③.ブルーローズ
翌日、レオンハルトは自分が上級学校を卒業後に王家から離脱すると発表したとされる記事の載った新聞を見ていた。
それは愛するリアーナを危険にさらせないという意思の表明だった。
「本当にそれでよかったの?王太子にもなれたかもしれないんでしょ?」
リアーナは椅子に座るレオンハルトの後ろから新聞を覗くようにそう声をかけた。
「別にいい、興味ない」
「それは私のため?」
するとレオンハルトは後ろにいるリアーナを前へ来るように促し、読んでいた新聞をテーブルの上に置くと、リアーナを自身の膝に座らせて抱き寄せた。
「本音を言えばそうだが、王太子には本当に興味がないから心配すんな」
「ありがと、私レオに会えてよかった」
「俺もお前に会えてよかった」
その後、馬車に乗り込んだリアーナは隣に座るレオンハルトと揃いの制服を着ていた。
「で、名前はもう決めたのか?」
「うん、ブルーローズにしようと思う」
「ブルーローズ?」
リアーナは平民として育ったため姓がなかった。
そこでせっかくなら借りの姓をつけようと、レオンハルトが提案していた。
「レオに貰ったバラ(Rose)の花は40本、その意味は真実の愛(True Love)。それからレオの瞳の色は青(Blue)、だから合わせてブルーローズ。私達にしか分からない意味にしようと思って」
「いいな、可愛いしリナっぽい」
そう言ってレオンハルトはリアーナをそばへ抱き寄せ、もう片方の手で頬を撫でたあとにキスをした。
* ✦ * ✦ *
謎の美少女リアーナ・ブルーローズ、彼女は第二王子であるレオンハルトの婚約者として王都の王侯貴族が多く通う上級学校高等部の1年の途中から入学。
突然やってきたリアーナに学校中が注目したが、彼女は特に目立つような生徒ではなかった。
しかし2学年へ進級したあたりから徐々に成績が上がり、瞬く間に成績上位者となり振る舞いも貴族令嬢そのものになっていた。
リアーナは授業とは別に貴族としての振る舞いを学び勉学にも真面目に取り組んでいた。
リアーナは少しでも婚約者のレオンハルトに相応しい淑女になろうとしていたのだ。
「私が聖女ね⋯」
「あのポーションを作れるのは聖女だけだ」
「確かに治癒魔法は使えるけど、たいして魔力もないしこれで聖女って言われても⋯」
そんなある日レオンハルトの部屋でリアーナは自身の魔力について話していた。
2人は互いに学校の寮にいて、時々リアーナはレオンハルトの部屋に遊びに行っていた。
するとレオンハルトは何かを考えるような仕草をしながら「王立図書館になら聖女についての書物があるかもな」と言った。
だがリアーナは聖女として生きていくつもりはないと語った。
「俺もその方がいいと思う」
レオンハルトも毎日貴族としての振る舞いや勉学を頑張るリアーナをそばで見てきたため、これ以上の重荷を背負わせたくはなかった。
✦ * ✦ * ✦
そして数ヶ月後、2人はまもなく上級学校の卒業が近付いていた。
レオンハルトは学校を卒業と共に王家から抜け公爵となりその後すぐ2人は結婚することが決まり、リアーナの父と母の生家にレオンハルトと共に行きこれまでのことと今後を話した。
リアーナは快く両家から受け入れられ、彼女はこれまで感じたことがないほどの幸せを噛み締めていた。
そんな矢先、リアーナの育ての親であるエステルが学校を訪問し彼女に会いに来ていた。
レオンハルトは「会う必要はない」と言ったが、リアーナはこれまで育ててくれた恩があるからと言って面会を受け入れた。
リアーナは結婚報告も兼ね、一度きちんと話しておきたかったのだ。
そしてもう二度と会わないと心に決め面会に臨むと、部屋に入ってきたリアーナと2人きりになった途端にエステルは言った。
「どうせ私とはもう会わないと決めてるんだろ?」
「え?」
まさかそう言われると思っていなかったリアーナが驚いていると「私がしたことも全部調べてるんだろ?そうさ、あんたの両親は私が殺した」
そう不敵に笑いながらエステルは話し、リアーナのそばに近付くと片手を取った。
「あんただけが幸せになるなんて許せない。だから呪いをかけてやる」
そう話すと繋がれた手から黒い靄が立ち込めた。
リアーナは怖くなり繋がれている手を離そうとしたが、エステルに両手で強く掴まれ離せなかった。
その間に黒い靄は腕を伝いどんどんリアーナの身体全体を覆った。
リアーナはエステルの何とも言えない不気味な顔と、立ち込める黒い靄で恐ろしくなり声が出せなかった。
レオンハルトはリアーナが心配で2人のいる部屋の入り口付近で待っていたが、中の声は廊下には聞こえなかった。
すると少ししてからドアが開き2人が部屋の中から出てきた。
「見送りはいい。元気でやりなよ、リア」
と言い、明るい雰囲気でその場から立ち去ったエステルの背中をレオンハルトは見たあと、隣にいるリアーナの顔を覗くとあまり顔色が良くなかった。
「どうした?まさかあいつに何か言われたか?」
「ううん、何も言われてない⋯」
リアーナは明らかに様子がおかしく元気がなかった。
レオンハルトは結婚を反対、もしくは金銭を要求されたのかと聞いたがリアーナは首を横に振り近くの壁に手をついた。
「私、部屋に戻るね⋯」
そう話しリアーナは1人とぼとぼと歩き始めた。
レオンハルトはすぐにそばに寄ったが「今日は1人になりたいから」と言われ突き放された。
リアーナにかけられた呪いはレオンハルトを自らの手で殺さなければ、リアーナ自身が死を迎えるというものだった。
「奴を殺さない限り呪いは消えない、お前は苦しんで惨めに死ぬだけ。だけど奴を殺して私の所へ戻って来るならその時は修道院に入れてやる。親の仇の私のそばにいたくないだろ?」と脅されていたのだ。
エステルはリアーナの両親を殺めたことで邪悪だと言われる『闇魔法』を得ていた。
そしてリアーナがレオンハルトに見初められ、自分が欲しくても手に入れられなかった『誰かとの幸せ』を得たことで『憎い』という感情が生まれ『呪い』の魔術を取得していた。
翌日リアーナはいつも通りだった。
レオンハルトは心配し昨日なにがあったのかと聞いたが、リアーナは何もないと答えためそれ以上は追及しなかった。
* ✦ * ✦ *
その後2人は無事に学校を卒業し結婚。
レオンハルトは正式に『ブルーローズ』を姓とし公爵となった。
結婚指輪は大きな薔薇の花の模様が入り、その真ん中に自身の好きな色のブルー(レオンハルト)とピンク(リアーナ)のダイヤモンドをそれぞれに入れた。
それからリアーナの身体には特に異常がなかった。
母は呪いをかけたと言ったがどこも異変はなく、リアーナはこのまま過ごせるのではないかと思っていた。
だが2人が結婚してから1ヶ月が過ぎた頃リアーナは突然、胸の痛みに襲われたがすぐに痛みは治まった。
そして少しずつ痛みに襲われる時間が長く増えていき、やはり呪いはかけられていたんだとリアーナは実感せざるを得なかった。
「倒れたって聞いたが大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫」
「ならよかった」
リアーナの具合いが悪いと聞きレオンハルトは心配していたが、特に問題はなさそうだった。
医者の診察でも異常は見受けられなかった。
その夜、レオンハルトは愛するリアーナにベットの中で抱き着き頭を撫でられていた。
レオンハルトはリアーナのこの手に今まで支えられてきたと改めて思い、まるで陽だまりのような彼女をこれからも大事にしていこうと心に決めていた。
リアーナはレオンハルトに甘えるように抱き着かれ自身に執着していると思った。
エステルからの呪いで自分が目の前で死ぬ姿をレオンハルトが見てしまえば、立ち直れなくなるかもしれないと不安を抱いた。
そしてリアーナはレオンハルトのもとを去ることを決意する。




