①.隣国の聖女
『フエゴバグラ帝国の皇太子レオンハルト』は、18歳の成人になると皇太子として属国の1つである『ルクスメリア王国の聖女リアーナ』と結婚しろと、皇帝である父から命令された。
その頃ルクスメリア王国にある神殿では、無慈悲だと噂される帝国の皇太子と結婚などしても形だけですぐに何処かに幽閉され、一生奴隷のように力だけを使われ続け惨めな最期を遂げると言われ、聖女のリアーナは周囲から結婚を反対されていた。
だが帝国との婚姻を断ることは出来ないため神殿側は聖女のリアーナを守るため、ある作戦を立てた。
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リアーナは王家と遠い血筋にあたる公爵家の婚外子として生まれた。
母は外国出身の元貴族令嬢で、その美貌と教養を活かし高級娼婦をしていた。(※高級娼婦とは特に多額の対価を要する者で、おもに高い身分の者、有力者などを客とし、しばしば相手を選ぶ権利をもつ。Wikipedia参照)
そんなとても見目麗しい娼婦の彼女にのめり込んでいた若い頃のリアーナの父は、自身の子を身籠った彼女に新しい家を与え彼女と産まれた子供をとても大事にした。
彼女は妊娠を期に娼婦をやめ、新しい家で可愛い我が子との時間を大切に過ごしていた。
だが出産から数ヶ月後に、姿を消した彼女を常連だった別の客が居場所を突き止め、自分以外の男との子を生んでいたことに腹を立て、隠し持っていたナイフで彼女を刺し殺した。
残された子供(リアーナ)は公爵の手に渡ったが、彼は自身の家に連れ帰ることが出来ずその事実を隠すため、リアーナを自国の神殿に預けこのことを口外しないよう多額の金銭を渡した。
そしてその後7歳の時にリアーナは聖女として覚醒した。
(※ちなみにその数年後に公爵は酒に酔った状態で妻と口論になり「お前なんか好きじゃない、俺は他にも子供がいる。それも聖女なんだぞ」と自らリアーナの存在をバラし、酔いがさめたあと妻にそのことを咎められ謝ったが許してもらえず離縁された)
神殿は聖女のリアーナを利用し貴族等から高額な寄付金を得ていた。
そのため帝国には何が何でも渡したくなかったのだ。
特に大神官はリアーナの父親ヅラをし何かと口うるさかった。
皇太子との初の面会の日、リアーナは顔に薄い白い布(ベール)を覆っていた。
それは美しい聖女リアーナの顔を見せないためだった。
神殿にやってきた皇太子レオンハルトは目の前に座るベールで覆い、顔が分からないことに疑問をもち「何故そんなのものをしている」と尋ねた。
すると聖女の後ろに立っていた大神官が「神聖なお方である聖女様を守るためですので、ご理解ください」と言った。
そしてこの婚姻は受け入れられないとも。
何故なら大神官の隣に立っていた神官の若い男性はこの国の『王族』で、この方との婚約が既に決まっていたと話した。
神殿側はありもしない事実を述べ何とか聖女をこの国に留めようとした。
そして自分達の言いなりである王家と内々で口裏を合わせていたのである。
リアーナは身に覚えのない話をされ戸惑い、思わず後ろにいた大神官の方に振り返った。
それを見たレオンハルトは、今の内容を聖女は知らなかったのだと気付き、大神官が彼女を渡さないためについた嘘なのだと分かった。
そして振り返った時に聖女がつけていたベールがずれ、彼女の綺麗な横顔が目の前のレオンハルトには見えていた。
そんな彼らにレオンハルトは「そんな話は聞いていない」と言い、「えぇ、国のことに関わる重要なことですので公表しておりませんでした」と大神官は答えた。
だがレオンハルトは「婚約していようが関係ない、俺との婚姻は既に決まっていることだ」と言って押し切り、この日2人の婚約が正式に結ばれた。
「殿下も大変ですね、いくら陛下からの命令とはいえあのような方と結婚などと」
レオンハルトの後ろに控えていた侍者の『フランク』は共に神殿から出ると、そうレオンハルトに話をかけた。
レオンハルトは今まで女性に興味を示したことがなく、それがいきなり他国の聖女と結婚となり相手の女性に会ってもベールで顔を隠しどんな姿なのかも分からない、そんな人との結婚を強いられた皇太子は可哀想だとフランクは思った。
「そうでもない」するとレオンハルトは満更でもないのか落ち着いた表情でそう答えた。
「それより、なるべく早くここを離れた方がいい」
「えっ?あ、そうですね。早く国へ帰りたいですよね」
先程の発言に驚いていたフランクは慌てながら今のレオンハルトの発言に合わせた。
「違う、俺じゃない」
レオンハルトは立ち止まって神殿の方を振り向いた。
「3日後、婚約者を帝国に連れて行く。そう神殿に伝えろ」
「へ?3日後ですか?!」
そう言って歩き出したレオンハルトにフランクは慌てて聞き返しながら追いかけた。
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3日後、笑ってはいるが何処か怒りを含んだ表情の大神官と、晴れない顔をした聖女の婚約者だと紹介された男性が神殿前に立ち皇太子のレオンハルトを出迎えた。
「急に聖女様を連れて行くと言われても困まります」などと、グチグチ言ってくる大神官の話を受け流しながら、レオンハルトはその場で待っていた。
しばらくしてから大勢の神官を後ろに引き連れた聖女リアーナが現れた。
彼女は相変わらずベールで顔を覆っていた。
レオンハルトは話しかける大神官を無視し、リアーナのそばに行き手を取ると馬車へと誘導した。
その時、リアーナの後ろにいた神官達は次々に皇太子レオンハルトのことを悪く言った。
「無慈悲とは聞いてたが本当だったとは」
「強引に自分のものにするなんて」
「不躾にもほどがある」
「婚約してたった3日で連れて行くなんてあんまりよ」
「聖女様が可哀想だ」
その話を聞きながら大神官は薄ら笑いを浮かべていた。
馬車に乗りたくさんの騎士達と帝国へ向けて出発すると、リアーナは目の前に座ったレオンハルトに謝った。
「先程は大神官様が申し訳ございませんでした。まさか神官達にあのようなことを言わせるとは思っていなく…」
「やっぱりあの男が言わせてたのか」
レオンハルトは大神官が言わせていたと気付き、謝るリアーナにお前のせいではないから謝らなくていいと言った。
その言葉を聞き、もしかしたら大神官が自分を利用していたことに皇太子は気付いているのかもしれないとリアーナは思った。
そうリアーナは大神官が自分を利用し多額の利益を得ていることを分かっていたが、だからといってどうすることも出来なかったのだ。
そしてこの際、思い切って聞いてみることにした。
「あの、もしかして気付いているのですか?大神官様が、その、私を利用していたと」
「当たり前だろ、だから…」
そんな時だった、馬車が帝国との国境付近である長い森に入った途端、馬車が大きく揺れてから急停車し、その拍子にリアーナの顔を覆っていたベールが床に落ちしまった。
レオンハルトは目の前に落ちたベールを拾い「まだ着けてろ」と言ってリアーナに手渡した。
「…はい」
リアーナは返事を返したが馬車の外でいったい何があったのかと思い不安な顔をした。
それを見たレオンハルトは「心配するな、俺が見てくる。ここから出るなよ」と言って扉を開け外へと出るとすぐに扉を閉めた。
するとすぐにリアーナの耳に金属が擦れる音が響いてきた。
どうやら何者かの襲撃に遭い馬車の外では騎士達が戦っているようだ。
リアーナは手に持っていたベールで顔を覆い、自身の手を握り皆の無事を祈った。
と思ったら勢いよく扉が開きリアーナは驚いて扉の方を見ると、全身黒い服を着た見知らぬ男が立っていた。
男は座っていたリアーナの腕を引っ張り「来い」と言って外へと連れ出した。
そして顔を覆っていたベールを剥ぎ取り「お前が聖女だな」と言うと、男は思いのほか綺麗だった聖女のリアーナを全身舐めるような目で見てきた。




