①.唯一無二
『あなたの名前はパレジオンよ』
『パレジオン?』
『そうよ、早く大きくなってこの世界を見守るのよ』
『うん、分かったママ!』
とても美しく綺麗な女性は、ドラゴンの子供を膝に乗せ頭を撫でながら優しく話しかけていた。
だがいつの間にか女性はいなくなり、ドラゴンは一人ぼっちとなった。
『えっ?ママ?どこに行っちゃったの?ママ〜!!』
ドラゴンの子供は必死にその女性を探したが、結局どこにも彼女の姿はなかった。
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ドラゴンは遥か昔から存在し世界を見守ってきたが、人間とは一線を引き関わらないようにしてきた。
そんな中、平民として生まれた『レオンハルト・フォスラ』は5歳の時に灰青色のドラゴン『パレジオン』に選ばれ契約をした、唯一の人物となった。
大きく恐ろしいドラゴンを操るそれゆえ人々からレオンハルトは恐れられ、両親も不気味がり彼に近寄らない。
それゆえ王からもらった金銭で郊外の外れに大きな家を建て、ドラゴンと共に使用人数名を雇い住んでいた。
7歳の時、近くの家に越してきた『リアーナ』という少女がいた。
彼女はドラゴンであるパレジオンを怖がることもなく仲良くなり、レオンハルトはそれを見て自分としか会話をしなかったドラゴンが彼女にも心を開いたことに驚いた。
彼女は両親が事故で亡くなり、叔父夫婦のところに預けられていた。
どうやらリアーナの両親が事故にあった際に歴史的に重要な建造物が破損し、その修理代に彼女の父が残した遺産を当て何とか賄えたが、弟である叔父には侯爵という爵位しか相続されなかった。(叔父にとって兄は目の上のたんこぶだった)
その腹いせに厄介者となったリアーナを、叔父夫婦は虐げていた。
レオンハルトはリアーナと話すことで、彼女がカリスタ侯爵の息女だったことを知る。
彼女の父親とはドラゴンに選ばれた少年として王都の城に招待された際のパーティーで会っていた。
誰も自身に寄り付こうとしない中で彼女の父親だけは優しく声をかけてきたのだ。
レオンハルトはその印象から彼の名前を覚えていた。
レオンハルトはそのこともありリアーナのことが気になり、パレジオンを通して会っていくうちにやがて好きになり、自分を理解してくれる唯一無二の存在として彼女を大事にしようと思った。
そしてリアーナの事情を知ったレオンハルトは、すぐに彼女を助けたくなり自分の家で一緒に住もうと提案。
リアーナの叔父は勝手にしろとだけ言い反対しなかった。
叔父はドラゴンの契約者であるレオンハルトにリアーナを虐待していたことを知られ恐れたようだった。
2人は共同生活を始め、昼は一緒に家庭教師から勉強を教わった。
執事はレオンハルトの気持ちに気付き秩序を守らせた。
数年後、2人は家庭教師の勧めで王都の学校へ行き、中等部から通い初めた。(学校は中高一貫校で寮があった)
そこにパレジオンはついていかなかったが休みの日に呼び出し、何度も背に乗り共に遠くへ遊びに行った。
こうして2人は心の距離を縮め、やがて恋人同士となる。
丘の上で2人草むらに座ると、レオンハルトはおもむろにポケットから小さな箱を取り出しリアーナの前にそれを差し出した。
リアーナが箱を受け取り蓋を開けると中には『ゴールドリング』が入っていた。
レオンハルトは「着けてやる」と言い箱から指輪を取り出しリアーナの左手の薬指にはめた。
リアーナは「ありがとう、綺麗」と言ってとても喜んだ。
そんな彼女には隠れた才能があった。
空気中に漂うマナを自在に操ることが出来たのだ。
それは魔法と呼ばれるものでリアーナは魔法の才を高く評価され、レオンハルトも剣の腕を認められ2人は学校の中でも目立つ存在になっていった。
実はパレジオンは初めから2人の才を見抜き、そばに置いていたのだ。
特にリアーナはまるで自身の創造主である、女神のようだと思っていた。
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そこから数年後、2人は高等部の卒業が近付いていた。
レオンハルトにもらったゴールドリングは薬指に入らなくなり、今は隣の小指(左手)にはめられていた。
身を隠し寮の部屋に訪ねてきたリアーナと一緒に部屋の風呂に入り、ベッドの枕を立てそこに寄りかかりながら2人じゃれ合って隣に座り彼女の話に耳を傾け、そのまま横になり抱き合って共に眠る幸せをレオンハルトは知ってしまった。
そんな日々が続けられるようにと願い、レオンハルトは高等部を卒業後リアーナにプロポーズをしようと考えていた。
『指輪も買い直さないとな』とレオンハルトは小指につけていたリアーナのゴールドリングを見ながら思った。
実はそれぞれにリアーナは『魔法師団』から、レオンハルトは『聖騎士団』から卒業後に来ないかとの打診があったが、2人はあまりそこに興味がなかった。
そのため卒業後は郊外の家へ帰るつもりだった。
だが綺麗に成長したリアーナに強く好意を抱いている、同じクラスの男がいた。その名は『ラルフ』。
卒業後、郊外に戻ることを知った彼はリアーナを何とかして王都にこのままとどめようと思い、まずはレオンハルトから離そうと考えた。
レオンハルトには別の女がいるとリアーナに嘘を言い、そしてリアーナに別れを告げその女の方を選ぶと彼は話していたと。
その証拠に時々2人が会っている場所があるから、そこへ行こうと言われリアーナは半信半疑でラルフについて行った。
すると夜に同じクラスの女子(アルマ)と2人きりで話すレオンハルトの姿を見つける。(2人がまるで至近距離にいるように見える角度を狙い、そこからリアーナに見せた)
「あの2人、いつもここで会ってるの?」
「そうだよ、時々この道を通るんだけど、よく見かける。ね、本当だったでしょ?だからアイツのことは諦めなって。次は僕と付き合わない?」
「教えてくれて、ありがとう」
自身の提案には答えず暗い表情になり寮の方へと戻ったリアーナがラルフは気になった。
『今日のところはほっとこう。今は傷付いてるだろうけど、すぐに僕が慰めてあげるからね』
そうリアーナの後ろ姿を見ながらラルフは思った。
『俺にはリナだけだと言ってたのに、きっとあの人にも同じことを言ってたんだ。⋯⋯⋯⋯⋯結局私は誰にも愛されない』
部屋に戻りながらリアーナはそう思い、彼女の心は完全に折れてしまっていた。
その夜リアーナは卒業目前にも関わらず、誰にも知られずに学校から姿を消した。
レオンハルトからもらったゴールドリングだけを部屋に残して。
リアーナがいなくなりレオンハルトは念話でパレジオンに居場所を聞いたが、知らないと言われたため授業にも出ず王都の街を必死に探し歩いた。
そんなレオンハルトを見てラルフは良心がとがめ、あの日レオンハルトと女生徒のアルマをあの場所に呼び出したのは自分で、2人が話しているところをリアーナに見せ、そして2人は前から会っていたと嘘をついたと全てを告白。
「だけどまさか、それでいなくなるとは思わなかったんだ…」
「顔を上げろ」
レオンハルトは下げていた頭を上げたラルフの顔を一発殴り、自分も卒業はせず学校から去った。
その頃リアーナは王都から遠く離れた街に宿を借り、部屋に入るとベッドの下に座り込んだ。
そのまま数時間、ただ涙を流しながら入り口のドアを眺めていた。
リアーナは愛するレオンハルトを忘れるため、自分が何者か分からなくなる魔法を自身にかけることにした。
そうすれば彼を愛していたことも忘れられると思ったからだ。
そして同時に魔法の使い方も分からなくなるようにし、記憶の蓋を閉じた。
「さようなら、…レオ」
そう呟いたリアーナは目を閉じ床に倒れ込んだ。
リアーナにとってもレオンハルトは互いを理解し合える唯一無二の人だった。
レオンハルトから離れたあと場所を知られたくないという願いを聞き入れ、決してリアーナの居場所をパレジオンは誰にも言わなかった。




