②.白いベールの下
レオンハルトの母は皇妃ではなく宮殿で働く使用人の女性だった。
皇妃には子が出来なかったためレオンハルトが皇太子となった。
(母は側妃となったが出産後、皇妃からの圧力に耐えきれなくなり宮殿から行方をくらました)
18歳になったレオンハルトは父である陛下に命令され、同い年の聖女との婚約を結ぶため隣国へと向かった。
国のためとはいえ会ったこともない女との結婚などレオンハルトには全く興味がなかった。
そのため結婚後も男女の関係はないなと思いながら聖女との面会に挑んだ。
だがベールで覆った彼女の顔を見た瞬間、レオンハルトの胸はざわめいていた。
今まで感じたことのないこの感情はなんなのかと思ったそんな時、横を向いた聖女は顔を覆っていたベールがずれ、隙間から彼女のピンク色の瞳が一瞬だけ見えた。
その瞳を今度はじっくりと見たいとレオンハルトは思い、婚約に反対している大神官の話を無視して彼女との婚約を結んだ。
その後に聖女と自分の婚姻を望まない大神官が邪魔をする前に、彼女を国へ連れて帰らなければと思い帝国へ連絡を入れた。
3日後、リアーナと共に馬車に乗り込み目の前に座った彼女の顔を覆っていたベールを早く取らせたかったが、他の奴に綺麗な彼女の素顔を見られるのは嫌だと思いレオンハルトは我慢していた。
すると森へ入った途端に馬車が大きく揺れ彼女の顔を覆っていたベールが取れてしまった。
レオンハルトはもう一度見たいと思っていたリアーナの透き通った綺麗な瞳を近くで見ることが出来た。
だがじっくりと見るには何故馬車が止まったのか原因を確認しなければいけなかった。
馬車の中に彼女を残し外に出ると刺客に囲まれていたため、すぐに剣を構えて応戦し少し馬車のそばから離れた隙に、中にいたリアーナが刺客に腕を掴まれて外に出され顔を覆っていたベールが取られていた。
そんなリアーナを刺客の男はまるで舐め回すように見ていたことにレオンハルトは気付くと、自分でも驚くほど殺気立だったのが分かった。
「触るな!」
と叫び、気付くとリアーナに触れていた男をあっという間に倒していた。
レオンハルトは騎士に刺客達を捕らえさせ、そばにいたリアーナに「怖い思いをさせて悪かった。怪我はないか?」と謝り様子をうかがった。
リアーナは「いえ、私は大丈夫ですので気にしないで下さい」と答えた。
そんな見つめ合う2人を近くで見ていた騎士は聖女に優しく接するレオンハルトと、ベールを取った美しい聖女リアーナの姿にとても驚いていた。
するとレオンハルトの腕に血がついていることに気付き、リアーナは「怪我をされたのですか?」と彼の腕に触れながら聞いた。
そう心配そうに聞いてきたリアーナにレオンハルトは「これは俺の血じゃない、だから怪我はしてない」と言った。
するとリアーナは安堵したように「なら良かったです」と話し微笑んだ。
そんな微笑むリアーナを見たレオンハルトは『誰かに心配されるのも悪くないな』と思った。
リアーナは「浄化しますね」と言いレオンハルトの腕についた血に手の平をかざすと、血の跡は跡形もなく消え去った。
「凄い…!」
するとそれをそばで見ていた騎士がリアーナの浄化魔法に驚いて声を上げ、リアーナはその場にいた騎士全員の怪我の治療と血の跡の浄化を行った。(※浄化は血の跡を消すだけ)
「神殿側が聖女様を渡すのを渋っていた理由が分かりましたね」
騎士全員に治癒を施したリアーナの能力を見た侍者のフランクが、レオンハルトにそう話しかけた。
だがレオンハルトはベールを取った綺麗なリアーナを他の者に見られることの方が嫌だった。(※ベールは踏まれて破れたため着けれない)
綺麗な聖女のリアーナを見れば皆が気に入ると分かっていたからだ。
案の定、騎士達は自身のそばで治癒を施す美しい聖女のリアーナに色めき立っていた。
そんな状況にレオンハルトは苛立ち、治癒が終わったリアーナに声をかけた。
「終わったなら出発するぞ」
と言ってリアーナを馬車の方へと誘導した。
そうレオンハルトは既に聖女のリアーナに恋に落ちていたのだ。
すると馬車に乗り込もうとしたレオンハルトに騎士の1人が声をかけ、先程襲ってきた刺客達に尋問をしたと言った。
どうやら大神官に大金を渡され雇われた者達で、聖女もろとも皆殺しにしろとの命令だったそうだ。
大神官はどうしても帝国に聖女を渡したくなかったようだ。
そばでその話を聞いていたリアーナはショックを受け「…そんな」と言いながらその場に倒れそうになり、レオンハルトは慌てて彼女を支え「お前!」と言って報告をしてきた騎士を睨みつけた。
「も、もも、申し訳ございません!」
とレオンハルトに睨まれた騎士は冷や汗をかきながら謝り、その場からすぐに離れた。
そばで話を聞いていたフランクは「騎士の教育をしておきます」と言いレオンハルトに頭を下げた。
レオンハルトはそれには返事をせず、リアーナを支えながら馬車に乗り込み隣に座らせた彼女を自身に抱き寄せた。
馬車が動き出すとレオンハルトは「お前のことは必ず守る、だから俺を信じろ」と言った。
「それは婚約者としてですか?」とリアーナは今の言葉をどこまで信じればいいのかと疑問に思った。
「いつでもそばにいるってことだ、何かあったら俺を頼れ。分かったな?」
そう真っ直ぐな瞳で言われリアーナはこの人の言葉を信じたいと思った。
「なら私を裏切らないと約束してください」
と語ったリアーナの瞳は少し思い詰めたように揺らいでいた。
しかしその奥には彼女の真っ直ぐな強さが感じられた。
『この目を俺は見たかった』
そう思いながらレオンハルトは「約束する、何があっても俺はお前を裏切らない。それから先に言っておくが、妃はこの先もお前1人だけだから安心しろ」と言った。
「妃をですか?」その言葉にリアーナは驚いたように聞き返した。
レオンハルトは恐らくあの大神官から自身のありもしない悪い噂をリアーナは吹き込まれていると分かっていた。
「そうだ。どうせあの大神官、俺のこと悪く言ってたんだろ?それ恐らくほとんど嘘だ」
「そうなのですね。確かに聞いていた殿下の印象と、だいぶ違いますね」
「だろ?つーか俺のこと怖くないのか?」
「え?怖い?」
リアーナは大神官から皇太子は無慈悲で恐ろしい人間だと聞かされていたが、初めてレオンハルトを見た時から彼を怖いとは思わなかった。
ベール越しからでもリアーナの目にはレオンハルトが誠実な人間に映っていた。
だからすぐにレオンハルトの言葉を信じられたのだ。
何を言っているのか分からないというような表情をしたリアーナにレオンハルトは思った。
『そうか、お前は最初から俺を怖がらず真っ直ぐ見ていたのか。だから俺は気になったんだな』
初めてリアーナに会った時のベール越しに感じた胸のざわめきは、自身を真っ直ぐに見つめる彼女の視線を感じていたからだとレオンハルトは思った。
「名前、リナって呼んでいいか?」
「はい、構いません」
そう答えたリアーナに先程の不安はもう感じられなかった。
「俺は正直この婚約に全然乗り気じゃなかった。国のためにとりあえず体裁だけ整えようとそう思った。だがリナに会って気が変わった。俺はどうやらお前のことが好きらしい。だから少しずつ俺を受け入れてくれないか?」とレオンハルトはどこか照れたように話た。
するとリアーナも照れた表情になり「分かりました」と答えた。
そんなリアーナに「脈ありって思っていいか?」とレオンハルトは聞き「そんなことを聞くなんてズルいです」と彼女は視線を逸らした。
レオンハルトはそんな照れるリアーナが可愛くて仕方なかった。
リアーナが好きだと自覚したレオンハルトは彼女のいろんな表情が見たいと思い、リアーナの手を持ち上げると手の甲にキスをした。
するとリアーナはますます照れた表情になりレオンハルトは嬉しさから微笑んだ。
「殿下、少し離れてください。恥ずかしいです」とリアーナが言うと「殿下じゃなくてレオって呼べ」と言い「そのようには呼べません」と遠慮するリアーナに「いいから、それからもっと気軽に話せ」とレオンハルトが言った。
そう少し強引に言われリアーナは仕方なく話し方を普通にし、名前も殿下ではなく『レオ』と呼ぶことにした。
「あの婚約者だとか言われてた男とはどんな関係だ?」
と気になっていたことをレオンハルトは聞いた。
「彼とはレオが心配するようなことは何もないの。ただあの時に大神官様が婚約者だと言っただけよ」
「ならいい、リナに触れていいのは俺だけだ」
「そういうの、よく恥ずかしくなく言えるね」
リアーナはレオンハルトの真っ直ぐな言葉を聞くたびに照れていた。
「リナになら無限に出でくる」
「無限に?」
「そうだ、好きだぞリナ。特にこの目が好きだ」
そう言ってリアーナの頬に手を添えレオンハルトは彼女の透き通った濃いピンク色の瞳を覗き込んだ。
するとリアーナも見つめ返し「私もレオの目の色、好き」そう優しく呟いたリアーナに、レオンハルトはキスをしようと顔を近付けた。
落ち着いた濃い青色の瞳が細くなって近付いてきたことに気付いたリアーナはキスをされると思い、瞼を閉じようとした瞬間、乗っていた馬車の扉をノックされ「到着いたしました」と侍者のフランクの声が外から聞こえてきた。
リアーナはその声を聞き慌てて隣にいたレオンハルトから離れた。
馬車を降りたリアーナはどこか照れた表情だったのにたいし、レオンハルトの方はいつにも増して鋭い目つきでフランクを睨んでいた。
『いったい何なんだ…!』とレオンハルトに睨まれたフランクは思い、焦った表情をしながら今日宿泊する邸宅の家の中へと2人を案内した。




