④.運命共同体
後日リアーナとエドガーの婚約が無事に解消され、これによりコルビニア家への資金援助の話も白紙となった。
それと同時にレオンハルトの家アスタリオスの所有する山脈の資源開発を、リアーナの家コルビニアと共同で進めることが決定。
そしてリアーナとレオンハルト2人の婚約も発表された。
そう2つの家は名実ともに『運命共同体』となったのだ。
「馬鹿か、たいした資源も出ていないくせに共同でやるだと?アスタリオス卿はもっとまともな男だと思ったんだがな。あの家の娘と息子を婚約までさせて共倒れする気か」
ジャエル侯爵はそう書かれた記事を読みながら嘲笑った。
『何であいつがリアと婚約するんだよ!リアは僕の者だったのに!このままじゃ絶対にダメだ!綺麗な彼女にあんな奴を近づけちゃいけない!』
父の話をそばで聞きながらエドガーはそう思い、すぐにその場をあとにした。
* ✦ * ✦ *
その日の午後「坊っちゃん、少々よろしいでしょうか」執務室で1人自身の記事の載った新聞を読んでいたレオンハルトに、執事がそう話しかけながら近寄った。
「その花は何だ?」
執事の手にはピンクのカーネーションの花束があった。
「こちらのお手紙と一緒に届きました、リアーナ様宛でございます」
執事から手紙を受け取ったレオンハルトは差出人を確認すると、躊躇せずに封を開けた。
それはエドガーからリアーナに向けたものだった。
中の手紙には “僕はリアのことが好きだ、このまま諦めたくはない。婚約の解消は父が勝手にやったことで僕は望んでないんだ。リアの悪い噂も僕は信じてないよ。だから僕達もう一度やり直そう。リアもそう思っているんじゃない?資金の援助の件も僕から父に話すよ。いい返事を待っている” と書いてあり、リアーナの体調を気遣う言葉は一つもなかった。
『自分のことばっかかよ、俺にこれを見られるとは思わなかったのか?』レオンハルトはそれを読み、険しい顔になった。
「いかがいたしましょう?」そんなレオンハルトに執事が声を掛けると、「リナに見せる必要はない、これは燃やせ」と命令した。
すると執事は「では花の方は私の妻に差し上げてもよろしいでしょうか?この花には感謝という意味がございます。花に罪はありませんので」と語った。
「好きにしろ」
「こちらの手紙は私が責任を持って処分いします」
そう伝えると執事はレオンハルトから手紙を受け取った。
「そういえば坊っちゃん、リアーナ様の所へは行かれないのですか?」
「今は客が来てるから邪魔したくない」
「作用でございましたか」
そうリアーナの所には今、母が来ていた。
母はリアーナが家に帰ってこないことを心配し様子を見に来ていたのだ。
「あの人も領地のことで忙しくて全然帰ってこないのよ。それに今は家の中もバタバタしてるから、貴方がここで身体を休められてよかったのかも知れないわ」
そしてリアーアは父を誤解している、本当は凄く心配しているのだと、伝え方が下手なのだと母は言ったが、リアーナはその言葉が信じられなかった。
その頃、執事は執務室を出るとちょうど屋敷へ帰ってきたレオンハルトの父と廊下で出くわした。
「旦那様、お帰りなさいませ」
そうお辞儀をするとレオンハルトの父はすぐに「その花は何だ?」と聞きながらそばに寄ってきた。
執事は手紙と一緒に届いたリアーナの元婚約者が贈ってきたもので、既にレオンハルトには見せたと言ってその手紙を差し出した。
すると父は顔を強張らせ「レオンは何と言ったのだ?」と聞き「手紙は燃やせとおっしゃいました」と執事は答えた。
「そうか。ならすぐに処分しろ、リアーナに見せる必要はない」とレオンハルトの父は話した。
それを聞いた執事はなんて似てる親子なんだと思った。
「かしこまりました」そして今リアーナの所に母が見舞いに来ているようだと伝えると「それを早く言え」と言い、レオンハルトの父は足早に立ち去り、リアーナのいる部屋へと向かった。
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2ヶ月後、リアーナの喉にあった模様はすっかり消え声も出せるようになっていたが、彼女はそのままレオンハルトの屋敷にいた。
理由はどうせ結婚するんだからとレオンハルトに押し切られたのと、彼の父からも似たようなことを言われ、そしてこの屋敷にも反対する者がいなかったからだ。
そんな時、リアーナの下に一通の手紙が届いた。
それは幼少の頃からの友人の手紙だった。
相手は辺境に住むご令嬢で、幼い頃にお城で開かれたパーティーで意気投合し、ずっと長い間リアーナは手紙のやり取り続けていたのだ。
「まだそいつと文通してたのか」
レオンハルトは彼女からの手紙をリアーナに届けながらそう話した。
レオンハルトも彼女とは幼い頃から面識があった。
「そうだよ。でも私こっちの家にいるなんて言ってないはずだけど」
「お前の親が知らせたんじゃないか?」
「そうかもね」
リアーナはさっそく封をあけ、中に入っていた手紙を読みはじめた。
だが嬉しそうに読んでいたリアーナの顔は、見る見るうちに曇っていった。
「どうした?変なことでも書いてあったか?」
レオンハルトはそれに気付きリアーナに話しかけた。
「何も変なことは書いてない。だけど⋯」
手紙には数日後に王都に行くため久しぶりに会おうと書かれ日付と場所、そして時間が指定されていた。
だがリアーナはいつもの彼女らしくない、まるで急かすような書き方に違和感を覚えた。
「そんなに変なのか?」
「うん、おかしい。だって⋯」
そして何より彼女は手紙の端に毎回丁寧に色付けした花の絵を描いてくれるのだが、今回はそれがなかったのだ。
「それは確かに変だな」
リアーナは手紙の端に季節にあった押し花を施し、それが2人の共通認識になっていた。
リアーナはこの手紙は友人になりすました偽物だと思った。
レオンハルトは絶対にその待ち合わせ場所に言ってはダメだと語り、その日は屋敷から出さないとリアーナに告げた。
「だけど彼女になりすます何て許せない」
「分かった、その日は俺が行って確認してくる」
* ✦ * ✦ *
数日後、レオンハルトは金髪のウィッグをリアーナに頭に被せられていた。
「よく、お似合いで、いらっ、しゃいま、す。ぼっ、ブハッ、ちゃま」
その姿を見た執事の男性は笑いがこらえきれなかった。
レオンハルトはリアーナになりすますため、彼女の特徴である金髪のウィッグを被っていたのだ。
「おい、笑いすぎだぞ」
「とんだ、しつ、れいを。ププッ」
「ちっ」
「レオ、私は舌打ちしないわよ」
執事はレオンハルトの女装姿に笑いを必死にこらえ、レオンハルトは自身の姿を見て笑う執事に怒り、リアーナは怒るレオンハルトをなだめ、その3人の姿を奥で待機しながら見ていたメイドも必死に笑いをこらえていた。
こうしてリアーナの姿をしながら手紙に書いてあった待ち合わせの場所に行くと、レオンハルトの読み通りにエドガーが現れた。
レオンハルトはウィッグを外し「これ以上リアーナに近付くことは許さない」とエドガーに脅しをかけ、そして彼がリアーナに接触してくることはなくなった。
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3ヶ月後リアーナとレオンハルトは無事に結婚し、それからあっという間に1年が過ぎた。
両家が資源開発していた山脈は雪で覆われていたため、発掘作業が難しくほぼ手つかずの状態だった。
そしてリアーナの言った通り地中深くに鉱脈が見つかり、そのおかげで両家は莫大な富を手に入れた。
特に『アレキサンドライト』という昼は青緑・夜は赤紫に色が変化する、宝石の王様と呼ばれるほどの希少石が見つかったのだ。
すると国に大いに貢献したとされ、両家は公爵位を得ることになった。
その授爵式、大勢の招待客の中にはジャエル侯爵の姿もあった。
『リナには昔から先を見通すような不思議な力があった。そんな彼女を自分から手放すなんて見る目がないな』
とレオンハルトは終始、悔しそうな顔のジャエル卿を見ながら思っていた。




