①.たった1人の人を
いつでもリアーナのことしか見ていないレオンハルトを、天界から見ながら女神は思った。
『この子ったら何度生まれ変わらせてもリアーナのことしか考えてないのね。そうだわ、一度頭の中を覗いてみましょう』
そう思った女神は目を閉じレオンハルトの頭の中の深層心理を覗き込んだ。
するとレオンハルトの頭の中はリアーナのことで溢れていた。
『リナを抱き締めたい、リナとキスしたい、リナと風呂に入りたい、リナと一緒に寝たい、リナとセッ…』
女神は具体的なレオンハルトの妄想を見せられ、これ以上は見てられないと思い閉じていた瞼を開くと頭を抱えた。
『…なんてことなの、本当にリアーナのことしか頭の中にないじゃない』
その呆れるほどのリアーナへの愛に言葉を失いつつも、どこまでも真っ直ぐにたった1人の女性を深く愛せるレオンハルトの凄さに女神は羨ましくなった。
『私もお前のようにたった1人の人を愛し愛されたかった』
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高校に入学した颯馬は同じクラスの女子、凛香に興味を持った。
話していくにつれどんどん惹かれ、やがて好きになった。
そして颯馬は一つ分かったことがる。
それは凛香は時々、別のクラスのある男子生徒を目線で追って見ていたのだ。
そこには好意が含まれていた。
なぜ好意があると気付いたかというと、それは自分が凛香を見つめる視線と同じだったからだ。
凛香はあいつが好きなんだと颯馬は思った。
その男もきっと凛香に気があるが知らんぷりしていた。
そいつ(伶緒)には誰も自分に近付けさせないようなオーラがあった。
伶緒は本当は凛香のそばにいたいが距離をとっていると颯馬は思っていた。
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まだ凛香が中1だった頃、彼女は夏休みから塾に通い初めた。
すると隣のクラスの男子も同じ塾に通っていた。
その男子は伶緒という名の男の子だったが、2人には特に接点がなく話もしなかった。
そこから数ヶ月が経ち暦が12月になった頃、凛香は家で嫌なことがあり家から少し離れた公園のベンチにただ座って佇んでいた。
するとしばらく経ってから「お前さっきから何してんだ」と凛香は誰かに声をかけられた。
そこは伶緒の家の近くで、塾に向かうため家を出た彼は凛香が公園にいたことに気付いたが気にせず素通りしていた。
だが塾が終わり日が沈んでも凛香がさっき見かけた場所と同じ所にいることに気付き、気になって思わず声をかけたのだ。
伶緒は学校でいつも遠くから友達と笑顔で話す、明るくて可愛い隣のクラスの彼女がずっと気になっていた。
その後に同じ塾に通ってきた凛香を斜め後ろの席から伶緒はよく見ていた。
そう伶緒は凛香に恋をしていた。
しかし共通の話題もないため声をかけることが出来なかったのだ。
だがこの日、公園のベンチに何時間も座っていたことに気付き、辺りが暗くなってきていたこともあり思い切って声をかけてみた。
初めて近くで見た凛香の顔は思っていたよりも可愛かったが、何処かぼんやりし落ち込んだ様子だった。
伶緒はそんな凛香が放って置けなくなり家の中に招いた。
すんなり自分についてきた凛香に伶緒はきっと家に帰りたくないんだと悟った。
伶緒は大きなマンションの最上階に1人で住んでいた。
家に入ると凛香は珍しいのか部屋の中をキョロキョロと見渡した。
そんな凛香をよそ目に伶緒はキッチンでラーメンを作りテーブルの前に座っていた凛香の前に差し出した。
「…ありがとう」とどこか戸惑いながら凛香はお礼を言い、2人は一緒にそれぞれラーメンをすすった。
「お前今日、塾来なかったろ」
そう言って伶緒はラーメンを食べ終えたあと今日の塾の内容を凛香に教えた。
その後、凛香はあまり遅くなると家の人が心配するかもしれないと言って「今日はいろいろありがとう」と伶緒にお礼を伝えた。
「お前なら、いつ来てもいいぞ」
と言い、伶緒はどうにかしてせっかく出来た凛香との接点を繋ごうとした。
「だけど学校では話しかけるな、分かったな?」
その言葉に凛香は疑問に思った。
『家には来てもいいけど、学校では話しかけるな?』
そんな不思議な顔した凛香に伶緒は「理由は聞くな、ここにはいつ来てもいいから。だが友達も誰にも俺のことは言うな、連れてもくるな。変に誤解されて騒がれたら困るだろ?」と言い、凛香はそれもそうかと思い「分かった」と返事をした。
伶緒の家を出ると外は既に真っ暗だったため、伶緒は凛香を家の近くまで見送った。
それから凛香は家に帰りたくないこともあり塾の帰りに一緒に伶緒の家に向かった。
2人は割とすぐに打ち解け伶緒の部屋で勉強をしたり色々なことをたくさん話した。
すると凛香はなぜ家に帰りたくないのかを伶緒に話した。
凛香は小2の時に両親を事故で亡くし母の妹にあたる叔母(独身)の家に引き取られた。
叔母はとても優しく凛香に接し、2人はまるで本物の親子のように暮らしていた。
だが凛香が中学生になってすぐの頃そんな叔母に彼氏が出来た。
その彼が家に出入りするようになるとその男は綺麗に成長しつつあった中学生の凛香に興味を示した。
叔母は何度も彼に凛香のことを聞かれ何故いつも凛香のことばかり聞くのかと言い、2人は口論になってしまった。
そしてそれをキッカケに徐々に彼との関係が悪くなり別れることになった。
すると叔母はあろうことか凛香のせいでこうなったと言って罵った。
凛香は優しかった叔母に『お前のせいで彼と別れた』と理不尽に怒られ理解ができなかった。
そして凛香は家にいたくなくなりあの日、公園に何時間もいたのだ。
それから叔母は今も機嫌が悪く家に帰りたくないのだと語った。
伶緒は凛香の話を黙って聞いていたが終わると「いつでもここに来い」と言い、自分の両親もこの世にいなくこの家だけを残したと言い「何かあればすぐに言え、俺がお前を守ってやる」そう伶緒は話した。
「ありがと。伶緒も困ったことあったら言って?何でもするから」
「何でも?」
「そう、一人暮らしだと何かと大変でしょ?」
「お前、他の奴にそんなこと言うなよ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
そんな中、街にはライトアップのイルミネーションが増えていた。
それを思い出した凛香はそばにいた伶緒に、数日後に控えたクリスマスをどう過ごすのかと聞いた。
「伶緒はクリスマス家族と会ったりするの?」
「しねーよ、つーか俺家族いない」
「そうだったね」
「お前こそどうすんだよ」
「さぁ?あの人と最近話してないから知らない」
凛香はそう冷たい目をしながら話し、伶緒は彼女は今も叔母と仲が悪いのだと思った。
「ならここで過ごすか?たまにはピザでも頼んでさ」
「ピザ?そういえば、しばらく食べてないかも」
「なら決まりな」
「でもいいの?」
「いいよ、今さら遠慮するな。そうだ、さっき俺に何でもするって言ったよな?」
「えっ、言ったけど、大変なことは無理だよ?」
「分かってるって、だから俺にマフラー編め」
伶緒は凛香にクリスマスプレゼントとして手編みのマフラーを作れとねだった。
「マフラーが欲しいの?」
「そうだ、だからマフラー作れ。作れるか?」
すると凛香は何かを考える素振りをした。
「前にお母さんが作ってるのをそばで見てたから、たぶん作り方さえ分かればイケると思う。でも手編みなんて嫌だってよく聞くけど?」
「俺は気にしないから作ってくれ、いちいち買うの面倒くてさ」
「まぁ、それくらいならいいよ。色は何色がいいの?」
「全部お前に任せる、その代わりにピザ用意してやる」
その日、凛香は手芸店で濃い青色の毛糸を数個買って家に帰り、部屋の奥にしまっていた段ボール箱を引っ張り出した。
「あった、これだ」
その中から丁度、手に収まるくらいのサイズの箱を取り出した。
それは凛香の母が編み物をする際に使っていた道具箱だった。
凛香はその中から編み棒を取り出し、スマホの動画で編み方を見ながら伶緒のためにマフラーを編み始めた。




