③.腕の中
午後になりリアーナは花屋の店員として店で働いていた。
その近くでレオンハルトはリアーナを見守りながら時々手伝ったりもしていた。
そんな時、1人の客が店にやって来た。
その客は月に数回やってくる常連で、彼はいつも同じ花をこの店で買っていた。
「いらっしゃいませシオンさん、今日も紫苑の花ですか?」
「あぁ、お願いする」
「分かりました、お包みしますので少々お待ちください」
リアーナは紫苑の花を手に取り時折その客と世間話をしながら花を紙に包んだ。
彼は頭からローブを被りいかにもお忍びで来ているという風貌だった。
レオンハルトはローブで隠れてよく見えない彼の顔を疑うようにじっと見ていた。
すると会計を済ませ花を受け取った彼は、近くにいたレオンハルトと目を合わせると鋭く睨みつけてから店せを出ていった。
彼の顔は自分よりも少し年下のようにレオンハルトには思えた。
レオンハルトは彼が店を出るとリアーナに「あれは誰だ」とすぐに聞いた。
あの人は自身の名の花を買いに来る常連の客だとリアーナは説明した。
「あの目、どっかで見たことあるような気がすんだよな…」
「そうなの?まぁ確かに庶民って感じではないよね」
「どんな奴か聞いたことないのか?」
「詳しくは聞いたことないけど、前にいつも同じ花を買うのは何故か尋ねたら、会えない母を思い出すからって言ってた」
「適当な理由言ってるだけだろ、お前に会いに来てるのは見え見えだったぞ」
「私は本当のことだと思ったけどな」
「リナは優しいからな」
レオンハルトはリアーナを抱きしめようとしたがリアーナにまだダメだと言われ距離を取られた。
その日、店を閉めたあとリアーナとレオンハルトは花屋の女主人から夕食に誘われ、共に食事を取りながらリアーナはこの街を出るつもりだと話した。
女主人はいつかはそうなるだろうと思っていたと語った。
どうやら見た目の美しさと佇まいから平民ではないこと、そしてそんなリアーナを探している人物が何処かにいるはずだと思っていたと続けて話した。
* ✦ * ✦ *
翌日の早朝、別れが辛くなるというリアーナの要望を聞き2人はこっそり部屋を抜け出し花屋をあとにした。
部屋のテーブルの上には感謝の手紙と頂いていた賃金を残した。
リアーナは賃金のほとんどに手を付けておらず、足りないぶんはレオンハルトから借りた。
乗合の馬車を乗り継ぎ王都へと来た2人は、さっそくレオンハルトが借りている家へと向かった。
家は集合住宅だったが中はとても広々としていた。
「まさかたった数年でここまで出世してると思わなかった」家の中の様子を見たリアーナは驚いたようにそう話した。
「まぁな」そう答えながらレオンハルトは家に着くなり部屋の奥の引き出しを開け、中にしまっていた物を取り出しリアーナのそばに戻った。
するとリアーナの左手を取り小指にゴールドリングをはめ「お帰り、リナ」と言った。
リアーナはそれを聞き「ただいま、レオ」と返し、2人はその場で抱き合った。
その夜ベッドに入ったレオンハルトは、すぐそばで眠るリアーナの寝顔をしばらく見ていた。
『リナが俺の腕の中に戻ってきた、もう絶対に離さない』そう心の中で思いレオンハルトはリアーナに寄り添いながら眠りについた。
✦ * ✦ * ✦
翌日、聖騎士団に出勤するレオンハルトを見送ったリアーナは、部屋の中に置いてあった全身を映す鏡の前に立っていた。
久々に魔法を使ってみようと思ったからだ。
リアーナは長い髪を短くし男装姿になると聖騎士団の制服に身を包んだ。
『変装するのは初めてだけど、うまくいったわ。そうだ瞳の色も変えた方がいいわよね』
リアーナの瞳はとても珍しい濃いピンク色だったため赤い色に変えた。
『これでよし』リアーナはさっそく身を隠す魔法を使いながら近くの聖騎士団の本部へと向かった。
そして厩舎横のとても広い草原へと行くと、そこにはドラゴンであるパレジオンがのびのびと寛いでいた。
リアーナは隠していた姿を現し目の前に行くと『ただいま、パレジオン』と念話で話しかけた。
『お帰りリアーナ、来るのを待っていた』とパレジオンは返し彼女に顔を寄せた。
リアーナはパレジオンの顔を両手で撫でながら少し話をしたあと、聖騎士団の中にある訓練場へと向かった。
レオンハルトの姿を遠くから見ようと思ったからだ。
『あっ、いたいた。レオ格好いいから目立つな』
レオンハルトは聖騎士団の中にいくつかある部隊の1つの部隊長になり、今は部下の訓練の様子を見守っていた。
その様子をリアーナはこっそりと覗いて見ていると不意にレオンハルトと視線が交わった。
『まさかバレた?変装してるのに?聖騎士1人が訓練を見学してたって問題ないわよね?』
と思ったが、あまりにも見てくるので声をかけられる前に退散しようとリアーナは奥へと身を隠した。
『バレてないわよね?さっさと帰ろう』そう思いながらリアーナが長い廊下を歩いていると、横から現れた人物にリアーナは声をかけられた。
「お前、見ない顔だな。ここで何してた?サボりか?所属部隊と名前を言え」
と聖騎士の1人に詰め寄られた。
『部隊名なんてしらないわよ。こんなことならレオに聞いておけばよかった⋯』
と考え、リアーナはどう答えようかと迷ってしまった。
すると「なぜ黙ってるんだ?」と怪しまれそうになった時、その後ろからもう1人聖騎士が現れ「何してるんだ?」と声をかけてきた。
リアーナに詰め寄ってきた聖騎士が声をかけていた別の聖騎士の方を振り返り「副団長、サボってるやつを見つけました」と言ってリアーナの方を向いたが、そこには誰もいなかった。
「誰もいないじゃないか、スコット」
「えっ、どこ行ったんだ?!」
そう2人が話している中、リアーナは素早く身を隠し聖騎士団の本部を抜け出した。
夕方になりレオンハルトは家に戻るなり出迎えたリアーナの手を掴み離さなかった。
「リナ、今日1日なにしてた?」
「なにって、ずっと家にいたけど?」
「聖騎士団に今日、見慣れない赤い目の奴がいたって騒いでるのがいた。俺も遠くからだったがそいつを見た。まさかリナじゃないよな?」
「えぇっと…」
リアーナはレオンハルトに疑いの目で見つめられいたたまれなくなり「ごめんなさい」と謝った。
久しぶりに魔法を使ってみたくなり聖騎士に変装しパレジオンに会いに行ったこと、その後に訓練場で遠くからレオンハルトを見ていたと白状した。
「本当はレオをもう少し見てたかったけど、レオずっとこっちを見てるからバレたかなと思って帰ろうとしたの。そしたら廊下で聖騎士の人に会っちゃって…」
「ったく、何してんだよ…」
レオンハルトは聖騎士は男しかいないため女のリアーナには危険だからもう来てはダメだと言った。
「遠くからでも俺にはリナだって分かったぞ」
「変装してても?」
「そうだ、また部隊どこだとか名前は何だって聞かれたら困るだろ?」
「そうだね。分かった、もう行かない」
例え男に変装していても可愛いリアーナを男だらけの所に行かせることがレオンハルトは嫌だった。
「分かればいい、それから赤い目も珍しいから次に変える時は無難な茶色にしろ」
「レオが言うならそうする、そういえばレオの青い瞳も珍しいよね?」
「あぁ、青より水色が多いからな」
リアーナはレオンハルトの頬に手を伸ばし目を見つめていった。
「私、レオの目を見てると安心する。この色大好き」
「俺はリナの目を見てると嬉しくなる、俺の方がお前を好きだ」
そう言ってレオンハルトは目の前のリアーナを抱き締めた。
その後2人でテーブルに着き夕飯をとっていると「でも残念、せっかく聖騎士の格好いいレオを見ようと思ったのにな」とリアーナが話した。
それを聞いたレオンハルトは「そういえば言うの忘れてたな。今度の日曜に聖騎士の剣術大会がある、招待された奴しか見に来れないがリナ来るか?」と聞き、リアーナはすぐに答えた。
「行きたい!」




