③.絡み合う思惑
数日後、王宮ではパーティーが開かれていた。
これは数年に一度行われる近隣諸国の貴族を招いた友好の証としての歓迎会だった。
そのためとても盛大に行われリアーナも華やかなドレスを着て参加し、いつも通り王子達とフィリップと集まり皆で談笑していた。
男子4人は先日の歌劇場でのこともあり、周りに注意し警戒していた。
あの時にフィリップが話していた『オルレギス帝国』とは、ここより南に位置し『金』の生産量で世界的に有名な国だった。
そのため経済で爆発的に発展し帝国にまでのし上がり今や世界をリードしつつあった。
その一方で各国で廃止となった古い制度である『奴隷』を労働者として使い続けていた。
そのため未だに奴隷に金脈を掘らせる時代遅れの野蛮な国、というふうに世界からは言われていたのだ。
その国の皇太子が歌劇場で見た人物ではないかと思い、リアーナに近付けさせないよう男子達は囲むようにしていた。
そんなリアーナ達のところへ、オルレギス帝国の皇太子『ゲルト』(リナより4つ年上)が近付き声を掛けた。
「また会いましたね、お嬢さん」
ゲルトは周りにいる王子達には一切目もくれず真ん中にいたリアーナだけを見ていた。
彼はこの日のために数日前から王都に来ていた。
そしてフィリップはそのことを宰相である父から聞いていたのだ。
すると皆はリアーナを守るように間に入るとゲルトに声を掛け、当たり障りない会話をし終るとゲルトはその場から離れた。
すると皆はゲルトの目はリアーナを狙っている目だと言い、だから1人になってはいけないと注意した。
リアーナ自身もゲルトには何とも言えない気味の悪さを感じていた。
パーティー後、父と共に乗り込んだ馬車の中でリアーナは今までのことを話した。
すると大臣である父もオルレギス帝国の皇族は強欲だと聞いたと言った。
「彼らが王都に滞在している間は気を付けなさい」とリアーナは父からも注意された。
* ✦ * ✦ *
翌日、学校へ向かおうと庭に出たリアーナに父は護衛をつけると言い、リアーナは目立つからいらないと断り、それを見た母は娘を守りたい父と、学校の中で護衛をつけて歩きたくないリアーナの両方の思いが分かり『どうしたものかしら』と悩んでいた。
すると目の前の入口から入ってきた人物に気付き声をかけた。
「まぁ、これは丁度よかったわ」
リアーナの家へとやってきたのはレオンハルトだった。
レオンハルトもリアーナのことを心配しわざわざ迎えに来たのだ。
「しばらくは自分がリアーナさんを送迎します。学校の中でもなるべく一緒に行動します」
とリアーナの父と母にレオンハルトが話し、リアーナとレオンハルトはそのまま彼の乗ってきた馬車の方へと向かった。
「レオが敬語で話してた」とリアーナがクスクス笑いながら話しかけ「俺だって敬語くらい使える」とレオンハルトは言い返した。
仲睦まじく話しながら離れて行く2つの後ろ姿を見つめ、リアーナの母は隣にいる父に言った。
「変わらず仲が良さそうね」
「そうだな。そういえばレオンくん、リアとジークくんの婚約解消、それから自分との婚約の希望を陛下にしたそうだ」
「まぁ、そうなのね。良かったわ」
と言いながら、母は微笑ましく2人を見つめていた。
リアーナが馬車に乗ると、いつもは向かい合って座るレオンハルトが今日は隣に座った。
「隣なの?」
「あぁ、護衛は近くにいねーとな」
「レオが護衛してくれるの?」
「そうだ、俺が必ず守ってやる」
「ありがとう」
と答えた彼女にレオンハルトは少し真剣な感じで話しかけた。
「リナと婚約したいって父さんに言ったからな」
リアーナは急にそう話したレオンハルトに驚いたが、子供の頃に交わした約束を覚えていたんだと思った。
「それって、昔の約束を覚えてたの?」
「当たり前だろ、あの時も今も俺は何も変わってない。それはリナもだろ?」
「私は…」
リアーナはどこか照れたように言い淀んで、レオンハルトから目を逸らした。
『自覚はしたようだな』レオンハルトは自分を好きだと気付いてくれたリアーナに嬉しくなった。
そんな可愛いリアーナを抱き寄せたかったがまだ早いと思い、レオンハルトは彼女の手を取り繋いだまま自身の太ももの上に置いた。
その後、学校へ到着すると一緒に登校して来た2人に気付いたフィリップが近付き、挨拶を交わしたあと「どうして2人が一緒に来るのかな?」とレオンハルトに聞き「俺がしばらくの間、リナの送り迎えすることになったからだ」と彼は得意げに話した。
それを聞いたフィリップは先を越されたと思い、自分もやると言ったがリアーナの両親も承諾してるから俺がこのままやると言ってレオンハルトは押し切った。
数日後、オルレギス帝国から来ていたゲルトは滞在していた高級ホテルから国へ帰ったと報告があったが、レオンハルトはそのまま自身の馬車でリアーナと登下校を共にしていた。
フィリップはいつまで続けるんだとレオンハルトに聞いたが、王宮と学校の丁度中間にあるリアーナの家に寄るだけで、深い意味はないと言って取り合わなかった。
そのことをフィリップから聞いたジークベルトは2人の距離がますます縮まってしまうと思ったが、どうしたらいいのか分からなかった。
その頃ゲルトは国へ帰るためオルレギス帝国との国境付近にある邸宅に一時滞在していたが、着いてそうそう夜中にこっそり抜け出し王都に戻って来ていた。
それはもちろんリアーナを国へ連れて行くためだった。
ゲルトの従者であるドリスはリアーナを連れて行くことを認めなかったため、ゲルトは単独で数人の共を連れ動いていた。
✦ * ✦ * ✦
王宮で開かれたパーティーで王子達に囲まれ談笑するリアーナを遠くから見ていたある女がいた。
その女はグレモニア王国の子爵家令嬢『オーロラ』だった。
オーロラはリアーナと年齢が一緒で学校も同じだった。
人気者で目立つ存在のリアーナのそばには、いつも人が集まっていることにオーロラは嫉妬していた。
『何でいつもあの女ばっかり!』
そう苦々しくリアーナを見つめるオーロラに気付いたゲルトは近くへ行くと話しかけた。
「怖い顔をしてどうした?綺麗な顔が台無しだぞ」
オーロラは野蛮な国だと聞くオルレギス帝国の皇太子に話しかけられ戸惑ったが、褐色の肌に露出した服の隙間から見える鍛えられた筋肉、この国の者とは明らかに違う異国の雰囲気漂う年上の皇太子ゲルトに話を交わすたびに惹きつけられた。
そのまましばらく話たあと「このあと俺の部屋に来ない?」と耳元で呟かれたオーロラは頬を赤くしながら頷いた。
それを見たゲルトは微笑みながらオーロラと共にパーティー会場を抜けると、自身が滞在する高級ホテルの最上階スイートルームの部屋に入り2人はそこで数日過ごした。
ゲルトはその間ベッドの中で愛の言葉をたくさん囁やき、オーロラは完全に心を奪われていた。
そしてゲルトが国に帰る日の朝「俺は皇太子だから国に帰らなきゃいけない。だから君とはもう会えない」と言うと、オーロラは「そんなのイヤ、なら私もアナタの国に連れて行って。このまま離れたくないの」と言ってゲルトに抱きついて引き止めた。
ゲルトは自身に抱きつくオーロラを少し離し目を見つめ「この国の貴族令嬢である君を、そう簡単には連れていけない。分かってくれ」そう言ってオーロラから離れると近くに置いていたガウンを羽織った。
するとオーロラはそんなゲルトに後ろからまた抱き着いた。
「お願い考え直して、何でもするから」
と言うと、ゲルトはその言葉を待っていたというようにニヤついた表情になったがすぐに元の顔に戻して振り返った。
「本当に何でもする?」
そう聞かれたオーロラは「アナタのそばにいるためなら何でもするわ」と答えた。




