!テスタみっけ!」
その声と共に、本来なら仕事中であるにも関わらず他の使用人達が集まって来た。
「坊ちゃんから聞いたわよ、例のいじめっ子の指食いちぎってやったんですってね」
「違う違う、腕を折ったの」
「僕は腕をもいだって」
「顔面崩壊させてやったって俺は聞いたぞ、やるじゃんか」
どうやら大分噂に尾鰭がついて回り出したようだ、このままだと皆んなテスタを胴上げしかねない。
両手を叩いて「皆んな通常業務に戻りなさい!」と一括し、テスタの腕を掴んで使用人控室まで引っ張って行った。
※
「さ、怪我をしたところを見せなさい」
「…別に大丈夫ですよ、鉄板入れてたんで」
「それでもです」
観念したのか、服を引っ張り上げると同時に分厚い鉄板を引き摺り出して腹部を見せる。
よく見たら薄く青あざができていた。治療をしながら、尋問を続ける。
「どうりで指を折るわけです…こちらの板は鍛冶屋のチェストさんから?」
「はい、あっでもお金は自分の貯金から出しました」
「当然です。いじめについてはなぜ黙っていたのですか?」
「気付いたのはたまたまですよ。この間坊ちゃんの着替えを手伝ってたらこことおんなじところにあざができてて、院にいた頃にも似た様なことになってる子がいたから、それでハハァこれはなんかあるなと」
「なるほど、それで」
さらに詳しく聞けば幾人かの使用人も察してはいたらしいが、坊ちゃんに問うても意地を張って何も喋ってくれなかったそうだ。
確証のないことを勝手に旦那様や奥様に話すのもどうかと思い、それなら自分の目で確かめてみるかと考えて…いじめっ子が殴ってきそうな場所に鉄板を仕込んで、早めに学校へ迎えに行って坊ちゃんを見張る。
「で、あとは坊ちゃんを庇ってこうなりました、すんません」
「はぁ、よくわかりましたが、今度からそういったことをする時は必ず私に報告なさい」
「はい…」
「男の使用人に任せるという手もあったでしょう?見えづらいところではありますが、そうほいほい傷を作るものではありませんよ」
怒鳴るよりも静かに嗜める方が応えたのか、項垂れた勢いでズレ始めたホワイトブリムを直してやる。
「貴方は女の子なんだから」