②.今の自分
数日後の24日、完成したマフラーを手に凛香は伶緒の家に向かった。
家に入ると凛香はさっそく手作りの濃い青(紺色)のマフラーを少し照れたように伶緒に手渡した。
初めて誰かのために作った物を渡すのは、何だかとても恥ずかしかった。
伶緒は凛香の作ったマフラーにとても喜び色もいいと言った。
すると伶緒も袋に入った何かを凛香に手渡した。
凛香は何かと思い受け取った袋を開けると、中にはブランド物の茶系のマフラーが入っていた。
「お前にやる」
だが凛香は急なことで驚き「買うの面倒いって言ってなかった?」と聞き返した。
すると伶緒は「自分のはな」と言って、照れくさそうにした。
「私のは手作りなのに、本当にそんなのでいいの?」
「いい、これがいい」
目の前の伶緒は自分の手作りのマフラーに喜んでることから本当に欲しかったのだろうと思い、まさか自分のことが好きなのかと思った。
そして伶緒もまるで凛香を好きだと言っているようなものだと気付き、互いに何だか気恥ずかしくなった。
すると伶緒はスマホを取り出し「ピザ、頼むぞ」と言った。
「あっ、うん」と凛香はそれにぎこちなく返事を返した、そんな時だった。
急に玄関の扉が開き誰かが素早く中に入り、2人がいたリビングの扉を開けたのだ。
そんな一瞬の出来事に凛香と伶緒はただ驚くことしか出来なかった。
扉を開けたのはスーツ姿の男性だった。
そして部屋の中にいた伶緒を見るなり「まだ生きてたのかよ」と言い、そしてその隣にいた凛香を見て「ガキのくせに女連れ込んで満喫してんなぁ」と嫌味臭く言い放つと後ろを振り返った。
「気分悪くなった」と言い、男性はさっさと玄関から出ていった。
そんな一瞬の出来事に黙ったまま何も話さない伶緒に「今のは誰?」と凛香は聞いてみた。
伶緒は「俺の叔父さん」とどこか怯えた様子で話した。
「伶緒?大丈夫?」
さっきから何処か様子のおかしい伶緒に凛香は大丈夫かと聞くと、彼は慌てたように返した。
「大丈夫だ、あいつ時々俺が生きてるかどうか何時もあぁやって確認しに来るんだ。ってこんな話どうでもいいよな。だけど何で今日に限って来るんだよ。凛香に見られただろ…」
と、どこか焦った様子でブツブツ呟く伶緒の手を凛香はとっさに掴んだ。
「落ち着いて、私は気にしてないから。それよりピザ頼むんでしょ?私お腹すいちゃった」
急に凛香に手を繋がれた伶緒は自分が焦っていたことに気付いた。
「悪い、すぐ頼むから待ってろ」
凛香の話を聞き伶緒はいつもの冷静さを取り戻した。
それを見た凛香は手を離し「だけど混んでそうだね、今日クリスマスだし」と話した。
「そう思って予約してた」
「さすが」
伶緒は事前に予約していたピザを注文し、2人は届いたピザを頬張った。
* ✦ * ✦ *
それから時が経ち2年後の中3のクリスマス、2人はまた伶緒の家で過ごしていた。
すると伶緒の叔父が現れ、また凛香と2人でいた伶緒が羨ましくなったのか叔父は伶緒のことを無愛想、感情がないと言って馬鹿にしたのだ。
それを2人は黙って聞いていたが、いつまでも嫌味を言い続ける叔父に凛香は我慢ができなくなり「伶緒は誰よりも優しいです」と少し強めに言い返した。
叔父は年下の少女に言い返されバツが悪くなったのか苦い表情をしながら、その後すぐに帰っていった。
叔父が帰ったあと、伶緒は今までの想いを告白し受け入れた凛香に彼はキスをした。
「キスってこんな感じなんだね、初めてした」
「そうだな」
伶緒はもう一度、凛香に口付け2人はその日、結ばれる。
しばらく経ってから伶緒はベッドの中で隣にいる凛香に聞いた。
「俺のこと好きか?」
「うん、大好き」
「どれくらい好きなんだ?」
「ずっと一緒にいくらい好き」
「俺も凛香とずっと一緒にいたい」
「じゃあ大人になったら結婚しよっか」
「だな、まさか凛香の方からそれを言われると思わなかった」
そう言って伶緒は目の前の凛香を抱き寄せた。
✦ * ✦ * ✦
伶緒も小3の時に両親が亡くなり、それから毎日のようにお前が両親を殺したと叔父に言われて育った。
叔父は伶緒の家に住みお前は不幸を呼ぶと言って脅しトラウマを与えていた。
子供のお前に皆は気を遣って何も言わないだけだ、だが自分は嘘をつきたくないから本当のことを言ってると幼い伶緒に信じこませ、そうして彼を1人にし自分だけがお前の味方だと洗脳し操っていた。
その後、何もかもが敵わなかった生前の兄に甥の伶緒が見た目や性格など少しずつ似てきたことから、叔父は徐々に伶緒を避けるように家に来なくなり、同時に伶緒の方も叔父を見ると『不幸を呼ぶ』と言われたことを思い出すため避けるようになり、小5の時からほぼ一人暮らしとなった。
* ✦ * ✦ *
受験後、伶緒は叔父に凛香との交際を話し結婚も考えてると話したが「お前なんかが誰かを幸せに出来るはずがない。そうだろ?」と言われ、それから伶緒は凛香を避けるようになった。
凛香は伶緒に無視をされてもめげずに話しかけた。
そんな夏休みのある日、凛香は伶緒の家に行き最近素っ気ない態度の彼に「私に飽きたの?」と尋ねたが伶緒は何も答えなかった。
伶緒は大好きな凛香を完全には拒絶出来ずにいた。
そんな伶緒に「なら私が他の人と付き合ってもいいの?」と聞くと伶緒は焦ったような顔した。
それを見た凛香は「そんなの考えたこともなかったって顔してるよ。私だって伶緒が他の人と付き合ったら嫌だ」と言うと、凛香の一言で伶緒は気付き、そばにいた泣きそうな顔の彼女を見て思わず抱き寄せる。
「悪かった、凛香と離れたくない」と言い「気付くの遅いよ」と凛香は返事をしながら抱きしめ返した。
その後2人は本当の意味で身も心も結ばれる。
伶緒は凛香に覆い被さりながら『俺が凛香を手放せるわけなかった』と思い深く口付けた。
✦ * ✦ * ✦
久しぶりに凛香と愛し合ったあと伶緒が服を着終わり彼女の姿を探すが見当たらない。
つい先ほどまでそばにいたはずの凛香がいなくなり音も立てずどこに行ったんだと思った瞬間、かすかに人の声が聞こえ下を向くと小人のように小さくなった凛香がいた。
何が起こったか分からなかったが凛香もどうして自分がこうなったのか分からない様子だ。
そのためこのまま2人で伶緒の家で一先ず過ごすことにした。
伶緒は凛香を手の平に乗せテーブルの上に置くと、そのまま彼女の世話を焼き2人は過ごした。
夜になり共にベッドに入ると、凛香が伶緒の唇に両手で触れながらキスをし寄り添って眠りについた。
例え小さくても凛香がそばにいるだけで伶緒は嬉しかった。
だが夜中ゴソゴソと隣で寝ていた凛香が動き出し、伶緒は薄目でそんな小人の彼女を見ていた。
照明を落とした薄暗い部屋の中で凛香は少し歩いた所で「あっ」と言うと下へと落ちていった。
伶緒はベッドの下に落ちてしまった凛香に驚いて目を覚ます。
* ✦ * ✦ *
ふと横を見るといつもの凛香が先ほど脱いだ服を着ていた。
どうやら自分はベッドで居眠りをしていたらしい。
そんな凛香に伶緒はベッドから抜けるとすぐに後ろから抱き着いた。
「どこにも行くな」
このあと凛香が家へ帰ってしまうと思うと、先ほどの夢のこともあり彼女と離れるのが伶緒は嫌だと思い「離れたくない」と言って引き止めた。
「急にどうしたの?さっき私が言ったこと気にしちゃった?」
凛香はそう聞いたが無言で自身を強く抱き締める伶緒の腕に、彼女は手を添えた。
「帰ってほしくないの?」
「そうだ、だから帰るな。いいだろ?このままここにいろよ。な?」
そんなどこか必死な様子の伶緒の言葉に凛香は頷いた。
その夜、ベッドに入った2人は見つめ合いながら伶緒が凛香に話しかけた。
「もう絶対に凛香のそばから離れない」
「私も伶緒のそばから離れない」
と凛香は答え伶緒の頬に手を添えながらキスをした。
「小さくても大きくても凛香は変わんねぇな」
「どういう意味?」
「さぁな」
伶緒は凛香を抱き寄せながら嬉しそうに微笑んだ。
✦ * ✦ * ✦
最近距離の縮まった様子の凛香と伶緒が不思議になり、颯馬は伶緒を呼び出し「今まで避けてた凛香に急に近付いて何を考えてる?」と聞いた。
「凛香は俺の全てだ、あいつがいなかったら今の自分はいない。だからお前に渡す気はない。もう凛香に近付くな」と逆に言われてしまった。
今まで特に警戒もしていなかった伶緒が邪魔になった颯馬は、今度は凛香に自分の思いを告げ恋人となり、伶緒を自分達から遠ざけようとした。
だが凛香からも告白を断られ颯馬は「もしかして伶緒のせいなのか?」と聞くと伶緒は関係ない、初めから颯馬に気持ちはなかったと言われ、それを聞いて落胆する颯馬に「伶緒は私の全てなの、彼がいなかったら今の私はなかった」とまるで伶緒と似たようなことを凛香は話し、颯馬は愕然としてしまった。
* ✦ * ✦ *
その後、凛香の18歳の誕生日に伶緒がプロポーズし、彼女は照れながら「はい」と答えた。
だが卒業後それぞれ別の道へ進むため結婚はいったん保留になった。
後日、揃いの指輪を買い2人は左薬指にはめることにした。
凛香は高校卒業後に一人暮らしを始め大学に通い、伶緒はあの家を払い県外に就職。
叔父には亡くなった両親が残した貯金の大半を取られていたがそれはもういらないから、今後自分に関わらないようにと話をつけた。
それから数年後、凛香と伶緒は無事に結婚し毎日を幸せに過ごした。




