②.不信感
リアーナとレオンハルトは屋敷の外へと出ると、彼女の乗ってきた馬車へと向かって歩いていた。
その時リアーナは異様な気配を感じ取り歩いていた足を止めた。
庭に生えていた大きな木の方を見ると黒っぽい服をきた何者かがクロスボウのような物を構え、先端が『キラッ』と小さく光るのが見えた。
驚いたリアーナだったがクロスボウが狙っているのは自分の後方だと気付き、彼女はとっさに振り返ると手を広げてレオンハルトの前に歩み出た。
クロスボウから放たれた矢のような何かはリアーナに命中し、彼女はその場に倒れレオンハルトは慌てて倒れたリアーナを受け止めながら、木から姿を消す人物を確認し少し遠くにいた従者らに「追え!」と命令した。
「リナ!」
レオンハルトは自身の腕の中にいるリアーナに声をかけたが、彼女は目を閉じ意識がなかった。
「なんだこれ…」
レオンハルトはそう呟きながらリアーナを抱え屋敷の中に戻った。
* ✦ * ✦ *
少ししてから目を覚ましたリアーナが横にいる人物を見ると、年老いた男性が優しげにこちらを見ていた。
「目を覚まされましたか?」
と男性はリアーナに声をかけ自分は医師だと名乗った。
リアーナは寝ていた身体起こし、お礼を言おうと声を出そうと口を開いたが、何故か声が出せない。
『あれ?声が出ない』
リアーナは不思議に思い何度も口を開いたが、やはり声が出なかった。
するとそばにいた医師が「おそらく声を失う術がかけられています」と言い、リアーナはそれを聞き驚いて医師の方を見ると、手鏡を渡され喉を見るようにと言われた。
その手鏡に自身の喉を移すと、黒い丸の中に見たことのない模様があった。
そうリアーナの喉には、『何かを失う』術がかけられていた。
それがたまたま喉に直撃し声を失ったようだ。
それを近くで見ていたレオンハルトは医師の隣に行くと「俺のせいで悪かった」と言ってリアーナに謝った。
医師と他の使用人達が部屋を出るとリアーナを襲った犯人は必ず見つけると言い、その術も必ず解くとレオンハルトは約束した。
リアーナはペンを持って書くふりをしレオンハルトに紙とペンが欲しいとジェスチャーで伝えた。
それを見たレオンハルトは「ほら」と言ってすぐに紙とペンを用意しリアーナに手渡した。
リアーナは受け取った紙にペンで “レオが無事でよかった” と書いた。
それを読んだレオンハルトは苦笑いをしながら、しばらくは安静が必要だとさっきの医者が言っていたと話し、とりあえず今日はこのままレオンハルトの家にリアーナは泊まることになった。
その後、飲み物を取ってくると言ってレオンハルトが部屋を出ると、廊下で待機していた執事に報告があると言われ彼は執務室に入った。
すると執事は小さな紙切れをレオンハルトに手渡しながら、一緒に入って来ていたメイドがリアーナの髪から出てきたものだっと話た。
「は?リナの髪から?」
「はい、どうやらジャエル侯爵家のメイドが入れたようです」
そこには “あなたはこの家に相応しくない” と書かれていた。
「これのことリナは知ってるのか?」それを読んだレオンハルトはそうメイドに尋ねた。
「いいえ、知りません。すぐに隠しました」
「ならいい、よくやった」
「お褒め頂きありがとうございます」
「それでもう一つご報告が」
執事はメイドを下がらせると、レオンハルトにリアーナを襲った犯人のことを報告した。
「また親父かよ」
「はい、どうやらあちらの住民らと揉め恨みを買ったようです」
「たくっ、術のこともあるしリナをこのまま家に置いておくか」
「それがよろしいかと、坊っちゃんがそばで見守って差し上げてください。そしてリアーナ様を取り返すのです」
レオンハルトの屋敷の者たちはリアーナのことを子供の頃から見ていたこともあり、母を亡くしたレオンハルトが唯一心を許せる存在だと思い皆とても好意的だった。
一方エドガーの屋敷の者たちは、多額の資金援助のかわりにやってきたリアーナに不信感を抱いていた。
✦ * ✦ * ✦
その頃、エドガーの家の方にもリアーナの現在の状況が伝わっていた。
婚約したにも関わらず他の男に会いに行き、それもその男を庇い声を失うとは何事だと、エドガーの父は怒り婚約の解消を息子に持ちかけた。
しかしエドガーは解消はせずこのまま縁談を進めると言った。
父は息子がいいというならと納得したが、婚約したばかりで男に会いに行くような女など苦労するぞと付け加えた。
エドガーはリアーナのことが好きだったため信じたいと思っていた。
レオンハルトに会いに行ったのにも、きっと理由があるのだと。
* ✦ * ✦ *
数日後、リアーナは家に帰らずレオンハルトの家で療養していた。
迷惑をかけるからと言って家へ帰ろうとしたが、レオンハルトがこうなったのは自分のせいだからと言って止めていた。
実はリアーナは父に何の断りもなく勝手に縁談を決められたことが引っかかっていた。
貴族は政略結婚が当たり前なことを理解はしていたが、それでも一言くらいは話して欲しかったのだ。
家に自分の居場所がないのではと感じ、そのことをレオンハルトに話していた。
そのため自身の家よりも安らげると思いレオンハルトはリアーナをこの家に置いていた。
もちろんリアーナの家にはレオンハルトの家にいると既に報告済みだ。




