②.俺が幸せにする
リアーナの父である『コンスタン』とエステルは、王都の学校で共に薬草学を学んでいた。
高位貴族出身の彼は成績優秀に加え整った顔立ちながら、誰にでも優しく接する人柄から男女共に人気があった。
平民のエステルにも皆と同じように平等に接し、エステルも成績優秀だったため誰よりも彼に一番近い存在だと思っていた。
卒業後共に薬学研究所に就職したある時、彼からまもなく結婚するんだと聞かされる。
「結婚?」
「そうなんだ、彼女には聖女の血が流れているらしいんだ」
と彼は嬉しそうに話した。
『なんだ、聖女の血筋に興味があるのね』
とエステルは思い、やがて『オルガ』という伯爵家の子女と結婚した彼はまもなく子供が出来た。
そしていよいよ自分の番だとエステルは思っていた。
だがなかなか彼女と別れる気配がなく「踏ん切りをつけさせてあげたわ。さぁ次は私と結婚しましょ」と言ってオルガから彼を解放してあげたのに、コンスタンは泣きながら横たわる女にしがみついて離れなかった。
『だからこの子供だけ連れて行こうと思って彼を殺したのに、聖女特有の力もなさそうだし連れてこなきゃよかった』
そう思い、成長したリアーナを使用人のようにエステルはこき使っていた。
* ✦ * ✦ *
レオンハルトは自身を救ってくれたリアーナのことを調べていた。
ハンカチに刻まれた『Rihanna』と言う名とポーションやその効能に詳しい人物を探ると、割とすぐに報告書がレオンハルトのもとに届けられた。
父は高位貴族出身で薬学研究所に勤め、母は聖女の血筋だと言われる家門出身の令嬢。
だが2人はすでに他界し父と同じ職場の女性に育てられた。
その女性は魔女と呼ばれ薬学研究所に勤めていた経験を生かし、今はポーションを作り郊外にある自身の店で販売。
しかし成長した娘のことを使用人同然に扱っている。
リアーナの両親の死には不可解な点が多く、当時はエステルが関わっていると疑われたが証拠不十分で捜査は終了したと書かれていた。
✦ * ✦ * ✦
その翌日、レオンハルトは従者兼護衛の『キース』と共に彼女の家へと向かった。
「その方はご両親のことを何も聞かされていない可能性が高いです。そして本当の母だと思っている女性から虐待まがいのことを受けています。殿下の発言一つで2人の関係が崩壊しないよう注意してください」
「分かっている、だが目の前で虐待を見てしまったら話は別だ」
「気持ちは分かりますが、彼女に何かあれば殿下に責任が取れるのですか?」
レオンハルトはキースと会話をしながら馬で彼女の家へ向かっていた。
目的の郊外にある家に着き、店番をしていた少女はレオンハルトの顔を見るなりすぐに気付いたのか「もしや、あの時の方ですか?」と声をかけながら彼のそばへと近付いた。
「そうだ、礼を言いにきた」
と言い、リアーナのことを調べ会いに来たと語った。
するとリアーナはレオンハルト達を外へと連れ出し「あの時に飲ませたものは母には内緒にしてください」と言った。
それを聞いたレオンハルトは「分かった」と答え、報告書通り母と娘はあまり仲が良くないのだと悟った。
そしてリアーナは自分がポーションを持っていたことを母は知らないのだと説明した。
レオンハルトは命の恩人であるリアーナの言葉に従うと話し改めて自己紹介をし、家族以外には自分の正体を明かさないようにと口止めをした。
レオンハルトはリアーナに何かお礼がしたいと言ったが、彼女はそれを断り代わりに店のポーションを買って欲しいと頼んだ。
「ここのは質がいいって評判だからな。いくらでも買ってやる」
そう言い、その日レオンハルトは下級と中級ポーションを大量に注文した。
* ✦ * ✦ *
そこからしばらく経ったある日、大量のポーションが荷馬車へ詰め込まれた。
「わざわざ貴方が来なくても、従者の人に頼めばよかったんじゃない?」
「いいんだよ、俺が来たいからきた。それから俺のことはレオって呼べ。いいな?」
「レオ?」
「そうだ、俺はお前をリナって呼ぶ」
「分かりました」
レオンハルトは荷馬車を引きながら店に1人で現れ、そして注文していたポーションの入った箱を積むとリアーナに白い箱を手渡した。
「ほら、やる」
驚いたリアーナが箱を開けると、中にはホールのいかにも高級そうな『フルーツタルト』が入っていた。
すると店から慌てた様子でエステルが顔を出した。
どうやら大量注文の客に挨拶をしようと出てきたようだ。
リアーナがエステルにケーキを貰ったと言うと、彼女は満面の笑みになってお礼を言ったが、レオンハルトは素っ気なく返事を返すだけだった。
レオンハルトを見送るとエステルは怖い顔になり「あれが第二王子ね」と呟き、家の中へと入っていった。
その日の夕食後、リアーナはレオンハルトがくれたフルーツタルトを切り分けエステルの前に差し出した。
するとエステルは「いいかいリア、こんなもの一つで騙されんじゃないよ」と言い、レオンハルトはもう来ないだろうと告げた。
だがレオンハルトはそれから何度も店に来るようになり、リアーナとレオンハルトはますます親しくなり、互いに惹かれ合うまで時間はそれほどかからなかった。
レオンハルトが店に来るようになってから数ヶ月が過ぎた頃、リアーナの瞳と同じ色のピンクの薔薇40本の花束を持って現れたレオンハルトは、彼女に求婚しリアーナは快く受け入れた。
それからリアーナはレオンハルトと共にエステルの所へ行き、この家を離れ彼が通っている王都の学校へ自分も一緒に行きたいと願った。
王族のレオンハルトとの婚約話を、エステルが断ることはなかった。
というのも初めから自身にたいし冷たい眼差しを向けるレオンハルトに、エステルは気味が悪かった。
まるで全てを見透かしているような視線に、反抗することが出来なかったのだ。
それからリアーナはあっという間に家を出て行った。
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「リナ、お前に大事な話がある」
家を出たあとレオンハルトと共に王都のホテルへとやって来たリアーナは部屋に入るなり、いつになく真剣な顔の彼に紙を数枚渡され読むようにと言われる。
レオンハルトはリアーナの隣に座り、彼女の終始驚いたような顔を黙って見ていた。
それはリアーナの両親に関する調査の報告書だった。
リアーナは読みながら涙を浮かべ、実はずっと母であるエステルを疑っていたと語った。
顔も性格も全く似ていなく自分にいつも冷たい態度だったと。
レオンハルトはそう悲しげに話すリアーナを抱き寄せながら「その先も読んでみろ、お前には辛いかもしれないが⋯」と言葉を濁した。
そこにはリアーナの両親を殺した犯人が、エステルだと疑われていたと書かれていた。
「俺の調べでもその可能性が高い」
「そう⋯、だから私をあの家から出してくれたの?」
「そうだ、もうあの家には戻ったらダメだ。俺が必ずお前を幸せにする」
と告げレオンハルトはリアーナを強く抱き締めた。




