⑤.優しい笑顔
数日後、リアーナは学校で授業を受けていた。
そしてレオンハルトが懸念していた通り、ダグラスはリアーナに接近していた。
今まで自分を無視していたダグラスが急に距離を縮めようとしてきたことにリアーナは物凄く驚いていた。
『婚約者じゃなくなった途端に近付いてきて、一体なんなの?』とリアーナは思い、正直そんなダグラスに呆れ相手にしていなかった。
だがこれまで数々の女性と浮名を流してきたダグラスは自分はモテると思っていたため、自身に冷たい態度を取るリアーナは拗ねているだけだと勘違いしていた。
『俺が今まで素っ気なかったからイジケたか。あの皇太子も認めた女だ、俺のものにすれば泊がつくだろう』と考えていた。
パーティーの日のレオンハルトの従者の忠告もただの挑発だろうと思い、授業を終えたリアーナを待ち伏せしダグラスは声をかけた。
リアーナはダグラスを見つけるとその場を去ろうとしたが目の前に立たれ進めなくなってしまった。
そのため仕方なく「何でしょうか」と目の前のダグラスに真顔で話しかけた。
「そう怒るなよ、俺はまた婚約してやってもいいって言ってるだろ」
「私には婚約者がいます、あなたとはしません」
「皇太子と結婚してもお前は沢山いる妃の中の1人にすぎない。それよりも俺を選ぶ方が賢明だと思わないか?」
リアーナはダグラスが自分を選ぶべきだと言ってひかず話が通じないため、「あなたとは婚約しません」と伝えることに専念した。
ダグラスは何を言っても表情を崩さず、真っ直ぐに見つめてくるリアーナが意外だった。
『ただ大人しいだけの女かと思ったが違ったようだ』とリアーナの中には揺るがない強さを持っていると感じた。
しかしそんなことで怯むくらいならこの男は最初から声をかけていないのである。
リアーナに触れようと肩に手を伸ばした瞬間、横から「触るな」と声がし手を『バシッ』と払われたと思ったら目の前にレオンハルトが現れリアーナを守るように自身に抱き寄せた。
そしてすぐに「俺はリナしか娶らない、もちろん皇妃もリナだ」と言ってレオンハルトは鋭い視線をダグラスに向けた。
突然現れたレオンハルトにダグラスは焦った様子で返事を返した。
「…これはこれは皇太子殿下、国に帰ったと思ってましたよ」
「帰ったが戻ってきた、リナに会いたくてな」
そう言いながらレオンハルトは抱き寄せていたリアーナと目を合わせ2人は微笑んだ。
そんな2人を目の前で見せつけられたダグラスは苛立ったが、リアーナに話しかけるレオンハルトの言葉に絶句した。
「明日から俺もこの学校通うことにした」
「えっ、通う?」
「そうだ、その手続きで一回帰って、またこっち来た。だから」
そう言うと動揺した様子のダグラスの方を向き「これからは誰もリナに近付けさせない」とレオンハルトははっきりと言いきった。
それを聞いたダグラスは苦笑いをしながらその場を去った。
その後レオンハルトはリアーナを家まで送ると言って2人は馬車に乗り込んだ。
レオンハルトは自国へ帰ったあとすぐに皇帝に会い留学の許可を取り、諸々の手続きを済ませて来たことを隣に座るリアーナに話した。
「それでリナに会おうと思って探してたらアイツと話し出したから、様子見るために隠れて聞いてた」
「そうだったんだ、じゃあこれから毎日レオと会えるの?」
「そうだ、クラスも同じだ」
「嬉しい!だけどそれは私のためだよね?」
「それもあるが、単に俺がリナと居たかっただけだから気にすんな」
「ありがとう」
リアーナはそう答えたが自分のせいでレオンハルトに迷惑をかけていると思い何処か晴れない顔つきだった。
「あいつなら近いうちリナにも近付かなくなるから心配すんな」
まるで何かを知っているかのような口振りのレオンハルトにリアーナは不思議に思った。
2人はリアーナの家に着いても離れず手を繋ぎながら庭で仲良く話ていた。
「この間別れたばかりなのに、またすぐに会えると思わなかった」
「リナと離れたくなくて用事だけ済ませてきた」
そんな見つめ合って話をしていた2人にリアーナの父が帰宅し声を掛けた。
すると家の中に入り同じテーブルに着き3人で夕食を取ることになった。
食事をしながらレオンハルトはリアーナの父に何故ここにいるのかと事情を聞かれ、リアーナと一緒にいたく留学してきたと正直に説明した。
帰り際、見送りに外に出たリアーナはレオンハルトに抱き寄せられ「お前の父さん、怖かった。食事の味しなかった」と耳元で呟いた。
気丈に振る舞っているように見えたレオンハルトは内心焦っていたようだ。
まるで甘えるように自身を抱き寄せるレオンハルトにリアーナは手を伸ばして頬に触れた。
優しく頬に触れてきたリアーナのその手をレオンハルトは取ると指にキスをした。
「リナは優しいな」
「え、私なにも言ってないよ?」
「言わなくても分かる、俺を心配したんだろ?」
「そうだよ」
そう答えたリアーナをレオンハルトは抱き締め、2人は「また明日」と言って別れの挨拶をした。
そんな2人を後ろからこっそり覗いて見ていた父は、互いに深く想い合ってることに気付いた。
* ✦ * ✦ *
翌朝リアーナが学校へ向うと入り口付近でレオンハルトが彼女が学校へ来るのを待っていた。
2人は合流すると手を繋ぎながら教室へと向かい、そしてレオンハルトの言った通りダグラスはリアーナのそばへ来なくなりいつの間にか学校も辞めていた。
あの日の翌日、両親と共に王城に呼ばれたダグラスは国王直々に女性関係について問われた。
どうやら責任を取らなければいけないことから逃げていたらしく、それは貴族として恥じる行為だとして処分を受けるか又はきちんと責任を取るかを強いられ、ダグラスは責任を取る方を選び3人の妻と子が出来たと後日、学校中噂になっていた。
だがそれは全てレオンハルトの仕業だった。
ダグラスの内情を調べた際に発覚したこの事を国王に報告し裁きを下させ、そしてことの全てを学校中に広め居場所をなくしたのだ。
「リナを軽んじた報いだ、これで王都にまで噂は広まるだろう」
「えぇ、ですが身に制裁を加えないとは、とてもお優しいですね」
「他国の人間だからな、そこは譲歩した。どうせこれから家族を養ってくんだ、家の手伝いに専念出来て良かっただろ」
「そこまでお考えとは、流石でございます」
そうジェイクと話しをしながらレオンハルトは支度を済ませて部屋を出た。
「いってらっしゃいませ」ジェイクはお辞儀をしながらレオンハルトを王城から送り出した。
学校は王城のすぐ隣にありレオンハルトはいつも歩いて登校していた。
するとレオンハルトが来るのをリアーナが学校の入り口で待っていた。
「何でいるんだ?」
「いつもレオが私を待ってくれてるから、今日は私が待ってたの」
そう笑顔で言ったリアーナはレオンハルトの手を自分から繋いだ。
「行こう」そう言って歩み出したリアーナの横顔を見ながらレオンハルトは思った。
『この優しい笑顔を守るためなら、どんなことでもしてやる』
そう考えているとリアーナが視線を合わせ「何で黙ってるの?」と聞いた。
「初めて会った時からずっと俺にタメ口だなと思って」
「今さら?嫌なら直す?」
「それはいい、俺に遠慮なく話すのリナしかいねぇなと思って」
「皇太子殿下に気軽に話しかける人なんて、いないでしょ」
「まぁな。リナはそのままでいろよ、なんなら好き勝手してもいいぞ」
「私が我がままになってもいいの?」
「あぁ、何でもしてやる。欲しいものはあるか?」
「欲しいもの?う~ん、そうだな〜」
リアーナはそう言いながら何かを考えるフリをした。
レオンハルトはリアーナがねだった物なら何でも用意してやろうと思った。
するとリアーナは立ち止まりレオンハルトと目を合わせた。
「だったらレオがいい。ずっと私のそばにいて、離れないで」
突然のことでレオンハルトはその言葉に驚き「何をいうかと思えば、こんな所で…」と言って照れた表情をし目の前のリアーナを抱き締めた。
「急に可愛いこと言うなよ」
「だってレオがいれば、私はそれだけで十分だから」
レオンハルトは抱き締めていた手を緩めるとリアーナと目を合わせた。
「俺もリナがそばにいてくれれば、それだけでいい」と言いレオンハルトはリアーナとオデコをくっつけた。
本当はそのまま目の前の可愛いリアーナにキスをしたかったが我慢をし、周りにちらほらいる生徒達に聞こえないよう小声で話し掛けた。
「今日、学校終わったら俺の部屋こないか?」
「レオの部屋に?」
「そうだ、お前の父さんに泊まってもいいか聞いてから来い。前と同じ部屋だから、場所は分かるだろ?」
「場所は分かるけど、泊まり?」
「今日はリナと過ごしたい。焚き付けたのはお前だからな。来るなら覚悟してこい。分かったか?」
とレオンハルトに言われたリアーナは頬を少し赤くしながら「分かった」と答えた。




