⑧.時代の幕開け
今からニ百年程前、王都の街に住む平民の若い娘がいた。
彼女は決して美人ではなかったが、小柄で可愛らしい見た目と雰囲気だった。
両親はそんな彼女をとても可愛がり、周囲からも可愛いと言われチヤホヤされて育った。
それが昔のアルマの姿だった。
だが歳を重ねるにつれ周囲から『可愛い』と言われることが減りアルマはとても焦っていった。
まるで取り憑かれたように美容グッズを買い占め、美にこだわったがそこには限界があった。
その後、両親が亡くなり独身だったアルマは心の拠り所を失ってしまった。
そして彼女は1人で森に移り住み禁術である黒魔法に目を付けた。
悪魔から力を借りるため麓から村人を数人さらい生け贄として捧げ、黒魔法を得ることが出来た。
そして得た黒魔法を使い生きた人間から生気を奪うことに成功したのだ。
あちこちの村や町で定期的に人を攫い森へ連れて帰り生気を奪い彼女は若さを保っていた。(攫ったのは特に自分より若い女性)
そんなことを繰り返し二百年が経っていた。
「お願いします!殺さないでください!」
そう村から攫い拘束していた若い女に言われたアルマは「分かった、殺しはしない」と言って生気だけを奪った。
「生きながら死ねばいい」
そう呟くと生気を奪われた若い女はゾンビ(魂がない状態)へと変貌した。
アルマは若さを保つことは出来たが、それを維持し続けることの難しさを痛感していた。
ゾンビを解剖し研究をしたりもしたが特にこれといって成果はなかった。
そこでアルマはこの世界に遥か昔から存在すると伝えられるドラゴンの力を得られないかと考えた。
何年か前にドラゴンに選ばれた少年がいたはずだと思い、まずは彼に近付きその後にドラゴンと接触しようと思いついた。
彼と同じ学校に高等部の途中から入ると彼には既に恋人が存在した。
その邪魔な恋人を追い払うため彼女を思う男に接近し2人を引き裂く策を囁いた。
作戦は成功し女はレオンハルトの前からいなくなったが彼はアルマに見向きもしなかった。
それどころか彼も同様にどこかに姿を隠してしまった。
それゆえ自力でドラゴンに接触するしかなくなり各地を探し歩いた。
しかし簡単には見つからなく数年が経過していた。
すると風の噂で彼が聖騎士になりドラゴンも聖騎士団本部にいることを知った。
なのでわざと行方不明事件を起こし彼を、こちら(森)に呼ぶことにした。
そしてやがてやってきた彼は彼女とよりを戻し一緒に来ていた。
『私はこんなに苦労して若さを手に入れ必死にもがいているというのに、若いというだけで苦労もせず見た目の美しさを保ち恋人を作り、そしてドラゴンにまで選ばれるの?』
そんな嫉みをレオンハルトとリアーナに抱きアルマは次第に2人が憎くなっていた。
村へやってきたレオンハルトに近付こうとしたが、1人の聖騎士の男が何かに気付いたのか邪魔をしアルマを離さない。
そこで黒魔法を使いゾンビを村に引き寄せ隙を見て怖いふりをしながらその場から逃げ出した。
そして森の方へと入ると持っていた水晶で確認しながらレオンハルトにまた悪夢を見せリアーナから離れるよう仕向けるが失敗、思わず手に持つ水晶を地面に投げ付けた。
『クソが!そんな女のどこがいいんだよ!』
と思い、ヒビの入った水晶を見ているとアルマを追ってきたシオンが後ろにいたことに気付いた。
* ✦ * ✦ *
パレジオンは始めから黒魔法の気配に気付いてはいたが気にせず放っていた。
その後に自身と契約したレオンハルトに近付く不穏な気配のする女がいることにも気付いた。
そして間もなくしてからリアーナが行方をくらました。
パレジオンはドラゴンのため人間の問題に首を突っ込むことが許されなかった。
そのためリアーナを傷つけたくせに今さら現れたレオンハルトを、花屋の客として様子を見に行った際にシオンは彼を睨んだのだ。
その後ゾンビが頻繁に現れ黒魔法が関係しているということで国の危機だとなり、自分も動くことにした。
どうやら以前レオンハルトに近付いていた女が関わってると知り、警戒してると案の定その女が現れた。
レオンハルトにこの女を近付けさせればリアーナが傷付くと考え、そばで見張ることにした。
そしてワザと隙を見せ女を離すと、あっさりと女は逃げ出した。
そのあとを追い黒魔法を使う所を確認したのちに、自分の存在が近くにいたことを分からせた。
「1人になってくれて好都合、僕がここにいることを皆には明かせないからね」
「何を言ってるのか分からないんですが?」
アルマは何故シオンがついてきていたことに気付かなかったのか疑問に思った。
そんなアルマの心情を表情から読み取ったシオンは呆れていた。
「まさかまだ分からないのか?僕こそがお前が追っていた存在だというのに。がっかりだよ、本当にたいした人間じゃなさそうだな」
そう言ってシオンは自身の気配を消すとアルマにだけ見えるように本来のドラゴンの姿へと戻った。
パレジオンには物事を見通す力(魔眼)があったため、始めからアルマの企みを見抜いていたのだ。
(※魔眼のことは秘密なため、普段は気付いてないふりをしている)
急に目の前に現れた大きなドラゴンにアルマは腰を抜かして驚いてしまった。
『この姿を見て腰を抜かすとはなんと情けない、黒魔法を使う相手がこんなにもちっぽけだったとは』
アルマは念話でパレジオンの言葉が伝わると慌てて立ち上がって話しかけた。
「えっと、あの、あなた様に会いたかったです!」
アルマはたどたどしくも何とかパレジオンに会えた喜びを伝えた。
『御託はいい、何が望みか言うてみよ。仮にも黒魔法を得た人間、話くらいは聞いてやる』
威厳のあるパレジオンの一つ一つの言葉に圧倒されながらも、アルマは何とか自身の望みをのべた。
『我と契約し不老不死を得たいだと?ほう、それが出来ぬ場合は黒魔法で我を操る?ぬかせ、そんな下級の悪魔から借りた黒魔法が我に通用するわけなかろう。もう目障りだ』
そう言うとパレジオンは口から炎を放ちアルマに吹きかけた。
アルマは今の若い少女の姿から本来の老婆の姿になったあと塵となって消え失せた。
『何と愚かなんだ、こんなにもあっさり消えてしまうとは』
パレジオンはそう思いながら人間の姿になった。
シオンはそばに落ちていたヒビの入った水晶を拾うと呟いた。
「あとは2人が片付けるだろう。僕はしばらく高みの見物かな」
リアーナとレオンハルトの姿が映っていた水晶をシオンは握りつぶすと、破片は光となって空へと舞い上がった。
✦ * ✦ * ✦
その頃リアーナとレオンハルトは連携しながら村に現れたゾンビを倒していた。
2人の圧倒的な強さにその場にいた聖騎士と魔法師は呆気にとられ、2人の邪魔にならないよう後ろに下がり戦いぶりを見ていた。
リアーナとレオンハルトは2人だけで残っていたゾンビを全て倒してしまった。
その後、村の墓地に倒したゾンビ達を埋葬し皆は王都へと帰還。
翌日には王が主催の夜会が開かれた。
それは無事に帰還した聖騎士と魔法師達を労ったものだった。
聖騎士団と魔法師団の全員が参加し貴族らも呼ばれ、それはそれはとても盛大なパーティーだった。
その中でもリアーナは一際目立っていた。
ドレスを着こなし麗しいくらいに綺麗で魔法の才も凄いとなり、聖騎士の男達はリアーナに近付き声を掛けたくてウズウズしていた。
だがレオンハルトはそれを分かっていたのかリアーナのそばにピッタリとくっついて離れなかった。
「なぁ知ってたか?この間の剣術大会で薔薇の花束を受け取ったの彼女だったらしいぞ」
そんな時、会場の中ではリアーナが噂のレオンハルトの恋人で薔薇の花束を受け取ったのも彼女だったという真実が囁かれていた。
どうやら今回合同で森へ向かった魔法師にリアーナのことを聖騎士が尋ね、そこから真相が出回ったようだ。
その話を別の聖騎士から聞いたスコットは最初から自分の出る幕はなかったのだと悟った。
* ✦ * ✦ *
それから数ヶ月が過ぎた頃、レオンハルトとリアーナの婚約式が開催された。
2人は互いにパレジオンに頼みリアーナはブルーダイヤモンドのブローチを、レオンハルトはピンクダイヤモンドを指輪に加工した物を用意し互いに贈りあった。
パレジオンは内緒で希少なダイヤモンドの宝石を用意させられ、2人は似た者同士だと思った。
それらを身に着け白い華やかな衣装を身にまとった2人は、とてもお似合いに見えた。
そして2人の婚約式を執り行った王が招待した者達に向けて宣言した。
「余はこの2人に国を継いでもらおうと思う」
それは新しい時代の幕開けだった。




