⑥.恋の行方
建物から外に出ると目の前には、綺羅びやかな装飾を施した馬車が止まっていた。
そのまま馬車に乗ろうとゲルトはリアーナを連れて歩んでいた時、何かの足跡が多数近い付いてくる音が聞こえた。
2人が横を向くとそこには王宮から来た騎士数十名、その先頭にはジークベルトとレオンハルト、それからドリスがいた。
騎士達はリアーナ達に気付くとすぐに馬から降りゲルト達を取り囲んだ。
するとすぐにジークベルトが声をかけ。
「ゲルト皇太子殿下、もう逃げ道はない。彼女を返してもらおう」
ゲルトは辺りを見回し、明らかに自身の共よりも相手の騎士の数の方が多いと気付き、観念したのか苦笑いを浮かべながら掴んでいたリアーナの肩を離した。
リアーナは解放されると、すぐにレオンハルトのところへと走った。
「…リナ、よかったリナ」
「レオ、怖かったよ…」
そう言って2人は抱き合いリアーナは堪えていたのか涙を流した。
『へぇ。婚約者じゃなく、そっちと出来てんのか』
それを見たゲルトは薄ら笑いを浮かべながら近くにいたドリスと目を合わせた。
「この裏切り者が」
ドリスはジークベルトに頭を下げるとゲルトのそばへと歩いていった。
リアーナを無事に解放すれば、この場はこれ以上ことを荒げないという約束を既にしていたため、ゲルトを取り囲んいた騎士はジークベルト達のそばへと戻った。
レオンハルトは自身の上着を脱ぎリアーナの肩に掛けると、乗ってきた馬に彼女を横向きで乗せその後に自分も跨った。
「ちゃんと掴まってろよ」
そう前にいるリアーナに声をかけ落ちないようしっかり抱き寄せながら手綱を握り締めた。
リアーナはレオンハルトに寄りかかり離なれないようしがみついた。
レオンハルトは馬を走らせながらリアーナに聞いた。
「あいつに酷いことでもされたか?」
「ううん、何もされてない、ただ」
リアーナは自身に何があったのか、ゲルトと話た会話の全てを語った。
「リナを正妃だと?!あの野郎…!」
話を聞いたレオンハルトは怒りで顔を歪ませ、隣でリアーナの話を聞いていたジークベルトも持っていた手綱を強く握り締めていた。
その後、少し走った所で王宮からきた馬車が合流しリアーナとレオンハルトはその馬車に乗り込んだがジークベルトは乗らなかった。(馬車は早く走れないため遅くなった)
馬車に乗るとリアーナは隣に座ったレオンハルトに羽織っていた上着を返そうとしたが「いい、まだ着てろ。その格好他のやつに見せたくない」と言って断られた。
「この服似合わない?」
「違う、似合ってるから見せたくないんだ。そんな薄着…、あいつも露出してたしな…」
温暖な気候である帝国では薄着が定番で、ゲルトも常に肌を出していた。
リアーナはそんな帝国の衣装を着ていたため、レオンハルトはいつもと違う可愛いリアーナを誰にも見せたくなかったのだ。
するとレオンハルトは片手を伸ばしリアーナの頬に触れると、涙が流れたであろう目の下の頬を親指でなぞった。
「お前を守ってやれなくて悪かった、必ず守るって言ったのにな」
「ううん、来てくれただけで嬉しい」
するとレオンハルトはリアーナを抱き寄せ肩に顔を埋めた。
「リナが無事で良かった」
「心配かけてごめんね」
リアーナはそう言いながらレオンハルトの頭を優しく撫でた。
レオンハルトは身体を起こすと「王宮に帰ったら、もう一回リナと婚約したいって父さんに言うからな」と語った。
「分かった。だけど私達もう恋人同士みたいになってない?」
「そうだな、なら恋人同士みたいなことするか」
「何をするの?」
するとレオンハルトはリアーナを抱き寄せたまま可愛い唇を見ながら顔を近付けた。
リアーナも目の前のレオンハルトの視線が自身の唇に注がれていることに気付き、とっさに彼の肩に手を置き押し返そうとしたが間に合わずリアーナはキスをされてしまった。
「なに照れてる、恋人ならこのくらいするだろ」
急にキスをされ頬を赤らめ照れたリアーナがレオンハルトは可愛くて仕方なかった。
「照れてない。急だったからビックリしたの」
「そうか。俺は初めてで恥ずかしかったがリナは違うんだな。そうかそうか」
そうからかうように言われたリアーナはレオンハルトの肩に置いていた手を離し、目を逸らして呟くように言った。
「私も、初めてで、…恥ずかしかった」
そんなリアーナをレオンハルトは可愛さのあまり抱き締めた。
「分かってる、俺はリナをいつも見てきた。お前のことなら何だって分かってるつもりだ」
「うん、私も同じだよ」
レオンハルトは抱きしめていた手を緩めリアーナと目を合わせると、何処か照れたように話した。
「リナが好きだ」
「私も、レオが好き」
そう答えたリアーナにレオンハルトはもう一度キスをした。
その後リアーナを家に返し、レオンハルトはすぐに王宮へと戻った。
外は既に夜になっていたが、先に王宮に戻っていたジークベルトが今日のことを陛下に報告し国の上層部だけを集め、話し合いを行うことになった。
ジークベルトがことの経緯を述べ、次にフィリップがリアーナ誘拐の手引きをしたオーロラについて調べたことを話した。
彼女は恵まれた環境で育ったからか子供の頃から高飛車な性格だった。
常に自分は凄いんだと嘘を交えて自慢話をすることから信頼を失い、徐々に人が離れていった。
だが本人は何がいけなかったのかに気付いていなく、相手が勝手に自分を裏切ったと思い込んでいた。
そしてそんな自分とは違いいつも周りに人がいるリアーナを妬んでいたように思われると、彼女と幼馴染だったかつての友人に聞いたことをフィリップは話た。
「それはただの逆恨みだろ、そんなことでリナを危険な目にあわせたのかよ!」とそれを聞いたレオンハルトは声を荒げた。
「レオンの意見はもっともだ。ここで許せば彼女はまた同じことを繰り返すだろうな」
と皆の話を聞いていた陛下が呆れた口調で語った。
そして話し合いの結果、彼女1人の責任ではないとし子爵家の領地を僻地へ移動することにした。
話し合いが終わり陛下が部屋から退出するとレオンハルトはあとを追いかけた。
それはリアーナと婚約をしたいと再度告げるためだった。
陛下である父を呼び止め話そうとした時「待て、レオン」と後ろから声を掛けられ、振り返るとジークベルトも追いかけきていた。
そしてすぐに隣にくると「お前の話したいことは分かっている、だから先に私から話す」と言い、自分も陛下に話したいことがあるから少し待つようにと言った。
レオンハルトはきっとリアーナと婚約を解消したくないと言うんだろうなと思いジークベルトを睨んだ。
するとジークベルトは陛下に「リアとの婚約を解消します。今まで返事を先延ばしにし申し訳ありませんでした」と言った。
「レオン、お前がリアを幸せにしてやってくれ」そうレオンハルトに告げるとジークベルトはその場を去っていった。
呆気にとられ黙っているレオンハルトに陛下は言葉をかけた。
「それでレオン、私に何か話があるのか?」
「あ、いえ、リナと婚約をしたいと言おうと思ったんですが…」
「そうか、ちょうど彼女は婚約解消を申し込まれたようだし、なら今後お前との婚約の手続きをしよう」
「はい…!」
ジークベルトは陛下から、レオンハルトからリアーナへの婚約申し込みの話を既に聞かされていた。
そしてリアーナもそれを望んでいると。
だがジークベルトは返事を保留にしていた。
それはリアーナのことが好きだったため、そう簡単に諦めきれなかったのだ。
前々からリアーナがレオンハルトを見つめる視線に熱が込められていることに気付いてはいたが、それを認めたくはなかった。
しかしゲルトに捕まり解放されたあと真っ先にレオンハルトの下へ向かったリアーナを見て、ジークベルトは『この恋を諦め、互いを想い合う2人を祝福しなければいけない』と王宮に戻る途中に考えていた。
ジークベルトとリアーナの婚約解消、そしてリアーナとレオンハルトの婚約が正式に決まり、2人は学校を卒業後に結婚することが決まった。
レオンハルトは高等部卒業式の後、ピンクのダリアの花束をリアーナに渡しながらプロポーズし、リアーナは笑顔でそれを受け取った。
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そしてゲルトは皇太子ではなくなった。
ドリスがグレモニア王国の力を借り、ゲルトが今までやって来た様々な悪行を公表。
そのため皇族への批判が高まり、皇太子ではいられなくなったのだ。
ドリスは帝位継承権を失ったゲルトを嘲笑うように思った。
『私があの美しい彼女に花を渡すとしたら、アスチルベの花を贈るのに』と。




