⑥.花の乙女
数ヶ月後、運命の日がやってきた。
そう今日はカルロスから城へ来るように呼び出されたフレデリカが城へ向かうと、大臣や貴族らがいる中で国外追放を言い渡される日だった。
例のごとく凛香が城へ行くと、大勢の人が謁見の間に待ち構えていた。
凛香は動揺したふりをしながら、王太子カルロスからエマに嫌がらせをしただろうという話を聞いていた。
フレデリカの記憶を辿れば、確かにこの物語の転生が始まった頃はエマの部屋に勝手に入り服を切ったりなどの嫌がらせをしていたようだが、それも本当に当初だけで現在は全くしていない。
そして今回の転生でもエマへの嫌がらせはしていないのだが、この王太子はエマの作り話を信じきっている。
凛香は延々と続くカルロスからのありもしない自身の嫌がらせの数々の話を聞きながら、隣にいたエマの方を見ると勝ち誇った顔をされ何だか無性に腹立たしくなった。
『私あの子に何もしてないのに、何故こんなにいいように言われなきゃいけないの?』と思い、つい「証拠はあるのですか?」と我慢出来ずに口から言葉が出ていた。
「まさか調査もせず私を疑っているのですか?」と間髪入れずに続けると、その言葉に王太子には「言い逃れするな!」などとさらにヒートアップ。
遂には「お前とは婚約破棄だ!この国からも出て行け!」と言い切った。
凛香はやっとかと思い「承知いしました。それでは失礼いたします」と答えると、後を振り返り2人に背を向けて出入り口へと歩き出した。
すると横から伶緒が現れ、凛香をエスコートをしながら2人は会場を出て行った。
「どうして来たの?馬車の中で落ち合うはずだったでしょ?」
「最後ぐらいいいだろ。これでも我慢したんだぞ。散々言いように言われやがって」
2人は凛香が国外追放を言い渡された後、馬車の中で会おうと事前に話し合っていた。
だが伶緒は謁見の間での王太子の言いがかりに憤りを覚え、たまらず凛香のそばに寄ったようだ。
その後、凛香と伶緒はその足で隣国『サラリスク王国』へと向かった。
既に御者には大金を渡し買収済みだった。
実はこの数ヶ月の間に凛香はアクセサリーやドレスなど、部屋にあったものを少しずつ運び出して売り払い、金貨に変えていたのだ。
* ✦ * ✦ *
翌朝の早朝、義父はフレデリカの部屋の私物がいつの間にか全てなくなっていると聞き、慌てた様子で彼女の部屋へ向かうとテーブルの上には “今までお世話になりました” と一言だけ書かれた手紙が残されていた。
そうとは知らない王太子はフレデリカの家に使者を向かわせ『素直に謝るのなら考えてやってもいい』と伝言を伝えるつもりだった。
しかしフレデリカの姿がなく部屋も片付いると聞き、使者は王太子のもとへと引き返した。
王太子と一夜を共にしていたエマはカルロスと共に使者からその話を聞き「確認してきます」と言って急いで家へ帰ると、本当にフレデリカの部屋には家具以外の何も残っていなかった。
「お前と王太子が手を組んでフレデリカを消したのか?そこまでする必要があったのか?」
とエマはそう父に声をかけられた。
(余談。義父はフレデリカの話を一度も聞こうとしなかったのに、家からいなくなったら急に安否を案じた)
先ほど城からの者が来ていたことを知った義父は、王太子が手をかし誰にも知られずにここから物を運んだんだろうと考えた。
エマは否定をしたが自身に内緒で王太子はフレデリカに頼まれ、手を貸したのかもしれないと思った。
そうカルロスがフレデリカを嫌っていなことをエマは分かっていたのだ。
だが先ほど使者からの話を聞いた王太子の慌てぶりを考えると、フレデリカに逃げられたのだと思った。
「アハハハハハハ!」
エマは大きく笑ったあとに唇を強く噛み締めた。
『フレデリカを惨めにするのが私の楽しみだったのに!もう何処に行ったのよ!』
そう思いながらエマは走り、自身の部屋へと入った。
と一部始終を見ていたメイドの『アンナ』に凛香はその報告を受けていた。
「どうやら都合よく解釈したみたいね」
凛香は合流したアンナに金貨の入った袋を差し出し「ご苦労さま。これで次の職が見つかるまで暮らしていけるはずよ」と言ったが、アンナはその袋を受け取らず「最後までお仕えさせてください」と願い凛香の前に跪いた。
このメイドは実はフレデリカが自ら屋敷に連れてきた者だった。
ボロボロの格好で1人街をふらついていた同い年くらいの彼女を見つけたフレデリカは、居ても立ってもいられなくなり家に連れ帰った。
そして少し年上だった彼女の身の上を聞き、自分と同じように両親がいないだけで貴族と平民ではこんなにも差が違うのかと同情し、メイドとして雇ったのだ。
アンナは自身を救ってくれたフレデリカに仕え、今後もそばで見守りたいと思った。
凛香はアンナに事の一部始終を見守ったら自身に追いつき報告し、その後は自由に生きていいと告げていた。
「それは凄く嬉しい申し出なんだけれど、貴方には自由になっていいって言ったじゃない」
「はい。自由の身になりましたので、今後もフレデリカ様にお仕えしたく存じます」
そう頑ななアンナに戸惑った様子の凛香に、隣にいた伶緒は「いいんじゃねぇの、味方は多い方がいいだろ」と言い、アンナは今後もメイドとして仕えることになった。
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そして隣国『サラリスク王国』へ行くと、なんとレオポルドの母が隣国の王族出身だったことが判明。
そこで『花の乙女』として歓迎されたフレデリカは、国土の約半分が荒地である隣国の土地を沃地に変え繁栄をもたらし、その後2人は結婚し幸せに暮らした。
つまりエマとフレデリカは、両方本物の花の乙女だったのだ。
こうして新たな道筋が出来たことで次にフレデリカが生まれ変わっても、安心だと凛香は思った。
「だがそいつはレオポルドが好きじゃないんだろ?」
「例えそうだとしても、自分を一途に思ってくれてる人がそばにいれば、心が変わることもあるわよ」
もしかしたら作者はフレデリカを物語の引き立て役で終わらせたのではなく、こうなることを願っていたのかもしれないと凛香は隣にいる愛する伶緒に寄り添いながらそう思った。
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『この漫画、改めて読み返すとフレデリカ可哀想かも。そうね、例えば追放されたあと隣国の第二王女だったレオポルドの母親のつてを頼りに2人は向い、そこで幸せになるなんてどうかしら。フレデリカは花の乙女として大歓迎されて、もちろん国も繁栄させて後に救世主と呼ばれた、なんて展開になったら素敵かも』
数年後、フレデリカの身体から抜けた凛香の魂は作者らしき女性の構想が見え、そしてまた新たな場所へと流れていった。




