③.強く求められることが
森を抜け国境を越えた馬車は今日、宿泊する邸宅の前へと着いた。
帝都はまだ先のため、途中のこの邸宅に経由し今日は泊まることになっていた。
その邸宅は普段別荘として使われているようで今日も主はいなく我々だけだった。
リアーナは案内された部屋に入り着ていた上着を脱ぐと、同じように上着を脱いだ姿のレオンハルトがすぐに部屋の中へと入ってきた。
「レオの部屋は隣でしょ?」
そうそばへ寄ってきたレオンハルトに話しかけると「いいだろ来たって」と言い、彼はリアーナを抱き寄せ「リナのそばにいたくて来た」と言った。
それを聞いたリアーナは「私達まともに話しをしたのは今日が始めてよ」と答え、「そんなの関係ねぇだろ」とレオンハルトは言いながら、近くのソファーに彼女を誘導し共に座りお互いのことなどを話した。
その後レオンハルトがいないと言ってフランクが部屋を訪ねてきたことで、リアーナの部屋で夕食を2人で共に取った。
「レオといると楽しいからすぐ過ぎちゃう」
「俺もだ」
そう楽しげに話しながら食事を取る2人をそばで見ていたフランクは、互いに惹かれ合っていることに気付く。
『誰かとすぐに打ち解けるような方ではないのに、聖女様には心を許したのか?』
とフランクはそんなレオンハルトを見て驚いていた。
「聖女様が良い方でよかったですね」
夕食後、隣の自身の部屋に戻ったレオンハルトにフランクは明日の予定を話し、そのあとにそう話しかけた。
「あぁ、大神官のことは前々からよく思ってなかったようだ」
「そうでしたか。自分が利用されていたことに気付いていたのでしょうね」
その後、フランクはレオンハルトの部屋から廊下に出るとちょうど隣の部屋からリアーナが顔を出し、廊下にいた彼に気付くと「あの…」と声をかけた。
リアーナはどこか困ったような表情だった。
フランクはそんなリアーナが気になり「何かございましたか?」と尋ねた。
するとリアーナは「騎士の方に女性はいますか?」と聞いてきた。
「いえ、女性の者はおりませんが」とフランクは答えると「そう、ですよね…」と話し、リアーナは何か考え込んだ。
それを見たフランクは「何かお困りなら私ではダメでしょうか?」と聞いたがリアーナは「いえ、自分で何とかします」と言い部屋の扉を閉めた。
リアーナはため息をつきながら、もう一度鏡の前に立って思った『どうしよう…』
その頃、レオンハルトの部屋に戻ったフランクは少ししてからお風呂から出てきたレオンハルトに、先程の困った様子のリアーナのことを告げた。
話を聞いたレオンハルトはすぐに隣のリアーナの部屋に行き鏡の前に立っていたリアーナのそばに近寄った。
「どうかしたのか?」
「えっと…、その…」
リアーナは近付いたきたレオンハルトに何かを言い淀んだ。
「何でも俺に頼れって言っただろ?」
それを聞いたリアーナは考え込むように「…レオならいいか」と言うと後ろを振り返り「後ろの紐がきつく結ばれてて、自分じゃ解けなくて…」と言った。
どうやらリアーナの着ていた聖女服は後ろの紐で結ぶタイプのようで、朝女性の神官に着せられていたようだ。
「なんだ、そんなことか」と言ってレオンハルトはすぐに背中の紐を解いた。
「ほら」
「ありがとう」
「次も俺に頼むんだぞ、分かったな?」
「うん、そうする」
するとレオンハルトは「風呂に入るんだろ?脱がせてやる」と言い、リアーナの着ていた服を脱がそうした。
「ダ〜メ」と言って、リアーナは素早くレオンハルトのそばから離れた。
「何でだよ、結婚するんだからいいだろ」
「まだダメ」
そう言いながらリアーナは部屋の奥にあるお風呂場へ向かい扉を閉めた。
しばらくしてから寝間着(ネグリジェ)に着替えたリアーナがお風呂場から出ると、近くの椅子にレオンハルトが座っていた。
「部屋に戻ってなかったの?」
「あぁ、一緒に寝よう」
と言いレオンハルトは立ち上がると、リアーナの手を取り奥の大きいベッドに誘導した。
「私とくっつきたいの?」
「そうだ、離したくない」
話しながら2人はベッドに潜り布団をかぶった。
「私いちおう聖職者だから、異性との接触は基本ダメなんだけど」
「結婚相手は別だろ、だが他の奴とは絶対ダメだからな」
リアーナとレオンハルトは互いに横向きで寝そべり目を見つめ合った。
「分かりました、でもそれはレオもだからね」
「俺になんて誰も寄ってこねーから心配すんな」
「もしかして自覚ないの?」
「何が?」
「レオより格好いい人、今まで見たことないってこと」
「そうか?俺はリナより綺麗で可愛い奴、今まで見たことねーけど」
発した言葉から2人は互に、これまで異性とは関わりがなかったんだと知った。
「レオに出会えて良かった」
リアーナは目の前のレオンハルトを見ながら胸がドキドキしていた。
そしてこれがきっと恋なんだと気付いた。
「それはこっちの台詞だ、好きだリナ」そう言ってレオはリナの頬を撫でた。
「私もレオが好き、たぶん最初に会った時から」
「俺もそうだ、リナ」
そう言ってレオンハルトは動き目の前のリアーナに触れるだけの優しいキスをした。
リアーナがそれを受け入れたので、今度は彼女の頭の後ろに手を回し再びキスをすると舌を絡ませ、少し長めに深く口付けた。
「聖職者は異性との接触はダメだって言わないのか?」とレオンハルトは唇を離すとそう尋ね「結婚相手は別だって聞いたけど?」とリアーナは返し2人は微笑んだあと、彼はリアーナを抱き寄せ再度キスをした。
* ✦ * ✦ *
翌朝、鏡の前でリアーナの着替えをレオンハルトは手伝い終わると後ろから抱き締めた。
「たった1日でこんなにレオと仲良くなると思わなかった」と言い、リアーナは自身を抱き締めるレオンハルトの腕に手を添えた。
「俺もだ、リナとは出会ったばっかな感じしない」
「私も同じこと思った」
「もう絶対に離さない」
そう執着ともとれる言葉を言われリアーナは何故だか嬉しくなった。
家族と離れ神殿で育ってきたリアーナは特に誰かと親しくなることはなかった。
神官達は聖女のリアーナに一線を引くように接し、まるで信仰の対象のように彼女はこれまで扱われてきた。
『誰かに強く求められることが、こんなに嬉しいとは思わなかった』とリアーナは自分自身に思い「私も離れない」そう深く考えるように返事をした。
この時の2人は互いに強く惹かれ、求めあっていると既に分かっていた。
「リナも嫉妬深そうだな」
「レオよりは、そんなことないでしょ」
「いいや俺と同じくらいだな」
そう言って後ろからリアーナの頬に自身の頬をくっつけた。
その後、馬車に乗る前にフランクからリアーナは謝罪を受けた。
「殿下から聞きました、聖女様の身の回りの世話をする者を手配いたします。気が付かず申し訳ございません」そう謝るフランクを近くで見ていた1人の騎士が近付き、フランクの肩に手を回しリアーナに話しかけた。
「こいつは元々俺達と同じ騎士だったんだ。それが最近、真面目さを買われて殿下の侍者になったが女性のことには疎くてな。女の浮いた話も騎士の頃から全くない奴なんだ。だからどうか許してやってくれないか」と言った。
リアーナは気にしてないと答えながら目の前のやりとりを見せられ、フランクは騎士の皆から慕われているのだと思った。




