⑤.双子
「何か来る…」
舞踏会もそろそろお開きになろうとしていた頃、不意にリアーナが会場の天井を見上げてそう呟いた。
その言葉を聞いたレオンハルトとミハイルは驚いた。
リアーナの兄であるイエルロも何か異変に気付き『何の音だ?』と思い天井を見上げると、巨大なシャンデリアが小刻みに揺れていた。
すると突然、会場の頭上にある天井が破られ、そこから巨大なオーガが現れた。
オーガは会場の中央に着地すると「ウオォーーーー!!!!」とけたたましい雄叫びをあげた。
すぐに会場にいた数名の近衛騎士達がオーガを囲み対応に当たった。
どうやらあのオーガは解体された闘技場の牢にいるはずの巨大オーガのようだ。
「あいつらだけで倒せると思うか?」
「いいえ、無理だと思うわ」
「やっぱそうだよな」
レオンハルトとリアーナの話をそばで聞いたミハイルは、腰に差していた剣に手をかけた。
「なら俺がやる」
「ミハイルだけじゃ戦力不足よ。だからレオ、あなたがやりなさい」
そう言ってリアーナはそばにいたレオンハルトを真っ直ぐに見つめた。
「分かった」
目を合わせてきたリアーナにレオンハルトがそう答えると隣にいたミハイルが聞いた。
「やるって言っても、剣がないぞ」
「それなら私が作るわ」
リアーナは手の平を上にして両手を前に出すと目を閉じた。
すると神々しい光がリアーナの手に集まり、光が収まると両手の平の上には黄色に輝く光の剣が現れた。
その一部始終を近くで見ていた王は慌てた様子で上段から下り、リアーナ達のそばへと駆け寄った。
「貴様ら待つんだ!」
すると会場にいた貴族達が王とリアーナ達のやり取りに注目をした。
「ここでアレを倒すつもりか?!ここは城だぞ!何を考えている!」
と王は血相変えたように言い放った。
だがリアーナはそんな王の言葉を無視し「聖女の私が許します。レオンハルト、この剣であのオーガを倒しなさい」と語った。
それを聞いたレオンハルトは一歩後ろへ下がるとリアーナに向けて跪いた。
そう断言したリアーナを見てミハイルは『これが閃光の魔女か。いや、この絶対的な雰囲気はまるで女神のようだ…』と思った。
レオンハルトはリアーナが作った光の剣を受け取ると巨大なオーガに向けて走り出し、ミハイルも後を追うように剣を取り出しながら走り出した。
「待てと言ってるだろ!」
と王が走り出した2人を止めようと叫び「ならば、あのオーガをどうするのですか?今ここで倒す他に何か方法があるのですか?」とリアーナは横にきた王に真っ直ぐな視線を向けた。
聖女のリアーナに見つめられた王は、まるで全てを見透かすようなその眼差しに怯え何も言えなくなった。
近くで聞いていた宰相は周りの貴族らの王を見る冷ややかな視線に気付き「陛下、周囲の状況をご覧ください。来賓の方々も多いことですしここは穏便に⋯」と近くで呟いた。
このような非常事態の時でさえ、自分のことしか考えていないのかと王は周囲から思われていた。
その後レオンハルトは光の剣に青い炎を纏わせて巨大なオーガを倒した。
倒れたオーガは青い炎に包まれたあと黄色い光となって消え失せた。そして光の剣も同様に消える。
全てが終わるとリアーナのそばへ兄であるイエルロが近付き、今回の城の修理代は自分が全て出すと言った。
「文句があるやつがいたら、僕が全員黙らせる」とリアーナと目を合わせて続けて話た。
「なら、お任せします」とリアーナはそう答えながらイエルロと目を合わせ、2人は同時に軽く微笑んだ。
リアーナとイエルロは育ってきた環境や見た目や性別が違っても、心の中で考えていることは一致してると互いに悟った。
レオンハルトはそんな2人を見ながら自分とはまた違う意味で共通点があると感じ、そこに自分はきっと踏み込めないと思い悔しくなった。
舞踏会後、リアーナとレオンハルトが迎えの馬車に乗り込むとレオンハルトが「俺以外にリナのこと分かってる奴いて欲しくない、アイツとは俺じゃ超えられない何かがあると思った」と悲しげに話した。
するとリアーナは隣に座るレオンハルトの手を取った。
「人との相性って大事だって言うでしょ?でも私思うの、相性が良すぎるのも良くないんじゃないかって」
「どういう意味だ?」
「だからそのままよ、自分と違う所があるからこそ惹かれるし一緒にいて飽きないと思うの。私達も仲はいいけれど自分と違う所はお互いにあるでしょ?」
「あぁ、ある」
「考えてみて、自分と同じ思考の人間が顔と性別だけ変えて目の前に現れたらどう思う?好きになる?」
「興味はあるが好きにはならない」
「でしょ?私もそう」
「ならイエルロはそういう奴ってことか?」
「多少は考えてること違うと思うけど基本は似てるがした」
「確かに怒った時のリナに似てる感じしたな、譲らない強さつーか絶対的なオーラが」
「怒った私あんな感じなの?」
「そうだ、つまり兄妹の枠を超えることはないってことだな」
「そうそう、兄妹愛と恋愛は別ってこと」
「それこそ陰と陽、いやこの場合は光と影って感じだな」
* ✦ * ✦ *
リアーナは(協調性がある、正義感が強い、仲間想い、明るく情熱的)
イエルロが(自己顕示欲が強く過度に理想主義、素直じゃない)
このように2人には性格に違いがあった。
それはまるで光と影のようだった。
分かりやすくいうならば、例えば傷を負った誰かが目の前に現れたとします。
リアーナは手を差し伸べその者を治療し守ることで救うが、イエルロはその者の全てを壊し新たにやり直させることで救うという考え(自分に力があってもなくても同じ)
✦ * ✦ * ✦
後日、王は舞踏会での一件以来その地位にふさわしくないと風評が広まり、あの場を収束させたイエルロの手腕が評価されていた。(王は壊れた城を見てただ嘆き、イエルロは城の修繕や補填などに尽力した)
その後すぐ聖女のリアーナはイエルロの妹として公表され兄を次期王として支持をするのではと世評が広まった。
そして聖女つまり神殿側が味方だと勝手に流れた噂のおかげで世間を味方につけたイエルロが即位。
その後レオは騎士団長に就任した。
実はリアーナにイエルロからの手紙が届き、兄妹だと公表するとあった。
そうすれば世間は勝手に盛り上がるだろうと。
その混乱に巻き込んでしまうかわりにレオンハルトを騎士団長に任命するとあり、2人はそれに乗ったのだ。
表向きは城に現れた巨大オーガを倒した英雄として。
「私は高みからの景色を見たいの」と以前キャロルが話していたことをリアーナは思い出す。
『確かに高い所からの景色はいいわ。だけど妬み嫉みを向けられてそんなにいいものでもない。だから皆たくさんの味方をつけようと必死になるのよね』
と即位した兄イエルロを神殿で行われている即位式に出席し、それを来賓席から見ながらリアーナは思っていた。
「そういや、あのオーガはどうやって闘技場から城に来たんだ?」
「さぁ?どうやって来たんだろうね」
隣に座るレオンハルトにそう話しかけられたリアーナは返事を返しながら、神殿の奥に鎮座する大きな女神像を見ていた。
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立派な翼の生えた男性は噴水の近くに立っていた女神のそばまで行くと跪いた。
「また私の意志を受け継ぐ子を作ってくださり、ありがとうございます」
「いいのよ、私の子もあなたの子を気に入ってるようだし、私ももう1人を作ったから」
そう言って微笑み、女神は手に持っていた綺麗な水晶を覗き込んだ。
「一つ聞きたいのですが、あの正気を失ったオーガを何故あそこへ?」
すると女神は後ろを振り返りゆっくりと歩き出しながら語った。
「私の子を侮辱している者がいたからよ。私の許可なしにあの子を陥れようとすることだけは、許されない」
と話し女神は雲の中へと姿を消した。
翼の生えた男性は女神が消えた方向に頭を下げたまま思った。
『神の中でもこの方が一番恐ろしいと聞いたが、その通りだったようだ』




