②.山の家
『最近リナの様子おかしいからな、今日はそばにいてやろう』
ある日レオンハルトは近頃ふせっているリアーナのそばにいようと、仕事を早く終わらせ執務室から出るとその足で2人の部屋へと向かった。
だがそこにリアーナの姿はなかった。
部屋の何処を探しても城の中を探しても、リアーナの姿だけが何処にもなかった。
レオンハルトは城を抜け出し城下へとリアーナを探しに行ったが、そこにも彼女の姿はなかった。
リアーナが城からいなくなってから数ヶ月後、レオンハルトは軍を率いて戦場に立っていた。
隣国ルルデネ王国を奪ったロベリア帝国に自ら戦争を仕掛けると、あっという間に隣国を取り戻した。
そして次々と帝国領土へと侵攻していった。
「王太子もたいしたもんだよね、帝国に奪われてた国のほとんどをこの国の属国にしちまうんだからさ」
「まさか王太子がこんなに強いとはな」
そう話す人々のそばでリアーナは買い物をすませると山の家へと向け歩み始めた。
『レオ、大丈夫かな?頑張りすぎてないかな?ムキになると周りが見えなくなる時があるから』
リアーナは山の家に一人で暮らしながら時々城下へと買い物に行き、そこで聞く王太子レオンハルトの話に耳を傾け戦に出たことを知ると、無事の帰りを毎日祈っていた。
『リナ、あと少しで敵が討てるぞ』
その頃レオンハルトは帝国の領土のほとんどを奪い、元の国として自国の従属国へと従わせていた。
帝国の全てを奪えば城で居場所をなくしたリアーナが自分の所へ戻って来ると思ったからだった。
✦ * ✦ * ✦
リアーナが城からいなくなってから3年が経ち、ロベリア帝国全土を奪ったレオンハルトは城へと帰還していた。(2人の年齢は21歳)
陛下に謁見し功績を認められると「お前の婚約者を我が国の貴族の中から私が選んでおいた」と告げられた。
それを聞いたレオンハルトは「俺の妃はリアーナ1人だけです」と言い残し足早に謁見の間から出ていった。
レオンハルトはいまだリアーナとの離縁の書類にサインをしていなかった。
王太子である以上、空白の妃の席をすぐにでも埋めなければいけなかったがレオンハルトはきっともうすぐリアーナが戻ってくると信じていた。
しかし帝国を滅ぼしてもリアーナは城へと戻って来なかった。
レオンハルトは城を抜け、城下へとまたリアーナを探しに行く日々を続けた。
「あの子ったらまた…」
王妃は城を抜け出すレオンハルトを遠くから見ながら、そばに仕える騎士に話しかけた。
「リアちゃんは元気?」
「はい、山の生活にもだいぶ慣れ、幸い何事もなく過ごしているようです」
「そう、よかったわ。だけど心配なのはこっちもね。はぁ、一体どうしたらいいのかしら」
王妃は今後もリアーナを気にかけるようにと騎士に言い、そして2人の行方がこれからどうなるのかと頭を悩ませていた。
* ✦ * ✦ *
毎日のように城下へと向かいリアーナを探し続けていたレオンハルトは、とうとう彼女によく似た背格好の女性を見つけ跡をつけていた。
その女性は城下を抜けると、城からほど近い山の入口へと歩いて向かっていた。
すると山道に入ったとたん雨がポツポツと降り出し、次第に強くなっていった。
女は「降ってきちゃった」と呟くと山道を走り出した。
舗装されていない雨でぬかるんだ山道を走るのは危険だと思い、レオンハルトは急いで自分も走り出した。
と思ったら案の定、女はぬかるみにはまり転びそうになり、レオンハルトは慌てて手を差し伸べたが間に合わず2人は同時に地面に転んでしまった。
女は起き上がると隣にもう1人同じように転ぶ男がいることに気付き『一体なに?!』と驚いていると、起き上がった男は泥だらけになりながら「雨の中、走るな。危ねぇだろ」と言った。
レオンハルトは跡をつけながら目の前の女性が、ずっと探していたリアーナだということに気付いていた。
そしてリアーナも男の顔を見るなりレオンハルトだと気付いたが、雨が降り続いていたためここはひとまず家へ行くべきだと思い、立ち上がるとレオンハルトを連れ家の方向へと向かった。
「泥だらけになっちゃった」
「これはお前のせいだろ」
「勝手に転んだのはそっちでしょ」
「俺はお前を助けようとしたんだ」
「はいはい、悪かったわね」
2人で山の家の中に入り羽織っていたローブを脱ぐと、リアーナは慣れた手つきで風呂を沸かしレオンハルトに入るよう促した。
その間にリアーナは汚れてしまったローブを洗い家の中に干し、レオンハルトがお風呂から上がると自分も続けて入った。
「先に風呂入って悪かった、ローブも洗ってくれたのか?」
「そうよ、気にしないで座ってて」
リアーナがお風呂から上がるとレオンハルトが部屋の中を歩きながら見渡していた。
「ここにずっと1人でいたのか?こんな庶民的な家にか?」
家は2階建てのごく一般的な家だったため、レオンハルトは凄く驚いていた。
「当たり前でしょ、こんな山の中に豪邸なんて変でしょ」
「それは、そうだが…」
王太子妃だったリアーナがまるで庶民と同じような家に住み、そして身の回りのことも全て自分1人でこなしていたのかと思いレオンハルトは複雑な表情をした。
だがそんなことは余所にリアーナは長い髪を後ろでまとめると台所で料理を作り始めた。
レオンハルトはすぐにリアーナのそばに行き、後ろから見守りながら話しかけた。
「料理まで作るのか?」
「そうよ。お城のシェフには負けるけど、それなりに出来るようになったの」
それを聞いたレオンハルトは自分から離れていたこの3年の間リアーナはここで生活をするため、たくさんの事を学んでいたことを知った。
その後リアーナの作った夕食を食べた2人は並んで窓の外を見ていた。
「雨、止まないわね」
「そうだな」
「泊まってく?まだローブも乾いてないし」
「えっ、いいのか?」
「仕方ないじゃない、王太子様を濡らすわけにはいかないわよ」
そう言って2階の寝室へと向かうとレオンハルトにこの部屋を使うようにと伝えた。
「お前はどこで寝るんだ?」
「隣の部屋に予備のベッドがあるから心配しないで」
「そうか、分かった」
すると寝室から出ようとしたリアーナを引き止めるようにレオンハルトが後ろから抱き寄せ「リナ、一緒に寝ないのか?」と耳元で囁いた。
「私達はもうそういうのじゃないでしょ」と言いながらリアーナはレオンハルトの手から抜け「おやすみ」と言って部屋を出ていった。
1人残されたレオンハルトは普段リアーナが使っていそうなベッドに潜るとすぐに眠りについた。
翌朝、久しぶりにぐっすり寝たなと思い部屋を出ると、1階の台所でリアーナが朝食を作っていた。
昨日と同じテーブルに向かい合わせで座り食事をしていると「よく眠れたみたいで、よかった」とリアーナがレオンハルトの顔を見ながら言った。
「俺そんな変な顔してたか?」
「うん、疲れた顔してた。クマもくっくりあったよ」
「そうなのか…」
と自分自身で気付いていなかったことを言われ『やっぱ俺のこと分かってくれるのは、リナだけだ』とそう思った。
その後、乾いたローブを羽織ったレオンハルトは出入り口の前に立ち「また来てもいいか?」とリアーナに聞いたが、彼女は複雑な表情を浮かべ何も答えなかった。




