⑤.運命の道
数日後、レオンハルトは聖騎士団の団長に呼び出されていた。
どうやら先日の剣術大会でレオンハルトが薔薇の花束を渡した人物が学園で優秀(特に魔法)だったリアーナだと分かり、彼女に魔法師団からの誘いが来ていると説明を受けた。
その日、家に帰ったレオンハルトはリアーナに事の経緯を話し「俺は金も十分貯まったしそろそろ聖騎士やめて、リナと郊外の家に帰ろうって言うつもりだった。なのに…」と悲しげな表情をしながら伝え「だからリナが嫌なことはしなくていい」と続けた。
しかしリアーナは心のどこかで分かっていた。
ドラゴンであるパレジオンに選ばれたレオンハルトが聖騎士をやめてはいけない、そして自分も初めからパレジオンに好かれていた、きっとこれが運命なんだということに。
「私、魔法師団に入る」
そう答えたリアーナにレオンハルトは諦めたような顔をした。
レオンハルトも本当はこうなることが分かっていたのだ。
だからこそ郊外の家へ戻ろうとしていた。
ドラゴンと契約している自分と出会ってしまったことで、力のあるリアーナにも同じ[運命=苦悩の道]を辿らせてしまったとレオンハルトは責任を感じていたのだ。
「そんな顔しないで、私達は2人で一つでしょ?レオのいる所が私の居場所だよ。だから気にしないで」
と悲しげな顔をするレオンハルトをリアーナは抱き締めた。
「レオが嫌だって言っても私は離れないからね」
「俺だってリナを離したくない」
そう言ってレオンハルトもリアーナを抱き締め返した。
「私が選んだことだからレオは気にしなくていいの、だからずっと一緒にいよう。ね?」
「分かった。だが無理はするな。辛い時はすぐやめろ、いいな?」
リアーナは抱き締めていた手を緩めレオンハルトの目を見つめた。
「分かりました、レオも無理したらダメだよ」
「あぁ、分かった」
* ✦ * ✦ *
その夜、隣で眠るリアーナの寝顔を見ながらレオンハルトは聖騎士団にいるパレジオンに念話で話しかけた。
『おい聞こえるか、何でお前は俺と契約した?答えろ』
『唐突だな、いずれ聞かれるだろうとは思っていたが』
『いいから早く答えろ』
『ただの退屈しのぎた。1人でいることに飽きただけだ』
『それは建前だろ、本当のことを言え』
『お前がこの世界に生まれた時、私はこの子供と契約するために存在すると思ったからだ』
『何だそれ。ならリナとはどうして契約しない?お前は俺よりリナのことが好きだろ?』
『そうだな、だがお前がリアーナに思う感情と私の感情は少し違う。それに彼女とは契約しなくてもお前は離さないだろ?だからだ』
『つまりリナのそばを離れるつもりはないってことか』
『そうなるな』
『それ聞いて安心した、お前はそのままリナを守れ。分かったか?』
『ふん、私は最初からそのつもりだ。それから言っておくがリアーナが決めたことにお前は関係ないぞ。だからごちゃごちゃ考えてないでさっさと寝ろ、レオンハルト』
『うるせぇ』
そこでレオンハルトは念話を終了した。
『まぁお前のことは俺が守るけどな』そう思いながらレオは目の前のリアーナを抱き寄せ閉じていた瞼にキスをした。
するとリアーナが何かの気配を感じたのか目を開けた。
「起こしたか?悪い」と言ってレオンハルトはリアーナの頭を撫でた。
「眠れないの?」
「少し考え事してただけだから気にすんな」
リアーナはそれを聞き、レオンハルトが自分と同じ運命を辿らせてしまったと思っていることに気付いた。
しかしこれ以上何かを言っても余計に考え込むだけだと思い、リアーナは少し身体を上に移動すると彼の頭を自身に引き寄せ、包み込むように頭を優しく撫でた。
『きっとリナは全部お見通しなんだな』とそう思いながら、レオンハルトはリアーナにすがるように抱き着いて目を閉じた。
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数ヶ月後、今日は聖騎士団と魔法師団の合同訓練の日で、聖騎士団本部の演武場に『聖騎士』と『魔法師』が勢揃いしていた。
聖騎士は男性ばかりだが魔法師にはちらほら女性の姿もあり、その中にはもちろんリアーナの姿もあった。
魔法師団の本部は聖騎士団本部のすぐ隣にありこうして時々合同で訓練をしていたのだ。
「近頃ここ王都で人が消える事件が多発している。特に若い女性ばかりが突然姿を消しているようだ。それゆえ今後今まで以上に我々の力が必要となるだろう。今回の訓練は特に身を引き締めて取り組むように、以上だ」
と聖騎士団の団長が皆の前で挨拶をし合同訓練が始まった。
リアーナとレオンハルトは朝家を出る前に、今日の訓練中は私情を挟まないようにしようと話していた。
「リナのそばに聖騎士の奴が寄ってきたら断るんだぞ?だがもし追い返せなかったらその時は俺に頼ってもいいからな」
「分かった、だけどそれはレオもだよ」
「俺にはリナだけだから心配すんな」
自分にやきもちを妬いてくれる可愛いリアーナの頭をレオンハルトは撫でた。
「本当に分かってるの?」まるでさらっと簡単に受け流すように答えたレオンハルトの言葉にリアーナは少し不安になった。
するとレオンハルトはリアーナの不安を感じ取ったのか「もしも俺がリナを裏切ったら、リナが1番酷いと思う方法で俺を裁け」と言った。
「そんなこと言っちゃっていいの?」
「あぁ、構わない」
「分かった、レオを信じる」
「俺もお前を信じてる」
そう言い合うと2人は抱き合いながらキスをした。
その後、訓練は予定通り順調に行なわれた。
そんな中で聖騎士の『スコット』は、魔法師団の中に一際綺麗な顔立ちの女性を見つけていた。
休憩に入ると彼女はそそくさと何処かへといなくなり、声をかけたかったスコットは急いであとを追いかけた。
『こっちに来たと思ったんだけどな』
すると廊下の先のちょっとした休憩スペースに佇む彼女を見つけ声をかけようとした時、スコットは彼女が誰かと話しをしていることに気付いた。
それは先日、聖騎士団の剣術大会で優勝したレオンハルトだった。
そうリアーナとレオンハルトは普段あまり人が来ることのない死角のこの場所で、休憩中に会おうと約束していたのだ。
だが2人の関係を知らないスコットは剣術大会でレオンハルトに負けたことを含め、自分が目を付けていた彼女とレオンハルトが親しげに話していたことでさらに妬んだ。
『何でいつもアイツばっかり…!』そう思ったあとスコットはその場を去った。
「レオ?どうかした?」会話の途中でレオンハルトがふと何もない壁の方を凝視し、リアーナはそれが気になったが彼は「いや、虫がいただけだ」と答えた。
リアーナからは何も見えなかったが、レオンハルトの方からは誰かがその場を去る影が見えていた。
演武場へと戻ったスコットは比較的仲の良い副団長の所へと行き、レオンハルトが魔法師の女と2人きりでいたと話した。
剣術大会で薔薇の花束を渡すほどの恋人がいながら休憩中に魔法師の女と仲良くしていたと告げたのだ。
その話を聞いた副団長はその日の訓練後、さっそく団長の下を訪ねスコットから聞いたレオンハルトのことを報告した。
団長室から出てきた副団長に、どうだったかとレオンハルトは処分されるのかとスコットが聞くと、副団長は全く取り合わなかったと答えた。
それどころか「問題ない、気にする必要はない」と団長は言っていたと話し、副団長はこれ以上この件に関わらないと言ってその場を離れた。
しかしスコットは納得せず何故レオンハルトだけ認められるんだと憤りを感じ、レオンハルトは部隊長に相応しくないとこの事を周囲に言いふらした。
そんなレオンハルトの噂は聖騎士団の中で広まったが、本人は全くそのことを気にしていなかった。
むしろ団長の方が気にして団員達に自分から注意しようかとレオンハルトに聞いたが「別にいいです、やっかみ何てどこでもあるんで」と言い特に噂の否定も肯定もしなかった。
ドラゴンに選ばれた少年として不特定多数の人間から恐れられ中傷され生きてきた彼にとって、この程度の噂は何のこともなかったのである。
『どうせあの時リナの後ろをついてきた奴の仕業だろ、気にする方がそいつの思う壺だ』
とレオンハルトは考え、直接本人にも言えない小物の相手など端からしていなかった。
それよりもリアーナが自分の下を去ってしまうことの方が、レオンハルトには何倍も怖かった。




